第105話 帰省⑮

 二人の剣士の決闘の後。

 ビーチは二人の剣士の握手会会場となった。


 観衆は二人の英雄を称え、老若男女問わず長蛇の列となっていた。


 一方で、クロード、カイルの列の両脇にも似たような列が出来ていた。 

 そう、なぜかルーシーとソフィアも握手会に参加させられていたのだ。


 ちなみにベアトリクスの差配である。


「しかし、ここまで人気者になるとは思わなんだの。まあ、お主らの漫才も中々に好評だったしな。あんがい芸人に向いておるやもしれんぞ?」


「ぐぬぬ、あれは漫才じゃない。お前の無茶振りのせいだぞ。それでも一生懸命やったのだ、だが準備が足りなかっただけだ」


「ふふふ、それにしては堂々とした喋りっぷりだったじゃないか? それにだ、相変わらずルーシーの喋りは笑えるしのう。ある意味、ツッコミのソフィアちゃんと名コンビかもしれんな。ほれ、ファンが来ているぞ?」


 クロードとカイルの握手会に行列ができるのは当たり前だが、いつの間にやらソフィアとルーシーにも同様の数の行列が出来ていた。


 お客の年齢層は様々だ、小さな子供は「ルー姉、面白かったよー」と憧れの眼差し。

 年上の見知った人達は「身体は大人になったが……中身はそのままだな」と茶化すような態度。


 地元ではちょっとした有名人、ルーシーの凱旋なので、グプタの民のファン層は厚いのだ。


 だが同様にソフィアの行列も凄かった。


 ルーシーとしても納得だ。ソフィアは英雄王カイルのご息女。そして、ルーシーも認める美少女だ。

 そのせいか客層も男性がほとんどであった。


 少し気持ち悪い観客もいたが、何も知らないルーシーが軽蔑しても失礼なので心の奥にとどめておいた。 



 行列が収まるまで小一時間ほどの時を要した。


 自分が人気者になったと勘違いしたルーシーは満更でもない表情だった。


「ソフィアさん、お疲れさまでした。私達、名コンビなようねっ!」


 まるで太陽の様にニコニコ顔をしたルーシー。

 それに対して愛想笑いに疲れ果てたソフィアはへとへとになりながら答える。


「もう、ルーシーさんったら。私達、笑いものになってた気がしますのに……。いいえ、そうね。ルーシーさんが喜ぶならそれでもいいかな……」



「ルー。大変だったな。すまなかった。俺の下らないプライドでお前をこんな茶番に付き合わせてしまった」


 クロードは自分のせいで見世物になったルーシーに罪悪感を感じていた。


「いいえ、お父様。私はお父様が下らないなんてこれっぽっちも思っていません。それに、初めてお父様の本気を見れてとても嬉しかったです。

 あと、すっごくカッコよかった。ソフィアさんもそう思うでしょ? あ、もちろんカイルさんも素敵でした!」


 少し照れくさそうにカイルは答える。


「ははは、ルーシーちゃん。ありがとう。……ところでソフィアは俺に何も言ってくれないのかい?」


「うーん。そうですわね。いろいろ言いたいことはありますけど、とりあえずは素敵でした。

 でも砂場での戦闘には慣れていない様子でしたね。お父様も修行が足りないようで。これでは後でお母様のお叱りを受けてしまうでしょう。……でも、とてもカッコ良かったですわ」


「そうか。相変わらず厳しいな。でも、ありがたく受け止めるよ」


 カイルとクロードの決闘は無事に終わった。

 大多数の観客は撤収し、ビーチは少し静かになった。


「おーい! ルーシー。今日は泳がないのか? もうすぐ日が暮れちまうぜ!」


「そうだよ、姉ちゃんもソフィアさんも、こっちへおいでよ!」


 ジャンやレオンハルトの声が聞こえる。


「おっとそうだった。日が傾き始めている。泳げる時間はあと一時間ってところか、ソフィアさんはどうする?」 


「もちろん、海を堪能したいですわ。せっかく水着を着たのに海に入らないなんて有り得ませんわ!」


 ルーシーはソフィアの手を取り、波打ち際まで走っていった。


「ルーシー! ソフィアさんとセシリアさんは今日が初めての海なんだから、あまり無茶させちゃだめよー! あと、これからお母さんたちは買出しに行くからねー!」


 後ろから聞こえる母の声にルーシーは答える。


「うん、わかったー。お母様! 買出しということは、……夕食はもしかしてー?」


「ええ! そうよ。今日は皆でバーベキューよ! だからいい子にしてるのよー! ……では、ベアトリクス様、連日で申し訳ありませんが子供達をよろしくお願いします」


「うむ、任された。久しぶりにグプタに返ってきた子供達だしな。多少は特別扱いしてもグプタの民は何も言うまいて。それに再びカルルクに行ってしまったら次は一年後なんだろう?」


「はい、冬は移動手段が限られますし。レオも来年はカルルクです。立派になったのは嬉しいけど、少し寂しいというか……いいえ、何でもありません」


 先のことではあるが、子供たちは親を離れていく。嬉しいことだが少し寂しさを覚えるクリスティーナだった。

 クロードはそんな彼女の肩を優しく抱く。


「じゃあ、クリス。行こうか、今日はカイルさんやルカさん。セバスティアーナさんの家族がいるんだ。それに育ち盛りの子供達がたくさん」


「クロードさん、俺達ももちろん手伝いますよ。荷物持ちは自身がありますので」


「ええ、そうね。カイルの怪力はここでこそ本領発揮よね。じゃあ皆さん、パパっとお店の食料を片っ端から買い占めましょうか」


 こうして、グプタの夏休みは慌ただしくも。楽しい毎日で過ぎていった。

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