第100話 帰省⑩
大きなテーブルに海の幸をふんだんに使った料理がこれでもかと並ぶ。
中でもルーシーお勧めの、大きな海老を贅沢に真っ二つに割って殻ごと焼き上げた料理は壮観であった。
「ソフィアさん、セシリアさん。これがグプタの本物の海老よ! 是非食べて頂戴!」
シーフードで有名な東グプタのレストランにて、盛大にパーティーは開かれた。
グプタに初めて来た二人にはぜひとも海の幸を堪能してほしい。ルーシーはそういう気持ちでいっぱいだった。
「ルーシーよ。別にお主が料理した訳でもないのに随分と偉そうよの?」
「う、うるさい。ベアトリクスだっていつも偉そうなのに料理はしたことないだろうが!」
「あはは、確かに私は料理はもっぱら食べる派じゃな。ふむ、これは私も偉そうなことは言えんか。
だがルーシーよ、お主は料理の一つでも覚えたのか? お転婆も結構だが、このままだと将来嫁の貰い手がないぞ?」
ルーシーとてそれは少しばかり気にしていたのだ。
たまにアンナが手作りのお菓子をおすそ分けしてもらったこともあるし、セシリアの料理の腕はシェフ並みだ。
ソフィアは料理は出来ないが、そもそも伯爵令嬢。
「ぐぬぬ、料理は……そうだ、これから覚えようとしていたのだ。
そもそも料理ができないからと言って結婚できない理由にはならんだろうが! 大体ドラゴンロードのお前に結婚とか余計なお世話だ! お前だって独身じゃないか」
ソフィアとセシリアはルーシーとベアトリクスの会話にすっかり萎縮していた。
「ソフィアさん、私、初めてルーシーさんが大物だと思いました。あの海のドラゴンロード・ベアトリクス様にため口というか、暴言を吐けるのはルーシーさんだけじゃないでしょうか……」
「え、ええ。セシリアさん。私も同じこと思ってましたわ。これでは折角の海老の味がよく分かりませんわ……あら、美味しい。
身は甘く、ぷりぷりとした食感があって口いっぱいに広がる海の香り。これは……魔物料理では再現できないですわね」
「そうね、ソフィアさん。これは本当に美味しい。デスイーターの百倍美味しいんじゃないかな。まあ、あれはゲテモノだから比べるのは失礼だけど」
ソフィアとセシリアは現実逃避をするかのようにお皿に盛られた海の幸に舌鼓を打つ。
ルーシーもぷりぷりとしていたが、食欲にはかなわずおもむろに料理を頬張る。
ひとまず喧嘩は終わったのか、皆も一安心して楽しい食事は始まった。
…………。
「あー、ルーシーちゃんよ。ちなみに二人がしてた話だがのう、率直に言って家事が出来んと結婚はできんぞ?
吾輩が言うんだから間違いない。吾輩は家事は一切できぬからな。
結婚とは家庭を作ることだ、家庭の仕事ができなくてはそもそも論外なんじゃ。まあ貴族であるならその限りでもないがのう」
なぜか独身のルカ・レスレクシオンから厳しい意見を浴びせられるルーシーであった。
だが現実としてその言葉は重い。
「だが、安心せい。その時は吾輩がルーシーちゃんを仲間として温かく迎えてやるぞい? 独身は楽しーぞー? ひっひっひ」
ルカから仲間においでと誘いの手が伸びているのではと少し怖くなった。
「ル、ルカさん。……折角ですが、お断りします」
ルーシーとしては普通に結婚して、普通に家庭を作りたいと思っている普通の女子だ。
「ルーシーさん。大丈夫。ニコラス殿下と結婚すれば家事は必要ない。毎日ニコニコ笑顔を振りまいてればいい。勝ち組!」
セシリアはそう言いながらルーシーに向けて親指を立てる。
「なに? ニコラスとは誰だ! そいつはルーのいい人なのか?」
明らかに動揺したクロードは声を上げる。
普段は礼儀正しく騎士道然とした彼だが、今の発言は聞き捨てならないと言った感じだった。
「お父様、違います。まあ確かに良い人ではあるけど……うーん、好きかって言うと違うっていうか。そういうのはまだ良く分からないし。
それに相手はカルルク帝国の皇子様だし。私にはどのみち縁がないと思うなー」
「そうなのー? でもルーシーちゃんだって嫌いじゃないんでしょ? 殿下も自覚してないようだけど、私は脈ありだと思うなー。
私は応援しちゃうよー、ジャン君もそう思うでしょー?」
「ああ、いい感じじゃないか? 第七皇子って身分はともかく権力としては大したことないんだろ?
責任もほどほどで普通の男と違わないじゃないか。育ちもいいしルーシーにお似合いだと思うぜ? 別に嫌いじゃないんだろ? なら付き合ってみればいいじゃんか」
ジャンとアンナは空気が読めない。
今はクロードの誤解を解かないといけないのに火に油を足している。
「だから違うって、それに皇族の責任? 償いとかで結婚とか違うし。殿下は私の事好きじゃないと思うよ? 責任は取るって言ってたけど……それも意味が分からないし」
「ちょっとまて、ルー。責任とか、償いって、そのニコラスとやらに何をされた?」
「だから誤解だってー、お父様。冷静に。レオも何とか言ってちょうだい」
「……父上、剣をお借りしてもよろしいですか? 僕がそのニコラスとやらを斬ってまいります」
そんなクロードとレオンハルトを他所に、クリスティーナは静かにワインを口にしながら呟く。
「そっかー。あのお転婆だったルーシーが、ついに良い人を見つけたのねー。私もおばあちゃんと呼ばれる日が近いってことかしら。うふふ、孫の顔が早く見たいわねー」
こうしてパーティーは大いに盛り上がり、家族団らんの楽しいひと時を過ごしたのだった。
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