第90話 帰省①
学生寮、ルーシーとソフィアの部屋にて。
「あら、ルーシーさんは制服も持っていくのですか?」
「ふっふっふ、グプタでも私の学生姿を見せつけてやらないと。それにお父様ならお小遣いをくれるかもだし」
「あら、そうなの? そう言う事なら私も持っていきますわ、私のお父様もきっとお小遣いをくれるでしょうし」
制服を丁寧に折り畳みスーツケースに入れると、後は適当に衣服をつめこむ。
「よし、荷物は完璧。後は迎えが来るまで少し時間があるね。ソフィアさん、どうしよっか」
夏休みに入ったため、学園への出入りは生徒であっても許可がないと出来ない。
図書館の出入りは自由ではあるが、ルーシーとしてはどこかでお茶をしたい気分である。
そう思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「お二人とも準備万端ですね」
部屋に入ってきたのはセシリアだった。彼女もグプタ行きメンバーの一人。
「あ、セシリアさん丁度よかった。まだ少し時間があるし、三人で一緒にお茶しませんか?」
「うん、名案。じゃあ近くにあるカフェに行きましょう」
徒歩数分のところに学生たちに人気のカフェがある。
週末になると学生たちで満員になるほどだ。
「よー、ルーシー。それに皆さんも、席は取っておいたぜ!」
カフェのテラス席には既にジャンとアンナが座っていた。
「あ、そうか、ジャン君とアンナちゃんも今年は帰省するんだっけ」
「おい、すっかり忘れてたって感じだな。まあいいさ、それだけ友達が出来たってことだしな」
ジャンはしみじみと感慨にふけながらコーヒーをすする。
「もう、ジャン君ったら。ルーシーちゃんの心配はいらないって言ったでしょ? きっとお友達とも上手くやっていけるって……」
「おう、まあな、ルーシーなら大丈夫だと思ってたよ。でもなー、なんだっけ?
グプタにいた頃はよく我は呪いのドラゴンロード・ルシウスとか言ってたし、昔を知ってる俺としてはさすがに心配するぜ」
「ストップ! むー、ジャン君は相変わらずの鳥頭だ、ルシウスは悪者のドラゴンで、私はドラゴンロード・ルーシーだと何度も言ってるじゃん」
「おいおい、鳥頭とは失礼だぞ。鳥にも俺にもな! それにだ、俺は魔法機械学科で二位の成績を収めたんだぜ?」
「ふーん、二位ね、それは一位になってから初めて威張れることじゃないの?」
「お、言ってくれる、二位では駄目なのか? ではその一位は誰だと思う? 聞いて驚けよ……」
驚けと言われても、ルーシーは魔法機械学科の知り合いがいない。
「こほん、それは置いといて、ルーシーちゃん達も何か注文しなよ。ここのケーキ、新作がでたんだって。皆さんもごめんなさい、地元同士で喋ってたら話づらいよね」
「いえ、先輩方、お気になさらず。私もルーシーさんの砕けた口調を聞けて嬉しい。同時に嫉妬、ですわね? ソフィアさん?」
「え、私に振らないでくださいませ。でも、そうね、ちょっとだけうらやましいですわ。私たちにもぜひ似たような口調で喋って欲しいのに……」
「むー、そう言われても。私としては都会的な女になるのだ、田舎者のレッテルはニコラス殿下でこりごりだし……あれ、そういえばニコラス殿下はどうしてるんだろう」
「うーん、そうですわね。聞いた話によると改めて宮殿に呼ばれてるんじゃないかしら。以前殿下が起こした事件での裁きがうやむやだったでしょ?」
ソフィアが言うには重い裁きはないようだが。改めて両親、つまり皇帝陛下と皇后陛下からお叱りを受けるようだった。
「お、俺も聞いたぜ! お前、殿下のハートを鷲掴みなんだってな。どういうことだよ。下手したらグプタ一の出世頭かもしれないぜ!」
ルーシーがニコラス殿下と結婚することになれば、それはグプタ出身者で初めての皇族入りということである。
グプタが始まってから初めての出来事となる。教科書にも載るだろう。
「ジャン君、それは勘違いだよ。殿下は私の破れた制服の弁償と、ドレスをくれただけだし……」
「え? ルーシーちゃん、破れた制服。償い……それって、とてもエッチ。……まさか、あのルーシーちゃんがそこまで進んでたなんて」
アンナはおしとやかに見えて、そういうことには興味津々であった。
そういえばルーシーは、例の本『地獄の女監獄長』をアンナに貰ったのを思い出した。
「アンナちゃん、だからそれは誤解だって。事件があったんだって。もう、二人とも黙ってないでなんか言ってよ」
ルーシーはたまらずソフィアとセシリアに救援を求める。
「うーん、そうですわね。殿下はルーシーさんに責任を取る必要がありますわね。それだけは事実ですし」
「ルーシーさんは、やることやってる。性格はともあれ相手は皇子様、身分的には高スペック。それに責任もそれほどない第七皇子、優良物件といえる。ルーシーさんグッジョブ」
「だからー、誤解だってばー。そもそも殿下が好きなのは私じゃない……たぶん」
ここで言葉を飲むルーシー。
ニコラスが好きなのはおそらくは地獄の女監獄長である。つまりはルーシーということだ。
だが、ルーシーには恋心はいまいち分からなかった。
ニコラスが嫌いという訳ではないが、好きかと言われればそうでもない、そんな事を思いながらカフェでの時間は過ぎていった。
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