第86話 キャンプ実習⑪
キャンプ実習最後の夜。
明日の予定はキャンプ場の撤収作業と帰るだけなので、午後に迎えの馬車が来るまでは午前中は暇である。
故に夜更かしの許可が出た。
生徒達は各々の時間を過ごす。
テントの中でカードゲームに興じる男子達。恋バナで盛り上がる女子達と様々であった。
ルーシー達の班は外で星を見ようと、テントの外でマットを敷き仰向けに寝そべる。
「星かー。都会だと、ここまで綺麗に見えないよねー。ここまで綺麗な星は初めて見たかも」
もちろん入学前の砂漠の移動中にも何度か星空は見たが、じっくりと星を眺めるというのは初めての経験であった。
「あら、グプタでは星は見えないんですの?」
「むー、ソフィアさん。グプタを田舎だと思ってるでしょ。まあ、その通りなんだけど……でもね夜は終わらないの。
色んな遊び場があってね、もちろん子供は入れないけど歓楽街なんかは日が昇るまでずっと明るいんだよ」
「ああ、そうでしたわ。さすがリゾート地ですわね。いつか私も行ってみたいですわ」
「あれ? ソフィアさんってグプタに来た事なかったんだっけ。なら、夏休みにうちに来る? あ、ご両親はタラスだっけ、なら真逆だね」
「うーん、素敵な提案ですわ。両親は私の帰りを待っていますけど……そうですわ。両親もグプタにいけばいいんですの、これで解決ですわ。帰ったらさっそくお手紙書かないと」
「ちょっと、二人とも静かにしてください。私たちは星を見ているんですよ。あ、ちなみに私も夏季休暇はグプタにいきますので、その時はよろしく」
セシリアはそうつぶやくと、再び星を眺めていた。
「いいなーソフィアさんとセシリアさんはグプタかー。私も行きたかったなー」
「リリアナさんも来ればいいじゃない。グプタは泊るところなんてそこら中にあるし」
「うーん、今年はオリビア学園に入学したお祝いをしてくれるって、家族と親戚が集まってね、断れないのよ。
それにザックの家族にも挨拶しないとって、両親がいろいろと動いてるから、ごめんなさい」
「…………ねえ、ルーシーさん。やっぱりリリアナさんとアイザック君はそういうご関係なのですわ……」
リリアナに聞こえないように声を落とすソフィア。
「ソフィアさん耳元で囁かないでよ、くすぐったい。ねえ、リリアナさんってアイザック君と付き合ってるの?」
そういうことを別に気にしないルーシーは素直に質問をする。
「うーん、お付き合いってよく分からないけど、なんとなく私はザックと、この先は結婚するのかもしれないわね。幼馴染だし、親同士の仲もいいし、それに私も……あ、流れ星」
「え? どこ? ちっ、リリアナさんの恋バナのせいで見逃した。謝罪と二人の馴れ初め話を要求する」
セシリアは何気にリリアナの恋バナに意識を取られて流れ星を見逃したのだ。
◆◆◆
「行くぞ! ベアトリクス! 一つたりとも見逃すなよ? でないとグプタの民は死ぬのだからな。
――極大火炎魔法。最終戦争、序章第一幕『流星群』!」
ヘイズは両腕を上空に向ける。
何重もの魔法陣が彼の身体を包み込み、やがて上空へと登る。
そして遥か上空に展開される魔法陣から燃え盛る岩石が降り注ぐ。
「ち、厄介な奴め、私だけを標的にしたのではないのか?」
「ふ、地形を利用させてもらうだけさ、お前の弱点はグプタの民だ。さて降り注ぐ灼熱の岩石を全て破壊しないとお前の大事な民は……」
ヘイズが言い終わる前に。降り注ぐ岩石は全て消失した。
客観的にベアトリクスとヘイズの戦いを見ていたクロードですら何が起きたのか分からない。
クロードですら見逃したのだ、当然ヘイズは狼狽える。
「な、なに? なにが起きた……?」
「おい、ヘイズとやら。お前の防御力はどれくらいかの? 私は今からお前を殴る。腹に力を入れて耐えて見せろよ?」
一瞬でヘイズの目の前に現れたベアトリクスは拳を握りしめていた。
「――っ! いつのまに! 俺の防御力がどうだと? 鉄鉱石を喰らったデスイーター千匹分だ! 女の細腕などでどうしようと……」
さらにヘイズの懐に飛び込むベアトリクス。またしても瞬間移動といえる一瞬の出来事だった。
そして……ヘイズはベアトリクスの挑発に乗ってしまった。
回避行動をとるべきだったのだ。
見た目から女の細腕と過信して……そんな訳ないのだ。奴は最強の生物、ドラゴンロードの一体だというのを一瞬だけ忘れてしまった。
「結構、なら砂漠のど真ん中まで吹っ飛べ!」
ズンッ! 大地がひしゃげるような音がした。
ベアトリクスに腹部を殴られたヘイズは空の彼方に吹き飛ぶ。
空中で自身の身体がバラバラになるのを感じる。
音が聞こえない。音を置いてきぼりにするほどの速度でヘイズは北方の砂漠に向かって吹き飛ばされる。
ぶつかる空気はまるで熱した刃物のようにヘイズの身体を分解していく。
「ちっ! いまので何匹やられた、百ではすまない魂の喪失を感じる……」
だがヘイズにはどうしようもない、自分の意思とは関係なく音よりも速く空中を突き進むだけだった。
やがて速度を失って、地面に激突するまでの間、ただ凶器に変った空気に削られる身体を、魂のストックを消費しながら修復するのみであった。
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