第73話 魔法使いの在り方①
あれから何年たったのだろう。
かつて権威の象徴であった黒い執行官のローブはボロボロになり、まるで亡者のような魔法使いが一人呟く。
「くそっ! 俺はハヴォックを追い詰め、闇の執行官となったのに。約束と違うじゃないか、やはりあのドラゴンロード、俺を騙したのか……俺は、俺の身体はもう……」
彼の身体は砂で出来た造形物のように崩れかける。そのたびに魔法で元に戻す。
その男の寿命はとっくの昔に尽きているはずだった。だが自身の魔力によって滅びを延命しているのだ。
老いぼれた魔法使いは一人悪態を吐きエフタル王国を去る。
その背後には夜だというのにエフタルの王城はまるで昼のように明かりで照らされ華やかなパーティーが開かれていた。
◆◆◆
オリビア学園、魔法学科の教室にて。
「さてと、皆さん。クラスの皆とも仲良くなれたかな? 仲良しグループも出来たようね。ぼっちちゃんも居なくて先生としては一安心。これから一生付き合う友達だからお互いを尊重しあうように」
いつも通りにニコニコしながらイレーナ先生の授業が始まる。
ルーシーは、あの事件の後イレーナとアランには少し説教を受けた。
だが状況的に友達を一人であの場所に向かわせる訳にもいかず、事情を知ると二人はルーシーの選択に間違いなかったと納得せざるを得なかった。
ルーシーの為だけを思えば、最善の策はソフィアと一緒に学園に戻ることであった。
だがその場合は当然ニコラスは死に周囲の被害は計り知れなかったのは事実だった。
それでも、もしハヴォックが闇の魔法以外の攻撃魔法を選択した場合はルーシーには勝ち目などなかったのだと釘をさされたのだった。
しかし過ぎたことを咎めてもしょうがない。
全員無事で被害も最小限だった。
ルーシーとて今は魔法学科の生徒だ、魔法を学べばそれにも対処できるようになるだろう。
イレーナはあくまでルーシーの保護者として教師の仕事を選択したが。
今回の事件で本格的に教師としてのやる気に火をつけたのだった。
「さて、皆さん。来月の話ではありますが、我ら魔法学科はキャンプ実習をします。座学だけでは得られない実戦の技術を学ぶ大変重要な授業です。
ちなみに、そこそこに危険ですので皆さんはルールを逸脱しないように。
……ふぅ。いるのよねー。自分勝手な行動をとって、仲間を巻き込んで魔物に食べられてしまうルーキーが。
私が冒険者だった頃にはそういう自業自得な連中が居ましたが、皆さんはそうではないでしょ?」
死と隣り合わせのキャンプ実習。生徒達は不安なのかこそこそと隣同士で話し合う。
その時、ニコラスは手を上げ席を立つと。
「もちろんです! 皆は大切な仲間です。……俺にその資格があるかは分からないけど、第七皇子としてカルルクの民を守る義務があります。だから皆も協力してほしい」
キリリとした爽やかな笑顔。最初のニコラスとはまるで別人であるが、これが本来の彼の姿なのだろう。
おかげで魔法学科一年の団結力は上がった。
「よろしい! それじゃあ、先生としてはあと一月、皆の魔法のレベルをあげてくわよー。ちなみにカリキュラムでは中級魔法を習得可能な子は学んでもいいって事になってるけど、私はあんましお勧めしないわ」
「先生。それはなぜでしょうか? 出来るだけ上位の魔法を習得したほうが良いのは常識だと思うのですが……」
一人の生徒が質問をする。
「ふふ、いい質問ですね。でもね、それは簡単な理由なのよ。そしてなぜお勧めしないかというとね……。
たしかに才能があれば中級魔法は習得できる。できるだけ早く覚えればそれは即戦力になるけど……それはね、即戦力が求められた時代の悪い風習なのよ。
今でも冒険者をやってるほとんどの魔法使いは、自己流で魔法を覚えたために魔力の操作が雑でね、本来の威力の半分も出せてない場合が多いのよ。
もちろん、それでも魔物を刈るには充分といえる。でも、皆はそれは嫌でしょ?
完璧な中級魔法を習得することが出来ればマスター級への昇格も早い。そして極大魔法の扉を開くのには最適解とも言えるわ」
極大魔法への近道と聞いて、生徒の中で反対を言う声は無かった。
極大魔法の習得とはマスター級を越えた魔法使いの最終到達点だからだ。
「まあ、もっとも。世の中には先生でも嫉妬しちゃう天才さんってのがいるからねー。勝手に魔力の深淵の方から極大魔法を授けてくれるっていうから、世の中不公平よねー」
そう言うとソフィアに向かってウィンクをするイレーナ。
ソフィアは12歳にして極大魔法を成功させた。だがまだ魔力の制御が未熟である為、魔力枯渇を起こしてしまったのだが。
ソフィアとてそれには思うところがあるのかイレーナに答える。
「先生の方針に賛成です! いくら上位の魔法を使えても魔力枯渇を起こしていては意味がありませんわ。
基礎の習得こそ大事だと思います。それには皆さんの経験や知識が必要です。そこには才能や魔力の大小など関係ないと思います」
「ソフィアさん、素晴らしい意見です。たしかに魔法の才能には優劣があります。ですが皆さんは魔法学科の生徒です。才能の有無で言えば既に皆さんは恵まれています。
それこそクラスメート同志での才能の差というのは微々たるもの、それは、技術を磨けば簡単に覆すことができるのです」
生徒たちは一斉に盛り上がる。
イレーナは一つ嘘をついた。技術の研鑽によってどこまでも才能は伸ばすことが出来るのは本当だ。
だが、それでも覆すことが出来ない本物の天才はいるのだ。
ソフィアのように既に極大魔法を使える存在に対しては努力では追いつけないレベルの差がある。
だが、それもイレーナの思い込みであるかもしれないし覆る可能性はある。
そう、子供達の才能は無限大なのだ。
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