第49話 魔法の授業①
翌日。
魔法学科の授業二日目。
今日は本格的な授業のスタートだ。
昨日は寮に帰ると消灯の時間よりも早めに眠った。
おかげで朝はばっちり。制服もばっちり着こなし、朝食もしっかり食べ授業に臨む。
「やー。おはよう。さっそく出席を取りましょう。……ふむふむ、全員いるわね。じゃあ張り切って行きますか!」
さすがはイレーナ先生。いちいち名前を呼んで出席を取ることはしない。
いよいよ本格的な魔法学科の授業だ、ルーシーに眠気はない。
朝はたくさん食べたけどコーヒーも飲んだ。ばっちり目が覚めている。
「よし! 皆さん元気でよろしい。先生も嬉しい。では教科書通りに初級魔法アイスニードルの勉強を始めましょう。ちなみにこの中でアイスニードルが使える子、挙手してもらえる?」
クラスメイトは40人。ルーシー以外の全員が手を上げた。
「なるほど、では、中級魔法アイスジャベリンを使える子はいますか?」
教室がガヤガヤする。中級魔法を一年生で使えるのは余程の天才だ。
しかし、手を上げる生徒は一人いた、ソフィアだった。
「では、そうですね。ソフィアさんはルーシーさんの補助をお願いできますか? 上級者とはいえど他人に教えるのは自分にとっても勉強になりますし」
ソフィアは当然のように答える。
「はい、ルーシーさんは私に任せてください!」
さすがはソフィア・レーヴァテイン。中級魔法が使える時点で飛び級も可能ではあるのだ。それでも一年生として自分たちのクラスメートでいてくれる。
導いてくれるのだと、彼女の好感度は上がっていった。
だが、そうは思わない生徒も居る。
「先生! 今さらアイスニードルの授業ですか? 確かにカリキュラムではそうなっていますが、皆さん使えるのです。省略されてはどうでしょうか?」
そういうのはニコラス皇子だった。
「うーん。先生としてはカリキュラムに従うべきだしー。全員は使えないでしょ? だから続行しますー」
「お言葉ですが先生、グプタ出身の遊び人を庇っておいでですか? 俺としては彼女の魔法適正に関しては疑わしいと思うのですが? それとも先生は身内だから特別扱いをするのですか?」
教室がざわざわする。
「ねぇ。ソフィアさん……あれって私の事言ってるよね。なんで皇子様は私を敵視してるのかしら」
ルーシーは当然の疑問をソフィアに投げかける。
自己紹介では失敗しなかったし、何が皇子の機嫌を損ねたのかよくわからない。
ソフィアとしてもルーシーが嫌われている理由はよく分からない。
彼の祖母、先代の皇帝陛下とは会話はしたことはあったが、皇子とは直接会話をしたことも無いからだ。だが、そこまで露骨な態度を取るとは思わなかった。
「お静かに!」
イレーナが声を上げると教室は再び静寂に包まれる。
「さて、ニコラス殿下、失礼ですがアイスニードルは使えますか?」
たしかに失礼な質問だった。先程挙手にて確認したばかりだからだ。だがイレーナの真意はそこではない。理解できたのはこの場ではソフィアだけだ。
「貴様、無礼だぞ! アイスニードルは基本中の基本、馬鹿にするなよ?」
ニコラスは声を荒げる。
「はい、たしかに基本中の基本です。ですが、殿下はそれが出来てますか? いいでしょう、では氷の魔法の原理について授業しましょう」
「だからそれが必要ないと言っている! 俺を馬鹿にするのも――」
「で、殿下。お気を確かに、これ以上は陛下に迷惑を掛けてしまいます」
側使いの男子生徒がニコラスを止める。
「ええい、うるさい! 俺は学園の授業の無駄を無くそうとしているんだ!」
「ふう、殿下、話しても無駄ですね。やはり理解されていません。ちょうど良いわ。殿下に協力してもらおうかしら。
さて、皆さんはアイスニードルはただの初級魔法で簡単に使えるからって侮っていますね。
……でもね、その考え方だと次にいけませんわ。
殿下、アイスニードルを撃ってみてください。私に向けてね」
「おい、正気か? 怪我でもされて皇室に非難がでるのはごめんだぞ? それに正式な手続きが必要なんだが……」
さすがに皇子とて教師に向けて攻撃魔法を撃つことはためらわれた。
身分差による私刑などカルルクの皇族がしていい行いではないのだ。
「ああ、殿下、失礼しました。……ではソフィアさんお願いできますか?」
「はい、先生のおっしゃることは理解しました。では行きますわよ! アイスニードル!」
イレーナはソフィアの放ったアイスニードルを手の平で掴む。
初級魔法とはいえ高速で射出された攻撃魔法を手で掴むのは初めて見た。
新任の先生とはいえ実力は本物だとこの場にいる皆は理解したのだった。
「ふふ、ソフィアさんのアイスニードルは怖いですね。失敗しちゃってたかもです。
……さて皆さん、これは魔力を圧縮して出来た氷の欠片ですね?
皆さまはこれを自身の魔力を精一杯使って放っていますね?
さて、ここで質問。
中級魔法のアイスジャベリンはもっと魔力を込めれば撃てますか?」
アイスニードルの上位の魔法アイスジャベリン。
身長よりも大きな氷の槍を飛ばす魔法。
アイスニードル同様に単純に魔力を圧縮した場合それだけでは不可能に思える。それこそアイスニードルを数十回重ねてもアイスジャベリンにはならない。
氷の質量だけでも数百倍の魔力が必要だと思えるのだ。
どうすればそれを作ることが出来るか、単純に魔力を込めるだけでは不可能だ。
「うふふ、皆、気付いたよね? 中級魔法アイスジャベリンはね、魔力以外にも自然の力を利用するのよ。アイスジャベリンの場合は大気の膨張による急速冷却。
魔力だけじゃない、自然の法則を理解したうえで魔力を組み合わせる必要があるってこと。どう?
貴方たちはこれを理解してる? 理解してれば中級魔法を得ることが出来る。どうです? 殿下。それを踏まえて、もう一度、初級魔法を学びなおす必要があるでしょう?」
ニコラスはおとなしく席に座る。
「……そうだな、何も言えない。悪かった。さっきまでの発言、俺が全面的に間違っていた。第七皇子として正式に謝罪する。……授業を続けてくれ」
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