第23話 クルーズ船の旅⑥

 今日の夜会は仮装パーティーだ。

 船の上だと言うのに。毎日イベントが用意されている。さすがは『レスレクシオン号』ということだろう。


 仮装用の衣装を持っていないルーシー達であったが船内のサービスで貸衣装があるので安心だった。


 各々が好みの衣装を着ると、皆は一度ルーシーとアンナの部屋に集合した。


 レオンハルトは騎士服を着ている。

 仮装というよりはむしろ正装になるのだが子供用は無いので微笑ましい。

 ルーシーは以前父親の騎士服姿を見たことがあり、レオンハルトに父親の面影を感じた。


 アンナは、お姫様である。純白のドレスに黄金(偽物)のティアラが彼女の美しさを引き立てる。


 そして隣のジャン……黒い眼帯にへんてこな帽子。なにか金色の飾りが着いた黒いコート。偽物のサーベル。

 海賊の船長の格好だ。


「ジャン君だけ犯罪者じゃない。騎士レオンハルトよ! 賊をひっとらえなさい!」


「なんだと! そういうルーシーだって魔女だろう。火あぶりの刑だ!」


 ルーシーといえば深い黒色のローブに包まれ、月と星をあしらったネックレス、そして高く尖ったコーン形の黒い帽子。まさしく魔女の格好であった。


「ふふ、まあいい。今日は諸君らにお披露目しようと思ってな。私が毎朝練習していた魔法の成果を」


 ルーシーは手に持った魔法の杖(おもちゃ)を大きく振りかぶる。


「いでよ! 闇の執行官『ハインド君』!」

 ルーシーの杖を持ってない方の手から黒い煙が湧き出る。

 それはもやもやと人の形をとりながら実体となる。黒いローブを着た骸骨だった。


『闇の執行官ハインド。マスターの命に従い参上しました。我が闇の魔術の奥義の全ては、偉大なる呪いのドラゴンロード・ルーシー様の物。さあマスターなんなりとご命令を』


 ハインドは跪くとルーシーの手をとり、口づけをした。


「ふっふっふ。カッコいいだろ! 貸衣装室でこの服を見たときに閃いたのだ。どうだ! 黒の魔女と黒い眷属、このバランス。我が魔法は遂に完成したのだ!」


「う、うん。姉ちゃん、カッコいいけど……それって完璧に悪者の格好だよね。騎士の敵だよね?」


「レオよ、騎士は悪人側でもカッコいいものだ。暗黒騎士とか素敵じゃない?」


 レオンハルトはやや不満だった。


 アンナはその美的感覚はよくわからなかった。それよりは目の前のぼーっと立ったままの骸骨が気になっていた。


 ジャンはどちらかと言えば好意的だ。

「す、すっげー。まるでボスキャラだ。絶対に強い! で、ハインド君って何ができるんだ?」


『はい、宮廷魔法使いとしての礼儀作法一般。社交界でのマナーとかですかな? 残念ながら魔法に関する知識は忘却の彼方に……』


「ジャン君、慌てるな、その辺はおいおいよ、毎朝の練習の成果で2時間位は呼び出せるようになったんだから。それは凄い成果なんだからね」


「ていうことは、仮装パーティーに連れてくってことだな。おもしれー、ルーシーが優勝するんじゃないか?」


 仮装パーティのイベントの中にはコンテストがある。ハインドの衣装?のクオリティーの高さは半端ではない。なぜなら本物だからだ。


「うーん。でもハインド君ってアンデッドでしょー? お船のなかにも魔法使いの人いるよねー、敵だと思われちゃうんじゃない?」


 アンナの常識的な回答にハインドは優しく答える。

『お嬢さん、御心配には及びませんよ。このハインド、見た目はこの通りですがアンデッドではないのです。そうですな、どちらかと言えばマスターの眷属、いや、分かりやすく言えば召喚獣、精霊といった感じでしょうか』


 魔力の反応はルーシーの物であり、召喚者の所有物であるかぎりは常識ある魔法使いは例えそれがどんな姿でも襲ってはこない。


 それに仮装パーティーの会場で無粋なまねをする人間はいないだろう。


「よーし! 機は熟した。皆の者! いざ行かん、決戦の仮装パーティーへ!」


『は、マスターの第一の眷属、ハインドが僭越ながらエスコートさせていただきます』


「ちょっと姉ちゃん! それじゃ僕はどうすればいいのさ。一人で会場に入るのはさすがに嫌だよ」


「うん? それならアンナちゃんのエスコートをすればいいじゃない。お姫様に騎士はお似合いよ?」


 たしかにカップリング的には最適解だ、海賊にエスコートされる姫はありえない。


「でも、そうするとジャン君が……」


 …………。


「おーい、子供達よ。準備はできたか? 吾輩も一緒にゆくぞい!」


 ノックも無しにいきなり部屋に入ってきたルカ、この人は本当に貴族なのかと子供達は思った。

 だがボッチになりかけていたジャンには救世主であった。


 そう、ルカの格好は海賊であったのだ。


 ジャンのそれとはクオリティーが遥かに違うが、紛れもなく女海賊船長の格好だった。

 しかも左手にはフック型の義手を装着している。かなりの精巧な作りだった。おそらく衣装のクオリティーからして全て自前で用意していたのだろう。


「おや、ジャン少年。この感じだとパートナーがおらんようだのう。丁度よい。吾輩がエスコートしてやろうぞ。セバスちゃんはメイド服意外は着たくないといって今回は欠席するそうでな、パートナーがおらんかったのじゃ」


 ルカは、ハインドについては特に何も言わなかった。

 魔法使いにとってはハインドがルーシーの所有物であるというのは一目瞭然であったのだ。


「ル、ルカ師匠。俺は一生ついていきます!」

「アホ! 一生ついてくるとか気持ち悪いこと言うな。弟子はいつか独り立ちするものじゃ。それに今は船長と呼べ!」


 姫と騎士、海賊団、そして魔女と骸骨のそれぞれのペアは仮装パーティー会場へ向かった。

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