第21話 クルーズ船の旅④

 ひょんなことから、ルーシー達はルカ・レスレクシオンの宿泊しているスイートルームに招かれた。


 4人の子供たちは目の前に広がる風景に驚く。

 一般の一等客室も豪華だとは思ったが上には上がある。

 客室の壁は贅沢な木材で装飾され、美しいカーペットが足元に広がっていた。

 部屋の中央には広々としたリビングエリアがあり、高級なソファとアームチェアが配置され、豪華なコーヒーテーブルの上には鮮やかな花が飾られていた。


「おーいセバスちゃんよ。お客さんを連れて来たぞい」


 部屋に入るなり一人のメイドさんがでてきた。


「あら、可愛いお客様ですね。お茶の準備をいたしましょうか?」


 年齢は30歳位だろうか。

 彼女は長身で姿勢は完璧にまっすぐで、端正な顔立ちを持っていた。

 髪は黒くきちんと整えられ、白いエプロンはしわ一つなく服全体が完璧に整っていた。


「おう、そうだな、たのむ。さすがセバスちゃんだな。いつも気が利くわい」


 メイドさんはルカの返事を聞くと、一礼しお茶の準備を始める。


「ありがとうございます。えっとセバスチャンさん?」


 ルーシーはふと疑問に思った。セバスチャンといえば男性の執事と相場が決まっている。

 しかし、他に誰かいるわけでもない。部屋には自分たち以外にはルカとメイドさんだけだ。


 ……まさか男の人なのでは? 

 そんな彼女の表情を読み取ったのかメイドさんは少し微笑みながら答える。


「ふふ、やはりそうなりますね、自己紹介がまだでした。私はセバスティアーナと申します。ルカ様専属のメイドをしております。付き合いが長いのでルカ様は私のことはセバスちゃんと呼ぶのですよ」



 テーブルにはティーカップが5つ、そして中央にはいかにも高級そうなお菓子が並ぶ。


「おお! これはチョコレートではないか! さすがはスイートルームのお菓子」


「姉ちゃん、あれだけ食べたのにまだ食べるの? さすがに太るんじゃ……気にしてたんじゃないの?」


「うるさいぞレオ! お菓子は別腹という格言をしらんのか」


「格言って、それってただの言い訳だからね」


「ふふふ、よいよい、子供は多少食べすぎ位が健康的でよい。少年も遠慮することはないぞ」


「ほら、レスレクシオンさんもいいって言ってるからレオも文句言ってないで食べなさい」


「ルカでよい。吾輩の苗字は舌を噛みそうだからな」


「あ、あの。ルカ様! 俺、ジャン・カーパーといいます。ルカ様のことはずっと憧れていました。こんなすごい船を作るお方にお会いできて光栄です!」


 さっきからもじもじと黙ってたジャンが勢いよく立ち上がり深々とお辞儀をした。


「もう、ジャン君、いきなり立つからびっくりしちゃったよー」


「アンナ、こんな機会は滅多にないんだ。俺は、この出会いは運命だと思うんだ。お願いします! 俺を弟子にしてください!」


「ふむ、なかなか威勢のいい少年よのう。しかし、カーパーか。お主の家は船大工だろう? 後は継がんのか?」


「家には兄がいますから。もちろん家業を手伝うのには不満はありません。けど、こんな凄い船を作るには俺の家では多分、不可能ですから……」


「ふむ、吾輩は発明家であるが弟子は取っておらん。……まあ、それはそれとして、そうだな。明日は特別にこの船の機関室に案内しようじゃないか。少年には勉強になると思うが」


「ふふ、ジャン君よ。さらりと断られたな。……でもルカさんはなんで私達を誘ってくれたのですか? あ、私はルーシー・バンデルと申します。お見知りおきを」


 隣で「ち、猫かぶりめ」と小声が聞こえたがルーシーは無視を決め込む。

 初対面の人にはそれなりの態度で接するのは常識なのだ。


「ふむ、そうじゃのう。目だっておったからな。子供4人だけで保護者はどこにもいない。

 これは怪しい大人に声を掛けられる前に、吾輩が唾をつけようということじゃな。まあ吾輩が最も怪しいんじゃがな、わっはっは!」


「なるほど、お気遣いありがとうございます。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。僕はルーシーの弟のレオンハルトといいます」


「私はアンナ・ワトソンっていいます。趣味は、えっと、お料理です」


「ふむふむ、これはご丁寧に。ではこちらもあらためて名乗ろう。吾輩は偉大な発明家であり、マスター級魔法使い。そして魔法機械学会名誉会長のルカ・レスレクシオンであーる!」


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 ルカとの談笑は続いた。


 彼女がこの船に乗っているのは、単なるレジャーではないようだった。

 設計者ということもあり、最新の魔法機械を惜しみなく使った、船の心臓でもある魔導機関『レスレクシオンエンジン』の動作確認をするのも仕事のうちらしい。


 ルーシーは魔法機械は苦手だ。もちろん生活必需品であるため恩恵には預かっている、だが使えはしても構造にまでは興味がなかった。

 逆にジャンやレオンハルトは興味津々に質問を繰り返す。


 アンナも真剣に聞いているふりをしているがルーシーには分かる。

 あれは心ここにあらず別の事を考えている表情だ。 


 ……魔法機械か、今のトレンドはそうなのだろう。それでもルーシーには興味が無いのだからしょうがない。

 だが一つ分かったことがある。偉い人は物に自分の名前を付けるのだと。

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