第2話 02 - ひどいよ・・・ -

02 - ひどいよ・・・ -



「やっと補給が終わった・・・あ、荷物の扱い雑だな、コンテナが倒れ掛かってるよ・・・あれ、張り紙?」



「ぐす・・・ひっく・・・ベンダルの宿主は立ち去れ!・・・か、・・・酷い・・・酷いよ・・・僕・・・何も悪い事してないのに・・・、あぁ・・・、宇宙船にも傷が・・・これ、わざと引っ掻いたの?、・・・うぅ・・・なんで・・・」



この恐ろしい幼虫は摘出が不可能なのです、孵化した幼虫は体内で根を張り毒針から強い依存性のある快楽物質を分泌、宿主に注入、その物質が無いと生きていけない身体に変異します。


外科手術でその虫を取り除いても、1体取り除くと連鎖的に他の幼虫を刺激、身体に毒物を注入されて激痛が・・・そして死んでしまうの・・・。


お薬で活動を抑えるしか今は方法がない状態で、お薬を飲まないと幼虫が目覚め・・・しばらくすると成体に、宿主の身体を操り他の人間を襲って卵を産みつけるのです、宿主の意思が強く、操れないと成虫が判断した場合は身体を食い破って外へ、・・・嫌だ・・・そんなの絶対に嫌!。


僕が今着ているのは上下一体型になって身体にピッタリとしたサラサラ素材の白い宇宙服、それと黒い上着、ブーツ、鼻から下・・・口を覆う防護マスク・・・左目はベンダルの爪で斬られたからそれを隠す眼帯・・・。


この服は宇宙船乗りがよく着ているような宇宙服に見えるのですが、実は宿主専用に作られた宇宙服っぽく見える防護服、もちろん宇宙服の機能もあるの、・・・僕の身体から外に寄生虫が出て行かない為の措置です。


宿主と判明した人は、全員この服を着せられて首の部分にある着脱の為のボタンを封印されます、この封印には通信機能が付けられていて、これを外すと管理局に情報が伝わり、管理局の役人が僕を捕まえに来ます、・・・この服を脱ぐと僕は犯罪者になるのです・・・。


他の宇宙服と同様に後ろの腰の部分に排泄物や老廃物を外に出す丸いプラグが2個付いていて、装置に寝転がって2つのプラグにチューブを挿すと一つのプラグから浄化液が流し込まれ服の中で全身の汚れを洗い流し、もう一つの穴から排出されます、これで服の中に溜まった汚物を洗い流すのです。


そして宿主にはその汚物を高温殺菌して捨てることが義務付けられています、宇宙服は完全に密閉されているため10日に一度は脱いで皮膚を外気に晒さないと爛れたり火傷のような症状が現れるのですが、同じ構造の服を僕はもう30年着ています、最初は自分の皮膚がそんな事になるのが嫌で捕まるのを覚悟で服を脱ごうとしたけれど、どうしても脱げなかったの。


おそらくこの服の中は酷い状態になっているでしょう・・・今この服を脱いで外気に皮膚を晒すと、一瞬で僕の肌は焼け爛れる・・・と博士は言っていました、怖い・・・。


「ぐすっ・・・ひっく・・・うぇぇ・・・」


今まで耐えていたものが一気に崩れたようで、涙が溢れて止まりません、宇宙船の傷を泣きながら撫でていると後ろに人の気配が、・・・ポケットの上から護身用ナイフの確認をします。


「おい・・・」


「・・・え」


久しぶりに人から話しかけられました、この首輪を付けていると、こちらから話しかけたら普通に対応してくれる・・・対応しないといけない法律になってるんだけど、向こうから僕には絶対話しかけられる事がないから・・・。


「俺の部下がお前の宇宙船を傷つけているという通報を受けてやって来た、この傷がそうか」


「はい、僕がお買い物から戻って来たらコンテナが雑に積まれてて、・・・うぅ・・・積み直そうとしたら張り紙と・・・この傷を見つけて・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」


「修理して代金をここに請求しろ、俺の会社だ、本当にすまなかった、傷をつけた奴は爺さんをベンダルに殺されててな・・・まぁ、そんなことは言い訳にしかならない、そいつは今日限りでクビにする、これで許してはもらえないだろうか、詫びとして他に悪い所があれば全部修理して一緒に請求してくれ、いくら高額になっても構わない」


「はい、・・・分かりました・・・じゃぁ・・・」


僕は男の人と別れて船に乗ろうとしたら・・・。


「なぁ・・・この船」


「はい?」


「お前のか?」


「・・・ぐすっ・・・はい、父がハンターをしていて、その時に使っていたものを僕が譲り受けました」


「そうか、お前の親父さんは?」


「40年ほど前に・・・母と旅行に行ったきり、僕を残して行方不明で・・・お家の中を探したら・・・ひっく・・・私達に何かあった時は・・・僕にお家と土地・・・この宇宙船を譲るって書類が・・・ぐすっ・・・あの・・・父を・・・知ってるの?」


「ハンター時代に世話になってな、その時に何度かこの船にも乗せてもらった事がある、懐かしいな」


「・・・そう・・・だったんですか」


「あぁ、だからこの船を傷つけた奴は俺には許す事ができない、ハンターやってるんだよな、何か困った事があったら俺のところに連絡しろ、微力だが力にはなれるだろう、俺の名はエッシャー・レベルス、レベルスカンパニーの代表をしている」


「・・・はい・・・ありがとうございます、・・・僕は・・・シエル・シェルダンって言います・・・では・・・」


「待て、修理希望箇所を大体聞いておこうか」


「・・・へ?」


そしてエッシャーのおじさんは僕と一緒に僕の宇宙船の中へ、おじさんの後ろには会社の人?、作業服を着たエンジニアっぽい人が2人。


「えと、壁の配管やオイルのパッキンが古くなってオイル漏れと・・・船内の防虫、あとは・・・ダクトの清掃・・・くらいかな」


「遠慮するな、お前の親父さんも何かしてやろうとしたら遠慮してた、そんなところも似てるな、操縦桿古くなってるな、新品に替えよう、なんだこりゃモニターが古すぎる、替えるぞ、操縦席もガタが来てんな、思い入れはないか?、そうか、替えよう、あとは空調系の全取り替えと、メイン制御盤を最新型に、エンジンも古いな、交換できんか・・・オーバーホールだ、全部バラして整備しよう、それとベッドが汚い、新品に・・・」


「あぅ!、ちょっ・・・ちょっと待って!、目立つけど少し傷付けられただけだから!、そんなことしてもらったらお金が大変なことに!・・・」


「気にするな、お詫びだって言っただろ、親父さんには何度も命を助けてもらった、大恩人だ、その娘に恩を返せるなら屁でもないぞ、それにおじさんは大金持ちだ、なんなら宇宙船丸ごと新品に・・・」


「・・・い、・・・いえ、いいです!、もう十分ですから・・・」


「それから、運送任務中か・・・向こうに到着する余裕は50日くらいあるのかそうか良かった、なんだこれ俺の子会社の仕事じゃないか、大丈夫だ「偶然会った、俺の友人だったから無理に引き留めた、少し遅れるかも」って連絡しておいてやる、大体10日で全部仕上げるぞ、それでいいだろ、それまで宿をとってやるからのんびりしてろ、な!」


「・・・はい・・・うぅ・・・」


そしておじさんとすごく豪華で美味しいお食事をした後、紹介状をもらって超高級なホテルにお泊り・・・。


「やだ・・・こんなすごいところ泊まった事ないよぅ、・・・怖い・・・また宿主だって事で酷い目に・・・宿泊拒否とか・・・」


「大丈夫だ、問題ない、ここは俺の会社のホテルだ、宿主の人達が泊まっても大丈夫な様に対応出来てる、排泄や洗浄の専用機械は各部屋に標準装備してるし最新式だ、超快適だと思うぞ」


「ひぃっ!」


おじさんが気配を消していつの間にか僕の後ろに居ました、・・・今の独り言・・・聞かれちゃったの?・・・恥ずかしい・・・。


「いらっしゃいませ、レベルス様、シェルダン様!」


従業員の人たちが一列に並んで頭下げてるよ・・・なんなのこの歓迎・・・怖い・・・。


「じゃぁ10日後くらいに宇宙船の改修が終わったらこのホテルに連絡する、それまでこのステーションを満喫してくれ」


「・・・は、・・・はい、ありがとうございます・・・」


おじさんは帰って行きました、そして案内されたホテルのお部屋も豪華・・・。


「・・・い・・・いいのかな・・・、本当に僕なんかが泊まって・・・10日後におじさんの連絡来なくて・・・宿代払えって言うんじゃないよね・・・手の込んだ詐欺とか・・・でも、おじさん僕の宇宙船知ってたし、お父さんの名前も・・・」


僕は背負っていたリュックをベッドに下ろし中から宇宙船の携帯端末、それからお薬15日分を取り出します。


「ふぅ・・・久しぶりに長い時間歩いたから疲れちゃった・・・運動不足だね、ずっと宇宙船の中で、お仕事も相手と顔を合わさずに通信でのやり取りだったからなぁ」


ピ・・・


「あ、なんだろ・・・入金?・・・リンちゃんのお家から・・・もうそんな時期か・・・気を遣わないでって言ってるのに・・・まぁ、これで随分生活は助かってるんだけど・・・」



ブンッ・・・


「え、また・・・モニター消えちゃった、ヒンジ部分の開閉でケーブル切れかかってるのかな、それとも接触・・・どっちにしても古いから仕方ないか・・・こういう時は・・・」


パシ


ヴー・・・


「ほら点いた、こういうのは叩けば治るって昔お父さん言ってたし、・・・さて、10日くらいここで滞在するなら運行計画やり直さなきゃ・・・まぁ十分余裕はあったから20日くらい滞在しても間に合うんだけど、早く済ませられる事は早めに終わらせたい性格なんだよね・・・」


・・・床が綺麗でゴミも全然無いなぁ、高級そうなホテルだから当然なんだけど、・・・ブーツ脱いじゃえ、義足の調子も良くないし、ソファもあるからリラックスしたいな。


「・・・ん、・・・よいしょっと・・・あー、ふかふかのソファ・・・気持ちいい・・・」


僕は久しぶりのステーション・・・快適なソファ・・・うっかり眠ってしまったようです。

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