第三話 テンプレート

 「ハハ、やっぱ、笑えねぇー……」

 引き攣った笑いが零れた。

 過去に聞いたお伽話に近いような与太話、雑多の戯言が実現したというのは……一周回って笑えるのかもしれない。だが、バカバカし過ぎて誰が聞いても信じてくれなさそうな話だがな。

 はぁ……あの人、魔女っていうか、悪魔の部類にいるだろ。主に厄災を振り撒くタイプのヤツ……

 何となくこの一件が彼女のせいな気がした。

 まあ、全く関係はないんだろうけど……

 まだ絶望の余韻が残っているせいか思考がノイローゼ気味だ、誰かのせいにしなければやっていけない。心の防衛機能、合理化が働いているのだろう。それっぽいのが正解なのだと勝手に判断している。

 俺は今、奇跡の一端を体験したのだろうが、魔術師でもない身としてはただただ厄介なだけ現象だ。奇跡など、見たくもない女神の顔を見ているだけで十分なのだが……

 「はぁ~……」

 現状を正しく理解したがための落胆。大きなため息を吐く中、目の前に見てわかる王座に座ったこれまたザ・王様って感じの人物が立ち上がり声を上げた。

 「よくいらしてくれた。異界の方々よ……」

 そんな言葉と共に俺の中で腹が決まる、完全に過去を割り切る。

 状況整理はできた、もう過去のことを悔んでも意味はない……いつも通りに行こう。そう、いつも通り、俺にできることは高が知れてるんだ、だからこそいつも通りに――心を整えろ。

 後ろ向きな思考を否定するのではなく、それを前提で今に順応する思考を構築する。

 前と後で思考を完全に切り替え、情報収集へ取り掛かる。

 「まず初めに言わせてほしい――すまなかったっ! 突然、このような場所へ呼び出してしまって」

 王らしき、というか王であろう男は深々と頭を下げ謝罪を述べた。その様子に周囲のいかにも偉そうな周囲の人間達、彼らが慌てだした。

 「お、王!? あ、頭をお上げ下さい! 一国の王ともあろうものが、簡単に頭を下げては――」

 「良いのだガルビス、我に出来ることなど些末なこと……我が頭を下げようと事実は変わらぬ」

 「しかし――」

 ガルビスと呼ばれた男の他にもう一人、王の傍にいた初老の翁が異を唱えるようにそう言った。しかし、言葉の途中で王がその言葉を止め言った。

 「ローディス、良いのだ……」

 「王……」

 王の一言でローディスと呼ばれた爺さんを含め、周囲の重鎮達は王の言葉を聞き黙り込む。

 …………ん?

 その様子を見ていた俺は、えも言えぬを感じた。

 別に王の謝罪に中を感じたわけじゃない。それどころか俺個人の見解では、この男の言葉に嘘はないと思っている。

 嘘を口にする者に共通する言葉の、真意と発言の乖離に生じるひずみのような感覚、俺はそれで大体の嘘を見抜くことができる。もちろん、その歪すら騙し通せる者の言葉に含まれた真意を推し量るのは難しいが、相手の言葉の信憑性を多少なりとも把握できると自負している。故に王の言葉には違和感はない。


 ――第一、そんなことはどうでもいい……その言葉の真意に興味などない。


 アレがどういう感情を以て謝罪をしているのか、なんな意を知ったところで何の意味もないだろう。そんなことより、俺は。この場における一番のを、確かなを……

 カチリと自動的に脳内回路のスイッチが切り替わる。瞳が淡く緑の光を灯し、違和感を感じた方向へ再度視線を向け、ゆっくりと脳を回していく。

 ビーっと警戒音が鳴り響く。感情が堕ちていく、  こころが停止する。

 俺はただ冷徹にそれに眼を向ける。

 言葉じゃない……が言っている違和感。そこに一人、ひ――

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