第二話 追憶
それが起きたのは天気のいい日、丁度昼頃だった――
クラスメート達がワイワイと騒ぎ楽しそうに過ごす中、俺は一人気怠そうに空を見つめていた。
本当になんてことない一日だ。日々の不毛さ噛み締めながらその無駄を謳歌する、俺は平穏という退屈な幸せをしみじみと感じていた。こんな日々も悪くない、こうゆう幸せもあるのだろう、と思いながら……
センター、レフト、ライトの三方向から興味のない話をされ、それに対して相槌を打ちながら気怠さを隠すことなく見せつける。内心、「どっか行ってくれないかなぁ~」なんて思いながら欠伸をしていた。
少ししてライトにいた人物が用事で教室から出て行く。そんな人物を俺は興味なさげな目線を向けて見つめていた。
そんな時――異変が起きた。
不意に感じる魔力の波長。周囲の空気が急激に発生した魔力に驚き微かに震え、感覚のよい者は異変に反応して全身にゾクリと悪寒が走る。
異様な現象の前に明確に反応し驚愕の表情を浮かべるのは、俺を含めた三人。その他のクラスメイトたちは微かに反応する者がいるだけだ。
暴力的な魔力量は多少魔術の心得があれば、誰でも気づけるほど圧倒的なものだった。
驚愕の表情を浮かべている間に教室内には術式が展開され、すぐさま
そもそも、術式が雑すぎる。普通の術式ではないと一目で分かるほどに……
正直な話、魔術師ではなく、魔術使いである身としてはあまりこういった魔術関連の知識を豊富に保有しているわけじゃないのだが……だが、まあ。〝元〟とはいえ魔女の助手であった身の上としては、多少なりとも推測できるものはあった。
術式の雑さを考慮せず、その他の要素で解析すると単純に古い魔術であることが分かる。目測だが、ルーン魔術の系譜、それも原初に近しいものに属する古風な魔術、それを起源とする転移系統の魔術だと推測できる。
……不確定要素を除けばそれが答えだと、思う。
そう、この術式にはよく分からない不確定要素が存在している。
余分が多い、というか術式構築の前提に〝何か〟の介入が想定されているのが異質だ。
明らかに、この世界の魔術ではない。
この世界の魔術の性質としては異質。
原初に属する魔術。第一それが現存していること自体が異様な事態だ、尚おかしいのはこの魔術は所々に近代魔術の要素も組み込んであることだ、様々な要素が組み合わさって出来ているちぐはぐな魔術。雑にもほどがある、詰め込めるだけ詰め込んだ欲張りセット、そんな魔術だ。
正直、半分までは魔術で間違いないと思うが、もう半分の要素は完全に魔術のそれとは違う。これを魔術と一括りできるかどうかわからないが……まあ、そんなことどうでもいいよな。
とにかく――これらの情報から俺はある推測を立てた。
雑な術式、近代魔術+ルーン魔術、ルーン魔術に関しては原点に近いものを
そして、俺はある人との会話を思い出した。
『転移魔術、その工程は地点と地点を繋ぐことで、間を飛ばしている……これが近代魔術における転移魔術の
不敵に笑みを浮かべ、少々馬鹿にするようなニュアンスで言葉を放つ魔女。
彼女は高級そうな椅子に両足を組んだ状態で深々と座っている。本人が大人の色気を感じさせる女性ということも相まって、その姿はとても魅惑的で、魔性的……まさしく魔女という感じだ。
ただ俺の場合、この人の性格の悪さなどの負の面を見ているせいか、そういった感情が一切湧かない。
「はあ……まあ、なんとなく……」
同じく高級そうな椅子に座っている俺は彼女の問いに対して答える。
『宜しい。次に召喚魔術についてだが……基本の術理は?』
「あー、えーっと、確か……基本原理は、他の地点から術者の指定した地点に繋げ呼ぶ、でしたっけ?」
『正解!』
指を突きだし、笑みを浮かべてそう言った。
『さて、比べてわかると思うが、基礎はどちらも地点を繋げること……さて、ここで重要なのはその
「どう、ですか? ……あー、そうですね。
『ふふ、そうね……良い回答だと思う。でも――不正解』
そういうと彼女は射殺すような鋭い目線を向け、思考の浅はかさを嘲笑うように微笑した。
そして、それに呼応するようにあどけなさ少年の笑い声と馬鹿にするような少女の笑い声が聞こえた。
『助手、君のその解答は平凡過ぎる。平凡な思考の上に真理はない。平常な価値観は所詮、人間の上で構成された余分に過ぎない。そんなモノで語れる真理はない、真理とは良識で語れるものじゃない……』
「っ……じゃあ、適切な回答を教えてくださいよ……先生」
彼女の発言と周囲でこちらを小馬鹿にする笑い声に少しムカッとした俺は、少し馬鹿にするようにそう言った。だが、彼女はそんなこと意にも介さないとばかりに、平然と回答を口にした。
『なに、回答は単純だ……等価値の範囲、根底にあるのはそんなものだよ』
「と、等価交換、ですか?」
錬金術の原理にも聞こえるその解答に少々理解が出来ない、という風に首を傾げた。そして、その問いに彼女は頷き答える。
『雑でも
その回答へ辿り着くのに、そこへ至るのに、どれほどの魔術師が挫折し、夢半ばで諦めたのだろうか? そんな思い回答を彼女は軽く言ってのける。
彼女は、この魔女は――
『
世界全てを嘲笑うようにそう言った。
あの人の言葉を簡単に訳すのなら、『自ら世界を越えることは極めて困難、それこそ魔法のようなモノが必要になる。だが、呼ばれてそれを応じる形でなら容易である』との解釈だ。
呼ぶ側としても、対象の座標が不安定であり何が来るか分からない、という
と、そんなことを思い出している間に、目に映る世界は大きく変化していた。日本の風景とはあまりにもかけ離れている。すぐさまここが日本では、いや、さっきまでの世界ではないと気づいた。
俺は気づけば異世界にいた――
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