第4話 初めての契約


 ファスを出て、少し奥の草原までやって来た。他の冒険者もいたせいか、ファス付近には魔犬が居なかった。


「にしても、何気に初めてみたな。転生してからの容姿」

『まあ、街にはそこまで上等な鏡がありませんでしたからね。』


 道中に割と大きな水たまりがあったので、覗いたら反射で自身の姿がはっきりと浮かんだ。

 特徴的なのは、手触りが良さそうな少し長い黒髪にルビーの様に綺麗な赤い瞳。他はハッキリ言って普通だな。総じて評価を出すと、割と整っているけどイケメンよりの普通顔って感じだ。


「見られて嫌な顔じゃ無いならそれでいいや」

『主様はポジティブですね』

「二度目の人生、楽しまなきゃ損だからな。ネガティブは前世においてきた」


 そんなこんなで三十分。草原から木々がちょくちょく生えている場所までやってくると、目当ての相手が現れた。


「グルゥ……」



――――――――――――――――

『魔犬』 0歳 オス 種族:魔犬

クラス:『魔犬』

スキルポイント:0

レベル:1 

HP:8/8

MP:3/3

筋力:10

耐久:4

俊敏:10

魔力:3

幸運:6

スキル:『嗅覚強化:E級』『身体強化:E級』

祝福:

称号:

――――――――――――――――



「お、やっとでたか。」

『主様の希望で、最初は一人で戦闘を行う事を承諾しましたが……油断しないでくださいね?』

「大丈夫。いざとなったら遠慮なく頼らせてもらうさ」


 涎を垂らし、今にも飛びついてきそうな中型犬の魔犬はじりじりと距離を詰めながらこちらの様子を窺っている。

 飛び掛かってきても避けれるように警戒しながら、こちらも初木の杖を構えて魔法を唱えて準備を整える。


「……グルぁっ!」

「―C級闇魔法【闇ノ手ダークハンド】!」

「グルッ?!」


 C級闇魔法【闇ノ手ダークハンド】。闇で出来た二本の手を動かし、敵を掴んで拘束したり投げ飛ばしたりする魔法。

 飛び掛かりに合わせてこの魔法を使い、地面に叩きつけて魔犬を拘束する。


「グっ、グルぅ……」

「残りはっと……3HPか。これなら契約できるかな?」

『いけると思いますよ。さっきの一撃でどっちが上かは分からされましたし』


 召喚術の契約は、相手との同意か動けない程に弱らした状態でないと成立させる事が出来ない。後者は基本的に、スライムなんかの意思疎通が難しい相手に用いる手段なのだが、今回は明らかに相手がヤル気だったので弱らす方法を取った。


「俺は、魔犬と契約する」

「……グル」


 魔犬と契約すると、魔犬が魔力体と成って俺の内に収まる。


「契約完了っと。これからよろしくな」

『ワンっ!』


 言葉が離せない配下からは感情が直に伝わってくる。契約した魔犬は俺を認めてくれたのか、楽しそうによろしくと伝わってくる。


「名前はどうしようか?魔犬のオスだから……よし、決めた。お前の名前は、¨マルトロス¨だ!」

『ワオォンっ!』

「来てくれ、¨マルトロス¨」


――――――――――――――――

『マルトロス』 0歳 オス 種族:魔犬

クラス:『魔犬』

スキルポイント:0

レベル:1 

HP:58/58(+50)

MP:53/53(+50)

筋力:60(+50)

耐久:54(+50)

俊敏:60(+50)

魔力:53(+50)

幸運:56(+50)

スキル:『嗅覚強化:D級』『身体強化:D級』

祝福:『召喚士の加護』

称号:『召喚士と契約したモノ』

――――――――――――――――


『召喚術:A級の効果ですね。主のステータスで一番高い数値分、配下に強化が入ります。』

「召喚術、マジ強ぇ……」


 冒険者ランクに限らずA級は一千を凌駕するとは聞いてが、いざ目の当たりにするとかなり驚いてしまう。当たり前の様に使っていた鑑定の魔眼も、本来ならもっと分かり難くて見えにくのでは?俺のはS級だからかなり便利なのではなかろうか。


『まあ一回だけ目視するだけで相手のほぼ全てを見る事が出来るなんて、S級にしか無理な芸当です。A級でも全て見るのには長い時間を掛ける必要がありますし』

「……女神さま、マジで感謝してます。貴女のお陰で俺は快適に生きていけます」


 転生してからまだ一日も経っていないというのに、女神さまへの感謝が絶えない。いや、マジで感謝が欠かせない。


「ともかく、依頼は討伐だからマルトロスはノーカンとして、後五体倒さなきゃいけないからな。早速、マルトロスの力を見せてもらおうか」

「ワフッ!」


 辺りを見渡してもそれっぽい気配が感じ取れないので、場所を移動する。

 五分ほど移動すると、先程と同じ様な感じで魔犬が飛び出してきた。それも三体。


「ステータスは契約前のマルトロスと同じくらい。これなら俺とマルトロスだけでも大丈夫そうだな。いけるか? マルトロス」

「グル!」


 余裕!っと元気な返事が返ってきたので、さっきと同じ様に魔法を唱えながら敵を見据える。


「初動で一体落とす。その間に二体を抑えてくれ。倒せそうならそのまま倒せ。……行くぞ?」

「グルゥっ!」

「―【闇縛りダークバインド】、そして【闇切りダークカッター】!」


 敵の一体が魔力圏内に入ると同時に、予めセットしていた魔法を発動する。闇でできた縄で敵を縛る【闇縛りダークバインド】で先頭の一体の動きを止めて、その間に唱え終えた、闇の斬撃を飛ばして敵を攻撃する魔法【闇切りダークカッター】を放つ。

 

「グっ―」

「先ずは一体。次!」


 放たれた【闇切り】は狙い通りに胸元を切り裂き、HPを削り切る。


『―グルゥっ!』

「ぐるっ」

『グルルァっ!』

「くるぁぁ――」


「―わぉぉぉんっ!」 


「……は、要らなかったな。流石にステータスの差が大きかったか」


 HPが尽きた事を確認して、マルトロスの援護に行こうとしたが、マルトロスはステータスの差を利用してグルグルと二体の周りを走って取り囲み、隙が出来た瞬間にダメ押しで身体強化を使った噛み付きで喉元を噛み千切って二体とも絶命させていた。

 

「よくやった、マルトロス!」

「ワフっ!」


 うむ、後でその血だらけの口元もちゃんと洗おうな?

 

 マルトロスは召喚術の強化も瞬時に使い熟していたし、かなりの才能マンかもしれない。

 

「―なんだ、この音? パンパカーンって、ゲームの効果音みたいな……もしかして」

『おめでとうございます、主様。レベルアップです』

「おお!これがレベルアップか!」


 初めてのレベルアップ。成長率やら獲得ポイントやらが人より多く増えるらしいが、一体どんな風に上がっていくのか。


 ワクワクしながら俺はステータス画面を開いた。

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