7.女鍛冶の一撃
「君は一体……何をしに来たんだ……!?」
怒りを含んだ声で俺に語りかけていたのは、紛れもない女鍛冶だった。
そんな彼女の視線の先には、腹をパンパンに膨らませた俺が”満足そうな顔”で食堂から出てきている。
「いやー、幻術にかかっちゃって大変でしたよ。おかげで沢山美味しい料理を食べちゃって……」
「何を言っているのか、全く理解ができない」
眉間にシワを寄せた彼女は、俺の苦労も知らずに不満を募らせている様子だ。
言っとくけど、俺だって大変だったんだよ!?マナー間違えて無限に美味しい肉やスープを食べ続けたんですから!
おかげで洋館に到着するまで歩き続けて消費したカロリーを、全て取り返せましたよ。
ご馳走様でした!
◇
……とりあえず満腹から一息置いた俺は、何も理解できていない様子の女鍛冶に情報の共有を始める。
「どうやらここは、”食堂”という局所的な概念”に対して縛りをつけた幻術トラップだったみたいです。それで……待って、そういえばアナタの名前聞いてなかったですよね!?あんなに長く一緒に歩いてきたのに」
「……リード。ナツキ・リードだ」
「ナツキさん……素敵な名前ですね!それで、ナツキさんの方は他の部屋で何か見つかりましたか?」
「……いや、雑魚の魔獣が数体いただけだ。刀の素材にはならない」
「なるほど~?じゃあこの強力な幻術をかけた本体はどこに……」
俺がそう言って、ふと周りを見渡した、
——————その瞬間だった。
「へぇ、あの幻術から抜け出せた人なんて、何十年ぶりでしょうか?」
「「!?!?」」
突如俺の背後から少女の声が聞こえる。
焦った俺が勢いよく振り向くと、そこには変わらないメイド服を着た禍々しい魔力を持つ少女が立っていたのだ。
長い黒髪ツインテールの少女は、軽く触れただけで消えてしまいそうな、そんな儚さも俺に感じさせている。
「ビックリしたぁ~!君どこに隠れてたの?お兄さん全然気付かなかったよ」
「さて、どこでしょうね。どこにでも居ましたし、どこにも居ませんでしたよ」
「え、何それ。なぞなぞ?」
するとそれに対し少女はフッと口角を上げ、不敵な笑みを俺たちの方へと向けた。
「ここは私が数十年前から過ごしてきた、いわば”蛹”のような場所です。そして今日100人目の人間を吸収した事によって、私はとうとう孵化するのです。この世界を恐怖に陥れた”魔王”の再来として!!」
そう宣言した少女は、ここでとうとう正体を表し始める。
小さな体はドンドンと膨れ上がり、体内から黒い筋肉のようなモノが成虫のように溢れ出始めたのだ!
そして体内から溢れ出る魔力は、おそらく魔力感知スキルがない人間でも知覚できるほどに濃度が濃く、地面にドロォ……と垂れ流しになっていた。
もはや少女の姿は人間を欺くための着ぐるみだったのだろうと、今になって確信している。
【グチュグチョ……!】
気付けばその”魔者”の体は洋館の廊下の天井にまで達し、そこからまだまだ大きくなる様子を見せていた!
「うわぁ、気持ちわる……。ナツキさん、コイツが刀の素材になるんすよね?さーて、どこまで大きくなるのか……」
そう言って俺は左腰に刺している刀の
(まずは様子見として、弱い斬撃で切り掛かってみるか?いや、流石に遠距離攻撃の方が安全か。それとも最大級の技で一気に仕留めにかかるか?)
俺は色んな思考を巡らせる。
なにせ見るからに危険度A~Sに匹敵する魔者。下手に攻撃したら、その攻撃が逆に敵の有利に働いてしまう事だってあるのだ。
とにかく慎重かつ大胆に……。
——————なんて考えていた矢先だった
【ビュォォォオオンッッッ】
突然俺の耳元に、とてつもなく早い”空気を切る音”が響いていた。
それは命の危険を感じさせるような”威圧感”と”殺気”も含んでいる。
そしてその1秒後には、俺の前方に信じられない光景も広がっていた。
「グ……ギャアアァアァアアア!?!?」
今まさに巨大化の途中だった魔者が、タテに真っ二つに切り裂かれていたのだ!!切られた断面からは紫の血が噴き出しており、どう見ても致命傷にしか見えない。
……だが被害はこれだけでは収まらなかった!
なにせ魔者の背後に伸びていた洋館の廊下も、謎の衝撃波によって跡形もなくなっていたのだから!!
何ならその50mぐらい先にある森の一部すら、一瞬にして更地へと変わってしまっている。まさに1秒の間に目の前が爆心地のように破壊し尽くされたといっていい状態だったのだ。
こんな国家崩壊レベルの一撃、一体誰が……。
「ま、まさか……」
俺は恐る恐る後ろを振り向く。
攻撃が飛んできたであろう、恐ろしい背後である。
するとそこには……
当然のように刀を振り下ろした様子のナツキさんが立っていた!
そんな彼女の持つ刀は赤い炎を纏っており、見ただけで震えそうになるほど強大な魔力を閉じ込めている。
そして何より彼女自身も、とてつもない魔力の圧を身体から放っていた。
その魔力圧だけで周辺の壁や床が焼き切れてしまうと錯覚してしまうような、そんな高い練度だ。
この人、俺が想像していた100倍ヤバい人かもしれない。今後は怒らせないようにしよう……。
「ナツキさん?も、問答無用で切りましたね?」
とりあえず俺は、驚きを隠せないまま彼女に問いかけていた。
すると彼女も、さも当然のように自分の行動を説明し始める。
「当たり前だろう。私たちの目的は敵を進化させる事か?敵の進化を見守る事か?違う、ただ刀の素材を取りにきただけだ」
「ド正論ッッ……!」
「さぁ、まだ息があるみたいだ。早くトドメをさせ。最後ぐらいは仕事したいだろ?」
「く……!言われなくてもやりますよ!ハイハイ!」
結局俺は大した事も言い返せず、グチョグチョと床で肉体を動かしている魔者に向き合っていた。
そして最後ぐらいナツキさんに良いところを見せるべく、割と強力な部類の雷撃技を放とうとしたのだが……。
【クソ……ガァァアアアア!!!?】
どうやら魔者は最後の力を振り絞って、体を強く発光させていた。
そして成長途中だった筋肉をとてつもない速度でさらに膨張させ、間も無くして洋館及び森全体を包むレベルの大規模な魔力爆発を起こすのだった……!!
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