5.クエスト開始
「君は本当にSランク冒険者か?その割には細いし小さいな。魔力量は多いようだが……。とにかく足だけは引っ張らないでくれ」
「急に悪口言うのやめてもらっていいですかね?」
◇
現在俺と女刀鍛冶師の2人は、広大で過酷な雪山・チーリン山脈を下り終えつつあった。
ちなみに女の仮眠は1時間ほどで済んで、俺は大した準備も出来ていない。ていうか”どこ”で”何をしに”いくのかもハッキリしていないので、できる準備といえば持ち運べる食料の調達と、調理器具の用意ぐらいだ。
さらに女は、山の
誰の墓なのかは分からないが、とりあえず俺も流れで手を合わせてみる。山の安全を守る神とか何かかな?
とにかくこの女の行動や思想は全く分からないままだ……。
「そもそもこれって、騎士団長の依頼クエストでしたよね?俺の事チビ呼ばわりしてましたけど、アナタこそ誰なんですか?てっきり騎士団長と一緒に行くのかと思ってましたよ」
「……正式には私から騎士団長に仲介して出してもらった依頼だ。私はギルドには入れない人間だからな。もう質問は無いな?遠足じゃないんだ、黙って歩け」
「……はぁぁ?せっかく話せたと思ったら、普通に冷たい人だったんですね!ていうかギルド入れないって俺と同じじゃん……」
俺は少し怒りを含んだ声で会話を終えていた。
クソ、旅に出るなら会話は大事だろ!?魔物と戦うなら連携も必要になってくるしさ?
ていうかこの女、デカい。胸だけじゃなく身長もデカい!
俺よりちょっと、いや、かなり身長デカいからって調子に乗りやがって!
そりゃ俺も、男の冒険者にしては低い165cm(自称)のことは少し気にしてますよ?でもそれを戦闘技術とスキルで補ってSランク冒険者になったんですから。
なのに170cm中盤、下手したら180cm弱はありそうなアナタに、俺みたいなチビの気持ちなんて分かるもんかッッ!
……それはそうと、少し身長分けて欲しい。
◇
とりあえず俺は、我慢できなくなった気持ちをドンドンと吐き出す事にした。
「はぁ。もう俺が一方的に話してても良いですか?俺喋るの大好きなんで、黙って歩いてると死んじゃうんですよ」
「………勝手にしろ」
「よし、じゃあまずは俺がどこで生まれ、どんな幼少期を過ごしてきたか5部構成に渡って語りますね!まず産まれはクローブ王国の辺境で……」
そこからの俺は
貧困な幼少期の話、とある冒険者に助けられて冒険者を目指した話、今使っている刀の素材を手に入れた時の話。
—————そして
ひたすら話したのだ。
最低限の防具と刀を持つ彼女の反応は相変わらず薄かったが、それでも久しぶりに自分の人生を振り返った意味は割とあったと思う。
ちょうど冒険者活動を終えた節目だったしね。
……あっ、反応が薄かったとは言ったけど、1つだけ彼女の表情が大きく変わった話題もあったな。
それは”悪鬼討伐戦”で俺が仲間を助けた話だ。
その時だけ彼女の綺麗に整った表情が明らかに崩れる様子が目に入った。
もしかしてこの人もクローブの王達と同じく。仲間を助けて悪鬼を逃した俺に嫌悪感を抱いたのだろうか?
だとしたら、もうこの旅で彼女と親しく話せる事は本当にないのかもしれない……。
◇
「この森の奥にある洋館が目的地だ。ここからはいつ襲われてもおかしく無い。気を引き締めろ」
「え?急に喋るからビックリした。……とりあえず、洋館内の魔物を狩ればいいんすよね?」
かれこれ4時間ぐらいだろうか?
俺たちはクローブの国境沿い、つまりはチーリン山脈沿いを歩き続けて大きな森へと到着していた。
生まれも育ちもクローブ王国の俺だが、ここの森には来たことがない。一体どんな魔物がいるのか、ワクワクしてきたな!
—————なんて考えていた矢先だった。
「う……うわぁあああ!やめろ!やめてくれ!もう何もしないから!!」
突如森の奥から響いた、男の悲痛な叫び声。
どうやら俺たち以外にも、森に誰かいたようだ。
「……洋館の方だな」
すると俺の隣にいたはずの赤髪女は、とてつもないスピードで声の聞こえた方向へと走り始めていた。
そのスピードは、明らかに"素の身体能力"ではない。
そもそもこの世界において、魔力は色々なエネルギーとして還元することができる。
俺も使っている魔刀の力の源、魔術の源、そしてこの世界の人間が持つ特殊な”個別スキル”の源、このように用途は様々だ。
だがそれに加えて、”魔力の扱いに長けた者”はさらなる使い方を編み出した。
それは魔力を”筋肉や血液”に浸透させ、身体能力を爆発的に上げる技術だ!
これが発明されて以降は、長年魔物などの脅威に怯えていた人類の戦闘力は著しく底上げされ、今や世界を回す中心は人間となった。
……ちなみに、もちろん俺もその技術を巧みに使いこなす(元)Sランク冒険者です!!先日のレッドバードを狩った際も、空中に高く飛び上がれたのはこの身体能力向上のおかげなのだ。
◇
つまり人間である彼女が凄まじい速度で走り出したという事は、彼女もこの技術を使いこなしているという事になる。
だが俺が驚いたのは、その熟練度だ。
あの速度、あの最小限の魔力消費効率、その辺の刀鍛冶師とは思えない程にクオリティが高い。
ていうか下手したら、俺よりも上手い……!?
「おい何をしている!付いてこないなら今そこで死ね。足手まといだ」
あと口も悪い……!?
クソ、なめんじゃねぇぞコノヤロ。俺だって何度も死線をくぐり抜けてんだよ。一瞬でアンタを抜き去ってやるよ!
【ビュゥオオオンッッ!!!】
宣言通り俺は、約40m先で待つ彼女を一瞬にして抜き去り、さながら前世の徒競争のように先を走り続けていた。
どうだ!?俺をSランク冒険者なのか疑ってたけど、これを見たら少しは見直してくれるんじゃないの!?
……あれ待って、今の俺は冒険者じゃないんだった。ランクも剥奪された、ただの一般人じゃん。
「え、じゃあ彼女の疑いは正しいって事か。え待って、急に申し訳なってきたんですけど……」
だがそんな事を考えている間にも事態は変わっていく。
◇
「あれが洋館か」
俺の視界の先には、とうとう今回の目的地である”森の洋館”があった。
全体が深い草木に覆われており、もはや人の住めるような環境では無いのは明白だ。
だけどなぜか景色も相まってか、そこに神秘性を少し感じてしまう自分もいた。
だがそんな俺の耳に、突然予想外の声が飛び込む。
「またお客さまがいらっしゃいました。最高級のおもてなしをしなくては」
「………!?」
俺が声の聞こえた方向をバッと見ると、そこには洋館の2階からこちらを見つめる少女の姿があった。
パッと見た感じ、メイドのように見える。
だが正直そんな事はどうでもよかった。なぜならあの少女……。
「へぇ~……。可愛い顔してるのにエグい魔力漂わせてるじゃん。ギャップ萌えしそう」
俺は急に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます