4.自由な女鍛冶
それからさらに2日が経った。
さすがに刀鍛冶の女も作業を……
——————終えていなかった!!
「あのー、いつまで刀打ち続ける感じですかね?さすがにアナタが機械なのかもしれないって疑い始めてるんですけど」
「…………」
だが俺の問いかけに対して赤髪の女は、変わらず無言で刀を打ち続けては、たまに刀の表面を凝視して再び刀を熱して打ち続ける。
なんかもう、ここまでくると怖くなってきた。
刀鍛冶ってこれが普通なの?もう4日間この状態なんですよ!?
◇
……こうなったらもう仕方がない、グランドボアの熟成肉でも食うか!(唐突)
実は初日に狩ったグランドボアの肉を冷蔵していたんだよね。
自然の雪山だから、わざわざ冷蔵庫なんて用意しなくてもいい。
温度管理と空気の流れが難しい所ではあるは、まぁこればっかりは定期的に目で確認するしかない。一歩間違えれば腐敗肉になってしまうからな。
とにかく方法を間違えさえしなければ、自然が作り出す最高の熟成調理法になる。
【パクッ……】
「や、柔らけぇ~!!」
俺は早速熟成肉を切り分け、小屋にあった炭火で表面をじっくりと焼いてから口に運んでいた。
ちなみに炭火焼きを借りる許可は貰っていない。だって赤髪の鍛冶は、俺の言葉には反応しないからね。
……それはそうと、大事な肉の感想なのだが……。
ホロホロと口の中で崩れていく肉は、脳内に幸せホルモンをドバドバと分泌させていた!
美味い、美味すぎるだろコレッ!!
冒険者時代に強い魔物を倒した時も気分はハイになっていたが、正直こういう過酷な環境で自給自足して食った肉の旨さには足元にも及ばない。
なんかもう女刀鍛冶の事も、Sランククエストの事も、どうでもよくなってきたな。
当初の予定通り、余生を自給自足のスローライフでまったりと過ごして……。
【ドォォォオオン!!!】
だがそんな事を考えはじめた矢先、突然鍛冶工房の方から聞いた事のないような爆発音が響いていた!
「な、何事!?」
さすがに爆発音に驚いた俺は、残った熟成肉を味わう事なく一気に胃の中へと詰め込み、そして小屋へと走りだす。
ただ刀を叩く音しか聞こえなかった小屋から突然大きな爆発音が響いたのだ、俺が焦ってしまうのも無理はない。
「だ、大丈夫っすか!!?」
そして勢いよく開いた扉の先に待っていた光景は……。
「………誰だ君は?」
何事もなかったかのように俺の顔をニラむ、赤髪の女鍛冶がいたのだった。
その初めて正面から見る瞳はとても大きく、美しく、だけど猛々しい強さを奥に秘めていた。
いや、ていうか……。
「しゃ、喋った!?アナタ喋れるんですか!?てっきり機械か何かだと思ってたのに!!」
「……質問に答えろ。一体君は何者だ。ここに何をしにきたんだ。刀を奪いにきたのなら、今ここで……」
「違う違う、違います!なんか魔力ヤバそうな刀を取り出すのやめてください!お、俺はクローブ騎士団長のクエストに書いてあった場所に来ただけです!何か聞いて無いんですかっ???」
「騎士団長……。あぁ、もしかして素材回収クエストの件か?」
女鍛冶はあまり変わらない表情で答えていた。
いや待って。そもそも俺を無視し続けて、さらには盗賊と疑った事を謝って欲しいんですけど!?
普通に失礼じゃない???
あっ、でも勝手に小屋に入って台所を使って、挙句の果てには水道や調理器具まで使っていた俺に強く言う権利なかったわ。
◇
……それにしてもこの女、そこらの冒険者とは明らかに”魔力量”が違うな。
美人で目力が強いだけでも若干圧を感じるのに、皮膚を覆っている異常なオーラは鋼鉄なんかよりも遥かに硬度がありそうだ。
ん?なんでそんな事が分かるのかって?それは俺の持つ魔眼スキル【
その能力はシンプルに”魔力を目で知覚”する事ができるようになる、ぶっちゃけハズレスキルだ。ハハハ……。
しかし!!この世界では、熟練者になればスキル効果を進化させる”真スキル解放”という状態に到達する事ができる!
もちろん元Sランク冒険者の俺はスキルを解放しており、現在は魔眼の【魔力感知・
この状態になった俺は人間だろうが魔物だろうが、相手の体内に流れる魔力を完全に見透かす事ができるようになり、次の行動や攻撃を完璧に近い状態で予測できるようになった。
いわば”一種の未来予知”にすら近いスキルを手に入れたのだ。
……とまぁ少し話が長くなってしまったが、要するに俺ほどの魔力感知スキルで見たこの女鍛冶の魔力硬度は、控えめに言ってヤバいって事だ。
少なくとも今の俺が全力で切り掛かっても、一振りで傷をつけるのは”かなり難しいレベル”だろう。Sランク刀使いの俺がそう感じるんだから、相当な練度だ。
かなり興味深いな、この美人鍛冶め……。このクエスト、さらに面白くなりそうだ!
◇
だがそんな事を考えていると、女の方が再び口を開く。
「確か今回の素材の場所は遠かったな。……とりあえず刀の納期は迫っている。少しだけ眠ったら、スグに素材回収クエストに出発しよう。弱そうなお前も準備しておけ」
「え、準備って……?ていうか弱そうって……?」
だが女は俺の質問に答える事はなかった。
後ろでくくっていた髪をバサァッとほどき、まるで炎竜の美しい羽のように赤い髪を広げて、そのまま奥の部屋へと入っていくのだった。
おそらくあそこは寝室。これから仮眠を取るつもりらしい。
「えーーっと……これはとんでもない女に捕まったかもしれない……」
今の俺は腹こそ満たされてはいるが、心のHPは少しだけ減らされているのだった。
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