3.料理無双

【到着1日目の夜】


 早速モンスターを狩って帰った俺は、小屋の扉を開けて驚愕していた。

 なにせ赤髪の女は、昼間と変わらずに刀を打ち続けていたのだから!


「なんという集中力……!」


 確かに魔力を込めた刀剣を作るには時間がかかるって聞いた事はあるけど、こんなにずっと打ち続けるもんなんだな。


 そもそもこの世界における【刀剣】は、作り手の鍛治によって”刀”なのか”剣”なのか正反対に分かれる。

 具体的に言うと、国によって刀剣の種類は分かれるのだ。


 ちなみに俺が王都を出入り禁止になったクローブ大陸最大の【クローブ王国】に関しては、刀ではなく剣が主流となっている。

 そして世界4大陸の内、【セイリュウ大陸】と【スザク大陸】に関しては刀が主流であり、刀には前世の日本でいう"漢字"の名称がつけられている。


 実は俺の愛刀はセイリュウの刀鍛冶に作ってもらったモノだから、名前は”百雷鳴々ひゃくらいめいめい”っていう名前だ。えぇ、カッコいいから気に入ってます。



 あと残りのシラトラ大陸に関しては、ここのクローブ大陸と同じく"剣“が主流とされているな。とはいえシラトラで生活している人類はほとんどいないという話だが……。


 ちなみに剣の名前に関しては、日本時代でいうカタカナが使われているみたいだ。


 ……でもまぁ刀だろうが剣だろうが、ぶっちゃけ使いやすさは魔物の素材と作り手次第なんだけどね。。。



 まぁそれはいいや。別に俺は刀鍛冶を目指しにきた訳でもないからな!

 なにせ今の俺は夢にまで見た、好きにモンスターを狩って好きに調理できるスローライフを満喫しているのだ!


 こんなに寒い雪山なのは少し想定外だったけど、ランクや報酬に縛られていた頃に比べれば可愛いもんだよな。



 とりあえず俺は狩ってきた3体の”グランドボア”の解体を始める事にした。

 日本時代の記憶で言うと、とても大きくて凶暴なイノシシとでも言っておこうか。

 小さい個体でも、体長は3mを超えている。


 ちなみに危険度ランクはBで、それは村1つを破壊する危険性があるモンスターにつけられるランクだ。

 だがそれはあくまで”1匹”の危険度ランク。3体ともなれば、都市崩壊レベルの危険度ランクAになるだろう。


————————

危険度ランク


SS:世界崩壊レベル

S:国家崩壊レベル

A:都市崩壊レベル

B:村破壊レベル

C:一般人殺傷レベル

D:子供は危険

E:無害

————————


「さーて、グランドボアは肩付近と尻付近の肉が美味かったよな。料理人の記憶を思い出したのはマジで生きていく上でラッキーだ!!今まで以上に楽しく美味しく食べさせてもらうからなっ!」



 そして俺は長年連れ添ってきた”愛刀”を器用に使いながら、グランドボアの解体を始めてきた。

 極寒の影響もあってか、開いたグランドボアの体内からはムワァ……と湯気が立ち上る。俺も冒険者になって長いが、この生々しさこそが命を頂くと言う事なのだ。


 内蔵も肉も皮も、俺は全て無駄にはしない。全て俺の命に変えて『いただきます』。



 とりあえず冒険者卒業初日だし、豪快に焼肉といこうか!

 俺は背負っていたカバンから調理道具を取り出し、風を凌げる木々の間で火をつける。

 空気が乾燥しているおかげか、意外にも簡単に火はついてくれて助かった。


 ちなみに俺が背負ってきた大きな荷物は、料理に関する道具が9割を占めている!

 フッフッフ、王都を出る時に一式揃えていたのだよ。素晴らしい準備、さすがSランク元冒険者だね!


 ……とりあえずフライパンに油を引いて、ジックリと温めよう。

 そして綺麗に切り分けたグランドボアの肉に塩コショウを豪快に振りかけ、ソレを一気にフライパンへと敷き詰めた。


 ここで俺は”ジュワアア”と弾ける油の音を鼓膜に響かせて、生きている喜びを全身に行き渡らせるのが日課だ。

 いわばこれも料理の醍醐味の内だからね。


「……ジュルリ」


 待ってやばい、見ているだけでヨダレが止まらないぞ!?

 寒いせいか腹も異常に減っているのだ、もはや脳内は【肉】の一文字で埋め尽くされている!


「それじゃあ命に感謝して……いただきまあああす!!!」


 そして俺は熱々で肉厚なグランドボアの肉を口いっぱいにガッと詰め込み、食った!とにかく食い尽くした!

 溢れる肉汁と脂は、まさにこの世で1番贅沢な液体なのは間違い無いだろう。


「だめだ、幸せすぎる……!!」


 途中あまりの美味しさに雪上に倒れ込んでしまう時間もあったが、大食いの俺が3体分の肉を食い尽くすのに60分もかからなかった。


 ちなみに途中でシンプルな焼き調理以外のレシピも考えたが、結局最後まで他の調理法をする事はなかった。

 やっぱりシンプルな”焼き”こそが1番最強なのだと実感させられた90分でした!



 ……だがそんな幸せの中でも、近くの小屋からは変わらず刀を叩く音が響いている。


————————


【到着2日目の昼】


 昨日の肉は美味かったな!

 量も食べたし、今日の朝飯は必要無いほどに満足な食事だった。


 しかし人間はどんな時も腹が空くモノだ。こんな極寒なら尚更ね。

 とりあえず寝るときだけ世話になった鍛治小屋を出た俺は、再びモンスター狩りへと向かうことにした。


 ちなみに夜中も刀鍛冶の女はずっと刀を打ち続けていた。

 カンカンカンカン、ノイローゼになるレベルで打ち続けていた。


 途中で熱した刀を折り返したり、新たな鉄のようなモノで刀を包んだりしていたが、正直何をしているのかはよく分からない。


 だが幸い叩く時はリズムが一定だったおかげか、気付けば俺は眠る事が出来ていた。

 我ながら慣れっていうのは怖いモノだと改めて実感した夜でもあったな。



 ……まぁそんな事はどうでもいい。

 だって今日は鶏肉が食いたいんだ!育ち盛り万歳!


 とりあえず昨日から空を飛んでるレッドバードの群れに気付いていた俺は、早速空に向けて高く高く飛び上がった!その高さ、約50mといった所か。


 そういや言い忘れてたけど、昨日のグランドボアは頭を刀で一太刀で落とした。

 アイツらは意識がなくなっても突っ込んでくるようなヤバいモンスターだからな。頭を一太刀で落とさないと、辺り一体の環境がグチャグチャになって雪崩なだれも起きかけない。


 けど実は今日のレッドバード達はグランドボアよりも厄介だ。

 見た目は、大きな羽の割に小さい胴体をしている赤色の鳥なのだが、なにせ奴らは“連携”をしてくる。

 獲物を狩るために”知能”を身につけた、文句なしのAランクモンスター群なのだ。


「こういう時も一気に仕留めるのが確実……!」


 俺は過去にスザク大陸にある渓谷首都で仕留めた雷光龍らいこうりゅう”の素材で作られた愛刀【百雷鳴々】に魔力を込め、それを一気に雷撃の技へと変換する。


 実はこの世界で作られている魔剣や魔刀は、使い手が魔力を込める事によって、より強大な技やエネルギーを生み出す事ができるようになっている。

 いわば自身の魔力増幅機でもあり、技の有効範囲を広げる長い手足のようなモノでもある。


 そして今から俺が放つのは、俺の魔力を雷に変換して放つ技……!



「「万雷喝采威ばんらいかっさいおどし!」」



 すると俺の刀を中心にして辺り一帯の雲から雷が発生したと思えば、それらが空中のレッドバード達に向かって一斉に攻撃を始めていた!


【バリバリィ!ドゴォォオン!!】


 この技は雷雲の範囲内にいる敵に対して、俺の魔力が尽きるまで雷を落とし続ける事ができる。

 効果はマヒや失神をはじめ、最悪死に至らしめる事も出来る広範囲の技なのだ!


 範囲が広い分殺傷能力は少し低いが、数の多いモンスターを狩るには使い勝手の良い技なんだよな。


「ピ……ギヤァアア……」


 まさかの奇襲によって動く事の出来なくなったレッドバード達は、少し黒焦げになった姿で地面に倒れていた。

 どうやら俺の技で一網打尽にできたようだな。


「よし、思った以上に上手くいったぞ!」


 さーて、こんなに作戦が上手くいったのなら、次にする事は……?



 さぁ、腹ごしらえの時間だっっ!!


 俺は昨日同様に”刀”で捌いたレッドバードの肉を、小さなナイフでさらに細かく刻んで”ひき肉”を作る。


 そう、今日は”鶏つくね”を頂こうと思います!


 というのもこのレッドバードの肉、かなり鶏肉に近い繊維と色と弾力なのだ。予定通り、鶏肉と同じ扱いで大丈夫な気がする。


 それにこの世界の調味料は日本時代と似た種類のモノも沢山ある。

 料理人だった前世の知識を最大限活かして”甘辛ビッグつくね”を作っちゃうからね!!


【グゥゥゥウ~~】


 俺の腹の虫が、チーリン山脈にこだまするように響き渡っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る