第87話 合流

「さて、おれの要件はこれで終わりだが………… お前さんたち、勇者の仲間だった聖刀使いを探してるんだったな?」



「はい、改めてお聞きしますがクロムさん、何かご存知ではないですか?」

 


「ああ、それについてだが───」

 クロムが何かしらを口にしようとしたその時、



「ヤッホー、イリア。お金は無事下ろせたよー。あとシロナの情報は手に入んなかった~」

 

 遠くから元気いっぱいの少女の声、もとい魔法使いエミルの声が聞こえてきた。


 エミルは魔族の少年少女、ユリウスとカタリナを連れて意気揚々とイリアたちのもとへと駆け寄った。



「あれ? イリア少し大きくなってない? え、封印が少し解けた? それじゃこのちっさい子がアゼル? 何それおかしい」

 アハハハと笑いながらエミルはアゼルの頭を撫で回す。



「止めろエミル。子供扱いするな!」



「だって子供なんだもん。それでこのおじさんは?」



「クロム、しがない刀鍛冶だよ。まあ刀に関しては廃業中だが。それでお前さんは? どうやら魔法使いのようだが」

 魔法使いの最上位階『黒金』のローブを見ながらクロムは問いかける。



「アタシ? アタシはエミル・ハルカゼ。見立て通り現役の魔法使いだよ」



「エミル。──ほう、お前があの、」

 何か思うところがあるのか、クロムはエミルを感慨深く見つめる。



「何さ、喧嘩だったらいつでも買うよ」

 キラリと瞳を輝かせて、実に良い笑顔でエミルは言い放つ。



「はっ、まさか。かの最強の魔法使いと喧嘩なんざ金を積まれたってゴメンだ」

 両手を挙げてクロムは冗談混じりに返す。



「この街でクロムさんに少しお世話になっていたんです。あとシロナの行方を知らないか聞いてたところでした」



「え? おじさんシロナがどこにいるか知ってるの?」



「…………まあ、それを丁度話すところだったんだがな。結論から言うと知らん」


「なにそれ」

 エミルは思わずズッコケる。



「……だが行き先ならひとつ心当たりがある。────刀神の里カグラって知っているか?」



「俺はこっちの地名についてはさっぱりだが、お前らはどうだ?」



「私も知らないですね」



「アタシは聞いたことある。聖刀使いが腕を磨いているっていう里でしょ? でもあれって実在したんだ。てっきり噂だけかと思ってた」



「まあ、そんなところか。魔法使いの隠れ里ほど『ある』と知れ渡っている場所でもないしな。おれは何度かそこに刀を卸したことがあるから知っているが、このホーグロンでも知らない連中がほとんどだろう」



「そこにシロナ、二刀流の聖刀使いがいるのですか?」



「いるかもしれないってだけだ。刀神の里は文字通り『刀神』、神掛かったほどの聖刀使いを生み出してきた里だ。自分の腕に行き詰った聖刀使いなら目指しても不思議はないってだけだ」



「それでも行ってみる価値はあると思います。教えていただきありがとうございます」

 イリアはまた、深々とクロムに頭を下げる。



「気にするな。場所は大境界の北端にほど近い岩山地帯にある。ここからなら二つほど街を渡るのがいいだろう」



「随分とお喋りになったじゃねえか」



「うん? お前らがどんな連中か分からなかったからな。まあお前さんらくらいのお人よしなら問題はないだろう」



「…………クロムさん、あなたもしかして、」

 イリアが何か言いかけるが、クロムはそれを遮って、



おれの用はこれで終わりだ。─────勇者よ、使。」

 そう言葉を言い残して、クロムはノソノソと帰っていった。



「あらら、行っちゃったね。ま、いいんじゃない? 次の目的地ができたんだし」



「え、ええ。そうですが……」

 イリアはまだ気になるようにクロムの後ろ姿を見つめる。



「それより、ユリウス! カタリナ! イリアに会ったら言うことがあったよね」

 一瞬で話題を切り替えて、エミルは後ろに控えていたユリウスとカタリナに促す。



「「はい!」」

 エミルの言葉に対して二人はハキハキと返事をし、



「「イリア!」」



「!? はい」

 突然名前を呼ばれたイリアは驚いてユリウスとカタリナと目を合わせる。

 前回気まずい別れ方をしてしまい、イリアは先ほどから二人とあまり視線が合わないようにしていたのだ。


 何か恨み言を言われるのではないかとイリアが身構えていると、



「「この前はイリアの事情も考えずに酷いことを言ってごめんなさい!!」」


 二人は深く頭を下げ、真っ直ぐな言葉でイリアに謝っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る