58.実行の時
「美味しいのです~!」
口いっぱいに頬張りながら、セラフィが嬉しそうに声を上げた。
食事の用意ができたことでようやく僕も彼女から解放され、今は全員で昼食をとっていた。
セラフィはよっぽどお腹が減っていたのか、常に何かしらを口に放り込んでいた。
「お口に合うようで良かったですわ。いっぱい食べてくださいね」
フランさんはセラフィに優しく微笑んだ。
さっきまで鼻血を垂れ流してた人物とは思えないなぁ。
「ご主人様に会えたし美味しい料理もあって、今日は最高の日なのですー!」
「ははっ、僕もセラフィに会えて嬉しいよ。まだ会えてない仲間はたくさんいるから、早く探さなきゃね」
「んぐ……ぷはっ、ご主人様はチヨメには会ってないです?」
「チヨメ? まだ会ってないなぁ。あの子もどこにいるかまだわからないしね」
「チヨメは王都にいるのです!」
「え!?」
セラフィがえっへんと胸を反らしてそう言った。
というか、チヨメがまさか王都にいるとは……アルゴン帝国に行こうとしてたけど、危うくすれ違いになるところだったな。
「セラフィ、チヨメはどこにいるの?」
「どこにいるかはわからないのです。でも、チヨメと一緒に食事をしたのです!」
「え、それだけ……?」
セラフィにはそれ以上のことがわからないようで、また口に料理を詰め込み始めてしまった。
肝心の居所がわからなければ、この王都中を探さなければいけない。
なかなか骨が折れる作業だなと思っていると、
「私もその場にいましたが、チヨメちゃんはどこか思い詰めてるように思えました。ソーコさんに会いたくて泣いてしまったくらいですし」
「え、チヨメが!?」
「そうなのです! アリシアがチヨメを泣かしたのです!」
「いえ、それは誤解で……! 確かに私の質問でそうなってしまいましたけど、そんなつもりはなくてですね――」
アリシアさんは慌てた様子で必死に弁解した。
彼女が酷いことを言うような人にはとても見えないので、きっと悪気があったわけじゃないだろう。
それよりも、チヨメが泣くってことが想像できないけど……よっぽど思い詰めてたのかなぁ。
「大丈夫ですよ。アリシアさんがそんな人だなんて思ってませんから。セラフィもそんなに責めちゃだめだよ?」
「あぅ……ごめんなさいなのです……」
僕に注意されたセラフィがシュンと大人しくなる。
その姿を見て、まるで子供だなと僕は思った。
「それでアリシアさん、チヨメのことについて教えてくれますか?」
「あ、はい。チヨメちゃんはソーコさんが……錬金術師だと言ってました。それで、アルゴン帝国には錬金術師の情報があると言っていて、私にもなにか知らないか聞いてきました」
チヨメは僕が錬金術師だってことをアリシアさんに話したのか。
それなら、少なくともここにいる人たちにはもう隠すこともないだろう。
「錬金術師? それはもういないのではないのですか?」
フランさんが疑問を口にする。
「確かにもういません。僕以外は、ですが……」
「ではやはり、チヨメちゃんが言っていたのは本当だったんですね」
「はい。本当のことをいうと色々とまずいことになってしまうので、薬師ということにしています。できれば皆さんも秘密にしていただけると……」
「もちろんですわ! やはりソーコさんは只者じゃなかったのですね!」
「フランなら信用できるのでお話しましたが、私ももちろん今後は口外しません」
「ありがとうございます。助かります」
「友人との時間を大切に」と、テッドさんとリリアンさんはこの場におらず、他にはアメリシアさんがいたけど「私も口外いたしません」と約束してくれた。
「うーむ、じゃあチヨメはアルゴン帝国に目を向けてるのも事実なんですね。やっぱりアルゴン帝国にある『影』って組織が関係しているのかなぁ」
「それについては聞いていませんが……チヨメちゃんが何かを決心した目をしていたのが気になったんです」
「決心、ですか?」
「はい。なにか重大なことをあの時決めたような……」
僕は、それはいったいなんだろうと考えたけど、答えは見つからなかった。
「主様、チヨメを探しますか?」
「うん、そうだね。まだ王都にいるかもしれないから、ちょっと探してくれる?」
「わかりましたわ。すぐに眷属たちに探させますわ」
僕はリリスにチヨメ捜索をお願いし、
「アリシアさん、色々教えてくれてありがとうございます。それに、セラフィとも仲良くしてくれて……お陰で無事に再会できました」
アリシアさんにお礼を言った。
彼女のお陰でセラフィとまた会うことができ、チヨメともすぐ会えるかもしれないからね。
「いえ、私こそセラフィと一緒に入れて楽しかったです。あの、チヨメちゃんとは別のお話なんですけど……」
「どうかしました?」
「私たちがこの国を訪れた理由をお話しようと思います」
◆◇◆
「チヨメ様、軍内部でなにやら動きがありそうです」
「……どんな?」
「はっ。詳細はわかっておりませんが、報告では戦争に備えた動きのようで、今後軍の移動も考えられます」
「……そう」
アルゴン帝国の動きに感づかれたかもしれない。
だが、もう止まることはできない。
「……今夜、暗殺を実行する」
チヨメが消え入りそうな声で呟く。
「……よろしいのですか?」
「……なにが」
「いえ……」
「暗殺が完了したら、すぐにこの国を出る。あなたたちも準備しておくこと」
「はっ」
チヨメの後ろから気配が消えた。
「……これで終わるはず」
彼女の瞳にもう迷いはなかった。
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