57.再会

「今日は友人が来ますの!」


 朝食後、フランさんはゆっくりと寛いでいる僕にそう言った。


「お友達ですか? それでしたら、今日は僕たちは出かけますね」


 僕がそう言うと、


「ち、違いますわ! 家を出てて欲しいのではなくて、紹介したいということですの!」


 と、フランさんは慌てて否定した。


「紹介ですか?」


「ええ、そうですわ。小さな頃からの友人でして、お互い相手の国に行ったときには必ず会いに行ってますのよ? 今、ボロン王国に滞在しているようでして、お昼を一緒にしようと思ってますの」


「そうだったんですね。でも、それでしたら尚のこと2人でゆっくりしたほうがいいんじゃないですか?」


 フランさんが僕たちに気を使っているのかと思い、そう提案した。


「いえ、ソーコさんたちのことも紹介したいですから、一緒にいて欲しいですわ。きっと仲良くなれますの」


「僕たちは構いませんが……」


 フランさんがアルゴン帝国に行くまでの間、僕たちは居候させてもらっているけど、特にやることもないので、端的に言えば「暇」なのだ。

 たまに街に遊びに行ったりはするけど、冒険者活動もしてないので基本的に時間は空いてるんだよね。


「よかったですわ! それじゃあまずは服を見に行きますわよ!」


「へ?」


 こうして僕たちは服を見に街に行くことになった。

 一応、お客さんに会うのに相応しい服装にするということで、モーリブ商会で扱ってる服を譲ってもらえるみたいだ。


「似合いますわー!」


「そ、そうですか?」


「とてもお似合いです、ソーコ様!」


「ええ、主様のかわいらしさがより引き立ちますわ」


「似合ってますよ、ソーコさん!」


 普段の服とは違う、ふりふりといかにも女の子らしいなぁという服装に着替え、僕は少し気恥ずかしかった。


「うーん、俺はいつもの姐御のほうが強そうでいいけどなぁ」


「あんたはもう黙ってなさい」


「そうです。邪魔だから外に出ててください」


「う……わかったよ」


 ネオンはとぼとぼと寂しそうに、店を追い出されたのだった。



 ◆◇◆



「お嬢様、お客様がご到着されました」


「待ってましたわ!」


 アメリシアさんの報告を聞いて、フランさんは勢いよく立ち上がった。


 ――きっとすごい楽しみにしてたんだろうなぁ。


 僕はそんなフランさんを見て、なんだか微笑ましいなと自然と顔が綻んだ。

 部屋を飛び出すフランさんに、僕たちは後からついていく。

 屋敷のホールにはフランさんのお友達がきており、


「久し振り、フラン!」


「アリシア! 待っていましたわ!」


 2人は――というか、フランさんがアリシアさんに抱きついた。


「無事に着いてよかったですわ! 教国からでは疲れたでしょう? さっそく昼食にいたしますわ。あ、それと、アリシアに紹介したい方たちがいますのよ?」


「あら、私も紹介したい子がいるのよ」


 アリシアさんがそう言うと後ろからぴょこりと現れ――、


「セラフィなのです! よろしくなのですよー! お昼ごはんを食べれるのです?」


 僕たちは固まるのだった。


「ちょっとセラフィったら、もう……ごめんなさいね」


「元気があってかわいらしいですわ。こちらも紹介しますので、もう少々待ってくださいね」


 そう言って、フランさんは僕たちのほうを見た。


「えと、ソーコです。薬師やってます。よろしくお願いします」


 僕はアリシアさんの前ということもあり、どうしていいか迷って簡単な挨拶をした。

 セラフィのほうを見てみると、


「ん? んん? んんんんんんっ!?!?」


 混乱しているのが見て取れた。


「セラフィ? どうしたの?」


 アリシアが心配そうに声をかけると、セラフィの目に溢れんばかりの涙がどんどん溜まっていき、


「ご主人様なのですううぅぅぅぅ――っ!?!」


「あっ!」


 ビタンッとそのまま卒倒するのであった。



 ◆◇◆



「ご主人様にやっと会えたのです~♪ アリシアに感謝なのです~♪」


「ははっ、よしよし」


 セラフィが気絶してしまったので、一旦僕たちは先ほどの部屋に彼女を運び、今は僕の膝の上でゴロゴロと甘えていた。


「セラフィ、ソーコ様が迷惑しています。今すぐそこをどきなさい」


「ええ、そうね。さっさとどかないと、無理やりどかせるわよ?」


 アンジェとリリスがそんなセラフィを冷たい声で容赦なく脅した。


「嫌です! 2人はずっとご主人様と一緒にいたのです! 今度はセラフィの番なのです!」


 セラフィは2人にぷいっとして、僕の腰にがっちりと抱きついて顔を埋めた。


「ぁ――、ちょっ……セラフィ、そんなにぐりぐりしないで!」


「もうご主人様から離れないのです~!」


「おまっ、何してんだ! さっさと姐御から離れやがれ!」


「……あなた、覚悟はできてるんでしょうね」


「この駄天使! 主様になんたる不敬を働いてるのよ!」


「聞こえないのです~♪」


 セラフィはさらにぐりぐりとそのまま顔を擦りつけてくるので、


「セ、セラフィ? ぁ……わ、わかったから一回離れよ? ね?」


「そ、そうよ、セラフィ。あなたのご主人様が困ってるわよっ」


 アリシアさんも少し顔を赤くしながら止めてくれたが、


「今日はいっぱい甘えるのです~! 逃がさないのです~!」


 と、セラフィの腕の力がさらに強まるのだった。

 助けを求めようとさっきから静かなフェルとフランさんを見ると、


「あぅ……」


「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


 フェルは赤くなった顔を手で覆い、フランさんは息を荒くしながら鼻血を垂れ流しているのだった。

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