40.一撃必殺

 僕は一切の手加減を捨て、2本のリーベンエンデを手に持った。

 さっきは《双一閃そういっせん》の飛ぶ斬撃版|双飛閃《そうひせん》で、芋虫のように転がって悲鳴を上げている大男の脚を斬った。

 あまりにも聞くに堪えない奴らの言葉は、僕にそうさせるだけの理由としては十分過ぎるほどだ。


「あぁ、あ、俺の両脚ぃぃい……!」


「うるさい。黙らないなら、次はその頭を斬り落とす」


「ひぃ……っ!」


 いまだ痛みと脚を失ったショックで騒ぐ大男を、僕は冷たく黙らせた。


 ――それがなんだって言うんだ。リーリのほうが……ッ!


 僕は衝動のままに暴れそうになるのをなんとか抑え、リーリの居場所を聞き出すことを優先する。


「ねえ、リーリはどこにいるの。言っとくけど、今の僕には余裕なんてないから、返答には気をつけてね」


 後ろを振り返って、ダンに忠告する。


「テ、テメ……くっ!」


「――させない!」


 ダンがエンハンスポーションを飲もうとしたので、僕は地面を蹴り上げて距離を詰め、腕を斬りつけた。


「っ――あっぶね!」


 だけど、間一髪のところで後ろへ逃げられてしまい、


「んぐ、んぐ――ッはぁ……! コイツはとっておきだ……なんたって上級だからなァ! はっきり言って大損だが、その分テメェの身体で稼がせてもらうぜェ!?」


 ダンが飲んだエンハンスポーションの効果は、『HP、MP、運を除いたステータスを15分間1.7倍に上昇させる』というもの。

 まあ正直、中級に毛が生えたくらいなもんだから効果に大した差はないけど、今の僕と比べればその差は更に広がってしまうことになる。


 ――くそぅ、さっきの攻撃があたってればなぁ……。


 スキルの使用にはクールタイム待ち時間というものがあって、一度使うとそのクールタイムが経過しないと再使用できないのだ。

 《双飛閃そうひせん》ならいけただろうけど、生憎さっきの大男に使っちゃったからなぁ。


「ハッ! さっきまでの威勢はどうしたよ? ビビッちまったかぁ!?」


「うるさい――!」


「おい! テメェ等も早くエンハンスポーションを飲みやがれ! 一応、念には念を、だ。このガキ一斉に叩くぞ。いいか、くれぐれも殺すんじゃねぇぞ!」


 後ろにいたダンの仲間達がエンハンスポーションを飲み、僕を逃さないようにぐるっと回りを取り囲んだ。


 ――これ以上、無駄な時間は掛けられない……!


 リーリのことが心配で、今すぐにでも駆けつけたい。

 僕はさっさとケリをつけるため、AOLでプレイヤーのみに許された『固有能力ユニークスキル』を発動することにした。


「《一撃必殺ブースト》!」


 スキルの発動と同時に僕の身体が光を帯びる。

 うん、問題なく発動できたみたいだ。

 この《一撃必殺ブースト》は、『次に使用する攻撃スキルの威力が5倍になる』というものだ。


「やれ――ッ!!」


 ダンの掛け声とともに襲いかかってくる悪者たち。


「――《双飛円閃そうひえんせん》!!」


 回転しながらぐるりと剣を振ると、僕を中心に全方位に向かって斬撃が飛び、敵を全員吹き飛ばした。

 《双飛円閃そうひえんせん》は、《双飛閃そうひせん》と回転斬りの《双円閃そうえんせん》というスキルを合わせた創作オリジンスキルだ。

 本来は威力が低いスキルなんだけど、倒れている相手を見る限り、《一撃必殺ブースト》の効果は十分あったみたいだね。


「な……なんなんだお前……」


 どうやら、ダンは彼等のように襲いかかってこないで、指示だけして自分は安全圏にいたみたいだ。

 どこまでも卑怯な奴め。


「僕は急いでるんだ。さっさとリーリの場所を教えて」


「く、くそ、化け物が――ッ!」


 ダンが魔剣を振り上げて闇雲に突っ込んでくる。

 あの時からまるで成長してない。

 僕は双剣をクロスして防ぎ、


「――ぁ」


 そのままダンの魔剣を弾き飛ばした。

 ダンは飛んでいく自分の武器を、間の抜けた顔で追いかけていた。


「こっち見て?」


「へ――へぶぁッ!?」


 一瞬で双剣を装備解除した僕は、ダンの顔面に格闘スキルの《正拳突せいけんづき》をかました。

 一回転、二回転と、地面に体を打ちつけながらダンが吹っ飛ぶ。

 再び双剣を持ってダンに近づき、


「早くして。これ以上抵抗するなら……」


 双剣を逆手に持って、ダンの顔すれすれに地面に突き刺した。


 ――あ、少し耳が切れちゃった。まあいいか。


「ヒッ――! わ、わかったわかった!! ガキの場所を教えるから、許してくれ!!」


 鼻が折れて顔面血だらけになったダンは、もうすっかり心も折れたかもしれない。

 でも――、


「僕はもうお前のことは信じないから。拘束するから、リーリのいるところまで道案内して」


 さすがの僕も、このタイミングでコイツの言うことを信用するつもりはなかった。

 引きずってでも連れていったほうがいいたろうと、僕はダンを拘束して道案内させる。


「よくもリーリに……薬ってなんの薬」


「薬……? ああ、それはヤツラがテキトウ言っただけだ! あのガキには手を出してねぇ」


 事実ならほっと胸をなでおろすけど、助かりたくて嘘を言ってるだけかもしれない。

 今は無事でいてくれることを祈るしかない。


「一応確認するけど、もう仲間とか待ち伏せしてないだろうね?」


「……アイツラで全部だ。嘘じゃねぇ」


「ふーん……まあ、信じてないけどね」


 僕はもしものためにリーベンエンデを1本握りしめたまま、もう片方の手でダンを拘束した縄を持って移動した。


「……ここだ。この建物の中にいる」


 スラムの入り組んだ路地を歩いて辿り着いたのは、ボロボロの建物だった。

 今にも倒壊しそうだし、なんならこの辺りで1番ひどい見た目だ。


「ほんとに、こんなところにリーリはいるの?」


「この状態で嘘ついたってしょうがねぇだろが」


「まあ、それもそう……かな? いや、でもなあ……」


 なんかもう疑心暗鬼になっちゃって、罠にしか思えない。

 でも、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」とも言うし……。


「しかたない、入るしかないか。もし嘘だったらただじゃおかないから」


 覚悟を決めて中に入る。

 ダンが「2階だ」と言ったので、階段を慎重に上がる。

 すると――、


「リーリ!!」


「ソーコお姉ちゃん……?」


 リーリだ!

 ああ、良かった、本当に良かった……憔悴してるけどなんとか大丈夫そうだ。


「おや、早かったですね――っと、いったいこれはどういうことですかねぇ、ダンさん?」


 僕の視界に入ってきたのは、あの時ホームに誘ってきたエルフだった。

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