30.賑やかな夜

「これから僕達のやること――目標と言ってもいいかな。まずは、元いたサポーター達を集めること。これが1番だ。フェルはまだ会ったことないけど、セラフィとチヨメっていう頼もしい仲間がまだ見つかってないし、他にも多くの仲間がいるんだ」


 フェルは真剣な表情で僕の話を聞き、アンジェとリリスが頷く。


「僕達は仲間であり家族でもあるんだ。必ずみんなを見つけ出さなくちゃ。まずは、みんなを探し出すための情報集めからかな。あ、それとホームだね。僕達のホーム『エレメント』をもう一度立ち上げるのもそうだけど、ハウスももっと大きなものを建てたいし、そのためにはお金も必要だ。だから、しばらくはここを拠点にして情報を集めつつ、お金を商人や冒険者として稼ごうと思うんだけど……どうかな?」


 出来るだけ早く他のサポーターを見つけたいけど、ストレージもないからお金は稼がなきゃいけない。

 それに冒険者の依頼もこなさないと、資格を失っちゃうしね。

 家を建てるなら、お金は多ければ多いほどいい。

 そのためには薬師としての仕事と、冒険者の仕事を両立してくのがきっと効率いいだろうね。


「あ、あの……フェルはどんなことをすればいいでしょうか?」


 フェルがおずおずと心配そうな顔で聞いてくる。

 彼女の今のレベルは低いから、貢献できることがないと思ってるかもしれない。

 でも、きっとそんなことはないと思う。


「フェルは、出来る限り僕と一緒に行動して欲しいかな。フェルの成長を考えると、そのほうが効率よさそうだしね。今は能力が低くても、きっとセシールなんかよりも強くなるし。だから、冒険者活動を積極的にしていこう」


「わ、わかりましたっ! どこまでソーコさんのお役に立てるかわかりませんが……いざという時には、盾になるつもりで頑張ります!」


「た、盾になんてさせないから安心して」


 思わぬフェルの返しに苦笑いする。

 たしかにセシール達にやられたけど、僕はそんなこと絶対にしないと誓える。

 仲間を使い捨てにするなんてね。


「リリスにも冒険者の資格を取ってもらって、アンジェと情報収集してもらったりもして欲しいかな。もちろん、基本的には一緒に行動するつもりだけど、今後は単独で動いてもらうこともあると思う」


 AOLではサポーターに簡単なことしか指示出来なかったので、自分で考えて行動してくれるのは非常に助かる。


「はい! お任せください、ソーコ様。お役に立てるよう、これまで以上に頑張ります!」


「主様のためなら、如何なる手段を用いてでも役目を果たしますわ。私の眷属も、手足のようにご自由にお使いくださいませ」


「ありがとう2人とも。それじゃあ早速だけど、家のことをお願いするセバスとカミラ以外の他の眷属に、他のサポーター達の情報を集めるように伝えてくれる?」


「承知いたしましたわ。命に替えても有用な情報を集めるように指示いたしますわ」


「うん、そこまで追い込まなくていいからね?」


 リリスの眷属は純血種だけでも13人もいるし、他も含めると何人いるか僕も知らない。

 全員で動いてくれれば、僕らだけで手掛かりを探すよりも効率いいだろう。


「お待ちください」


「ん?」


 アンジェから「待った」が掛かる。


「どうかした? アンジェ」


「先ほど『家のことを……』と仰られましたが、料理は私にお任せいただけませんか? ソーコ様に喜んでいただけるなら、是非是非担当させていただきたいです」


「それでしたら、フェルもアンジェさんのお手伝いさせてくださいっ!」


 アンジェとフェルが料理担当を申し出た。


「それがいいですわ、主様! ええ、2人の作る料理はとっても美味しかったですもの。まさに適材適所、ですわ!」


 2人の作る料理は美味しかったから、これからも食べられるなら嬉しい。

 それに、リリスも賛同しているならそうしよう。


「わかったよ。それじゃあ、2人にはこれからもお願いするね」


「「はい!」」


 2人は嬉しそうに返事をした。


「それで話を戻すけど、僕は商人としても今後は活動しなくちゃいけない。定期的に納品するって約束しちゃったもんね」


 ノルマは、『月に中級1本、下級3本、最下級5本』のポーションが最低ラインとなっており、それ以上の本数を納めるのは問題ない。

 正直、この程度なら毎日納品出来るレベルだけど、逆に言えばこれを毎日納品してたら異常と思われるってことのはず。

 さすがの僕も、それはヤバいってことくらいはわかるから自重するけどね。


「まあポーション作りなんて簡単だし、どっちかといえば冒険者のほうに専念することになるだろうけどね。とりあえず、明日はリリスとフェルの冒険者証を作りに行こうか」


「かしこまりましたわ」


「あの……フェルも試験を受けたほうがいいのでしょうか? これまで武器を握ることもほとんどなくて……荷物持ちをしていたので、戦闘経験もありません」


「ふむぅ」


 たしかに現在のフェルのステータスは低く、ダンやセシールよりも低い。

 だけど、彼らはあれで上位層の冒険者だから当然といえるし、素質で言えばフェルの方が圧倒的に上だ。

 僕がこっちに来てわかったことがあるけど、この世界の人達は、レベルやステータスいったものの概念がないようだ。

 努力や才能によってスキルを修得できると思っており、僕のように鑑定すら出来ないので、相手の力量がわかりにくいのだ。

 なので、自身の力量や相手の力量を測るには、冒険者ランクや長年の勘などが大事になってくるようだ。

 彼らにとってはそれが現実で、僕やサポーター達のようにゲームと同じみたいに出来る方がおかしいのだ。


 ――うーん……改めて考えてみると、僕ってこの世界ではかなりチート的な存在だなぁ。


 ま、それが悪いなんてこともないので、喜んで受け入れるけどさ。

 ともあれ、そういうこともあってフェルは戦闘に関して自分に自信が持てないのだろう。

 実際は、低ランクの冒険者くらいの強さはあると思うんだけどねぇ。


「じゃあ明日の朝、少しだけ僕と手合わせしてみよっか」


「え!? ソーコさんとですか!?」


「うん。そこで試験を受けるかどうか、判断してみよう。そうすれば、フェルも納得できるでしょ?」


「は、はい、わかりました。よろしくお願いします!」


 フェルは緊張した顔で頷いた。

 横にいるアンジェとリリスが、なぜか羨ましそうにしているけど、君達とはしないからね。

 フェルの相性からすると、アンジェのような体術メインか、短剣を使った攻撃スタイルもいいかもしれないな。


「ん、とりあえず今後のことはこんな感じかな? 今日はゆっくりお風呂にでも入って、しっかり休もうか」


 アンジェとフェルが食事の後片付けをしてる間に、僕とリリスはお風呂の準備をした。

 風呂場には水とお湯の出る魔道具が取り付けられてるので、それでお湯を張る。

 この世界は科学が発展してるわけじゃないけど、それなりに便利な世界だと思う。

 AOLではわからなかったことだけど、魔道具が優れているので、現代人の僕がでもそれほど不便することがないくらいだ。

 お風呂の準備ができたので一番風呂をもらっていたら――なんと全員入って来てしまった!


 ――いやぁ、これにはさすがに参ったね。


 お風呂に入る前、アンジェとリリスが僕の背中を流すと言ってたのを遠慮したんだけど……結局一緒になってしまった。

 広さは十分にあるから狭くはないけど、特にアンジェとリリスには目のやり場に困っちゃう。

 フェルも恥ずかしそうにしてたし。

 色々な意味でのぼせそうになりながらも、お風呂を出たら後は寝るだけ。

 ここでも、アンジェとリリスは僕と一緒に寝ようとしていた。

 寝室は他にもあるのに……。

 まあ、主寝室に1番大きくてしっかりしたベッドがあって、他の部屋のものはあまり質が良くなかったし、みんなで寝ることにした。

 4人が横になれるほど大きいベッドでよかったよ。


「おやすみー」


「おやすみなさいませ、ソーコ様」


「私を抱きまくら代わりにしてくださいませ、主様」


「フェ、フェルも使ってくださいっ」


「あ、あなた達、何を言ってるんですか!? それだったら私が――」


 ふぅ、賑やかな夜はもう少しだけ続きそうだ。

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