17.エルフ
1軒目の物件は、商人ギルドから20分くらいの距離にあるそうだ。
道中は、アリーさんとの会話を愉しみながら歩いた。
「そういえば、さっき冒険者ギルドで妹のエリーさんにお会いしましたよ。すごく明るく優しい人ですね」
「妹に会ったんですね。あの子は私と違って人懐っこくて、誰とでもすぐに仲良くなれるんです。でもご迷惑掛けたり、嫌な気分になってませんか?」
「迷惑だなんてとんでもないです。とても助かってますよ」
「それは良かったです。何かあれば言ってくださいね」
アリーさんはそう言って微笑んだ。
アリーさんとエリーさん、やっぱりこの2人は美人姉妹だなあ。
顔立ちや性格は少し違うけど、2人とも明らかに目立つ容姿という点においては同じだ。
「あ、そうでした。商人ギルドでは優秀な方に担当が付くのですが、この度ソーコさんの専属となりました。今後とも、姉妹揃ってよろしくお願いしますね」
専属担当って、そんな制度もあったのか。
でも、アリーさんが専属になってくれるのなら、文句などあるわけがない。
むしろ、嬉しいに決まってる!
どうせなら、冒険者ギルドではエリーさんに専属になってほしいなあ。
「こちらこそ、よろしくお願いします。アリーさんが専属の担当になってくれるのなら頼もしいです。ちなみに、冒険者ギルドにも専属ってあるんですか?」
「多分、あちらはないと思います。商人ギルドでは担当が代わったりしてしまうと、仕事内容が複雑だったりすると伝達ミスなどが起こりやすくなります。また、商売内容の秘密保持の点からしても好ましくないので、高ランクの方には必然的に専属の担当が付くことになっているんです」
「あー、なるほど、そういうことだったんですね。確かに冒険者ギルドなら、討伐依頼とか採集依頼とか、誰が担当しても問題なさそうですもんね」
まあ誰に担当されても問題はないんだけど、どうせならむさ苦しい男よりも、可愛くて明るい女性に担当してもらいたかったなあ。
そんなことを話してるうちに、1軒目の家に到着した。
アリーさんに紹介された物件は、僕が希望した条件にプラスαしたものだった。
外観も中も綺麗で作業室も備わっており、ギルドからもそこまで遠くない。
それだけの物件なので家賃も高く、月に金貨5枚――50万ストだ。
――うーん、これでも1番安い家か……結構するな。
立地と設備を考えれば当たり前とも言えるけど。
まあしかたないかあ……ハウスとして登録するにも家が必要だし、いつまでも宿屋にいるわけにもいかない。
うん、お金は頑張って稼ごう!
ポーション納品でなんとかなるだろうしね。
「どうかな、アンジェ」
「とっても素敵だと思います。キッチンも広いですし、これなら美味しいお料理をソーコ様にお出しできます!」
おぉ、アンジェの料理かぁ。
ゲームの中ではそんなの食べたことないから楽しみだ。
一応僕は料理師スキルがレベル10だし、何か作ってみるのもいいかもね。
「それは楽しみだなぁ。それじゃあ、ここにしよう。アリーさん、ここに決めます!」
「えっと、他は見なくてもよろしいですか? 家賃も少し高くなりますけど……」
「ええ。条件も揃ってますし、ここでお願いします」
「わかりました。それでは契約書を交わさないといけないので、1度ギルドに戻りましょうか」
ここが1番のおすすめらしいから、これ以上ってこともないだろう。
あったとしても家賃が上がるだけだしね、これで十分。
再度ギルドまで行くと、応接室のようなところへ案内された。
契約の内容をアリーさんが説明してくれるそうだ。
「いつ頃から住みますか? もちろん今日からでも可能ですが、よかったら明日お掃除してもらように手配いたしますよ」
「掃除は助かります。是非それでお願いします。今泊まってる宿で3泊分先払いしてるので、その後からお願いします」
バッグから金貨を5枚取り出して支払う。
これで契約完了だ。
「今回はありがとうございました。いやー、助かりました」
「気にしないでください。いい家が見つかって良かったです。これからも何かあったらすぐ言ってくださいね。出来るだけ力になりますから!」
そう、優しく微笑みかけてくれるアリーさん。
実は、今回一緒に家探しをしてくれたけど、本来はアリーさんの仕事じゃないらしい。
どうやら僕達のことを気に掛けてくれて、わざわざ時間を取ってくれたようだ。
それに多分だけど、家賃もオマケされてる気がする。
『薬師』っていう職業がそれだけ特別なんだろうなぁ。
ちゃんと恩返ししなくちゃね。
「――では、また納品に来ますね。ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。お待ちしてますね」
アリーさんにお礼を言い、商人ギルドを出た。
「さて、今日はもう特にすることないし、ちょっと市場でも眺めて宿に戻ろうかね。また、あの親父さんの屋台でも行ってみようよ」
「はい。市場でしたら、今後のためにどんな食材が置いてあるのか見てみますね」
「うんうん、お願いね」
僕とアンジェが市場へ足を向けたところで――、
「――あの……すみません、ソーコさんとアンジェさんですよね?」
急に後ろから声を掛けられた。
「突然呼び止めてしまい申し訳ありません。私、商人のヤンと申します。以後お見知りおきを」
振り返ると、そこにはエルフの男がいた。
ヤンというエルフは慇懃に下げた頭を上げると、僕を見てにこりと爽やかな笑みを見せた。
――エルフ……エルフかぁ。
僕の内心は、そのエルフの爽やかさとは対照的な気持ちだった。
ファンタジー要素で色んな話にエルフという種族は出てくると思うけど、僕はAOLにおいてエルフという存在はあまり好きじゃない。
エルフといえば、容姿が整っていて魔力も高く、なんならプライドも高いイメージを誰もが持つと思う。
――AOLでは、そこに何とも言えない不気味さが加わる感じがするのだ。
何を考えてるかよく分からないというか、何か企んでんじゃないかってところが悪いイメージに繋がっている。
まあ、AOLでそう感じただけで、ここではまた違うかもしれないけど。
「あ、急に声掛けられたら『なんだこいつは』って思っちゃいますよね。実はお二人にお話がありまして、お時間を少し頂ければと」
そんなこともあって、つい身構えてしまった。
多分顔にもちょっと出てたかもしれない。
でも、ヤンという商人はそんなことまったく気にした様子もなく、笑顔を崩さないまま話を進めた。
「何の御用です?」
僕は薄い営業スマイルを浮かべて、そう短く返した。
「ありがとうございます。いえね、昨日ソーコさんがこちらで『薬師』として登録されたと思うのですが――」
む、何で知ってるんだろ。
「――ああ、誤解しないでください。あなたの事を探ったとかではなくてですね、私も昨日その場に居たんですよ。それで、今日もソーコさんがポーションを納めているのを拝見しましてね」
「はあ」
話がよく見えない。
結局のところ、本題は何だろう。
「盗み聞きするつもりはなかったのですが、ホームについてお話してるのが聞こえましてね。実は私も『ルーラーズ』というホームを運営しているのです。ですので、ソーコさんとアンジェさんがもし宜しければ、是非うちに来ていただけないかと……」
ははあ、なるほど。
僕達がホームの話題を出してたもんだから、かわいくて有望な薬師であるかわいい僕を仲間にしたいってことか。
――だが断る!
ふふん、残念ながら僕は自分のホームを作りたいのだよ。
「いかがでしょうか? 我がホームはBランクですし、設備も道具も揃ってます。メンバーが自由に取り組める環境に――」
「すみません。申し出は嬉しいんですけど、僕達は自分達でホームを作りたいんです。なので、どこかに所属するつもりはありません」
「――っ……そうでしたか。それは残念です。では、また興味がおありでしたらいつでも声を掛けてください。もし何かお困り事がありましたら、遠慮なくお話ください」
話の途中で遮られたヤンは、その整った顔立ちを少し引くつかせるも、すぐに元の爽やかな笑顔に戻した。
商人としては、僕と違ってプロだね。
「ありがとうございます。それではこれで」
そう言ってヤンに別れを告げ、僕とアンジェは市場へと向かって歩き出した。
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