12.Cランク冒険者

 ダンは、ギルマスの言葉に気味の悪い笑みを浮かべている。

 実技試験の担当官がギルマス公認になったからだろうね。


「だが、これはあくまで試験だ。勝つことがすべてではない。ただし、ダン、お前はどちらかに負けたらギルドから追放だ」


「なっ――!」


「当然だよな? ギルド職員を脅迫したんだ。むしろ、勝てば許されるんだから、文句なんてないだろ? 冒険者なら力で示せ」


 厳しい表情でギルマスは言ってるけど、そもそもダンの処罰が僕達が勝たないと、になるじゃないか。

 まあ、僕達は勝っても負けても、内容で判定してくれるみたいだけど。

 でもギルマスのこの感じ、僕らが勝つと思ってこの条件にしてない?


「くっくっく、いいぜいいぜぇ! 勝てばお咎めなしってことだ! ウォーカー、コイツらがどうなっても文句言うなよ」


「ああ、あくまで試験の範囲ならな」


「ソーコちゃん……」


 エリーさんがオロオロと心配そうにしてる。

 そりゃそうだよね。

 傍から見たら、子供とCランク冒険者が手合わせするんだもん。


「大丈夫ですから。安心してください」


 エリーさんに笑顔でそう告げた。

 それでも心配そうな顔してるエリーさんのためにも、あまり下手なところは見せられないな。


「よし、では訓練場に移動しよう」


「せーぜーイイ声で鳴いて楽しませてくれよぉ」


 ダンの煽りは華麗にスルーして、僕達は裏手へと向かった。

 室内は、さっきよりも少しどよめきが大きくなった。

 周りで様子を窺っていた他の冒険者達も、興味があるのか観戦に来そうな雰囲気だ。


 ――さて、どうやって戦おっかなぁ。


 あ、そうだ、まずは相手の強さを知らないと。

 僕には鑑定のクラスがある。

 生産にも役立つクラスなので、レベルは最大値の10まで上げてある。

 このレベル10というのは、相手のステータスを丸裸にすることができるレベルなのだ。

 もちろん、見れるのは人だけじゃない。

 魔物だって見れるし、モノだって見れるので、かなり便利。

 AOLのプレイヤーには癖みたいになってるから、とりあえず鑑定ってのがスタンダードだね。

 というわけで、ダンのステータスを見てみよう。


「……《分析アナライズ》」


 僕はボソリと呟いてスキルを発動した。

 《分析アナライズ》は鑑定レベル10で取得できるスキルで、詳細に鑑定できる最上位のスキルだ。


【名前】ダン

【種族】人族

【レベル】38

【HP】6605/6605

【MP】10/10

【力】103

【耐久】92

【魔力】5

【器用】52

【敏捷】99

【運】50


【スキル】

 剣術Lv.4、体術Lv.2


「…………は?」


 え、これでCランクなの? 

 まあ今の僕はレベルが19だし、ここに来るまでに少し上がったとはいえ、ほとんどの数値が僕より高いけども。

 それでも、いくつかは既に僕のほうが高いくらいだ。

 魔力とか見ると、得手不得手みたいなのがステータスに影響してそうだ。

 ちなみに、今の僕のステータスはこんな感じ。


【名前】ソーコ

【種族】人族

【レベル】19

【HP】5612/5612

【MP】1132/1132

【力】82

【耐久】76

【魔力】81

【器用】74

【敏捷】86

【運】43


【魔法】

 火属性、水属性、土属性、風属性


【クラス】

 双剣術Lv.2、剣術Lv.2、魔術Lv.1、薬師Lv.10、鑑定Lv.10、採取Lv.10……etc


 ――正直、スキルレベルも僕より高いし、ステータス的にもガチンコでやったら負ける。


 と、考えるのが普通だけど、この世界がAOL要素をしっかり継いでいるのなら、それだけで勝負が決まるわけではない。

 まあ、テクニックというか、そこはプレイヤースキル的なもので戦わせてもらおうか。


「おー、広いですね」


 冒険者ギルドの裏手は広い訓練場になっていて、解体場みたいなものが併設されていた。

 ちょうどいいから、後で『森蛇』の解体と買い取りをお願いしよう。


「うむ、そうだろう。ここは冒険者の訓練から、魔物の解体施設まで一緒になっているからな」


 少し誇らしげに言うギルマス。

 訓練してる人がほとんどいないのはツッコまないでおこう。


「ふむ、どうやら注目度は高そうだな」


 ギルマスの視線を追うと、僕らの後に続いて訓練場に入ってくる人が何人もいた。

 やっぱり、さっきの場にいた観客やじうまみたいだ。

 あんまり他の人に見られたくないんだけど、あんだけ騒ぎ起こせば気になる人もいるかあ。

 ま、しょうがない。


「よし。それでは2人とも、この訓練用の武器の中から選んでくれ」


 剣、槍、弓と、種類はたくさんある。

 訓練用の武器というだけに、刃のない木製の武器だ。

 本物で戦って死んだりしたらマズいもんね。


「へっ、女のガキくらい素手でもいいくらいだけどな。ま、格の違いってのを見せてやるよ」


 ダンは片手剣か。

 僕は双剣を使えるからそれを2本、と言いたいとこだけど、今回は短剣を1本手に取った。


「僕はコレで」


「おいおい、短剣とか頭大丈夫かぁ? 武器選びもまともにできねぇのかよ!」


 ダンは、僕のことを馬鹿にしながら大笑いしている。

 まったく、何がおもしろいんだか。


「短剣は通常、戦闘には向かない。特にこういった場ではな。しかも、相手はそれより長い得物だ。本当にそれでいいのか?」


「ハッ! 戦いの基本も知らねえで、よくこの俺様に喧嘩売ってきたもんだ」


 ギルマスの戦闘に向かないってのは同意しかねるけど、リーチの差は長い方が有利に働くのは、まあその通りだと思う。

 でも、短剣には短剣のメリットがあって、その1つは小回りが利くって点で有利だと思う。

 僕みたいな小柄な体型には、特に相性がいいしね。

 それに短剣を選択したのは、僕じゃなくて彼のためなんだけどねぇ。


「コレで大丈夫――というか、十分です」


「……ぁー、本当に口の減らねえガキだな。この俺様をイライラさせやがる。決めた。お前もういいや、イラネ。ちっともったいないけど、俺様のことを舐め過ぎだ。処分してやるよ」


 目が据わってる。

 マジなやつだ、これ。

 いやでも、あっちが煽り耐性なさ過ぎじゃない?

 正直、ちょっと怖い。

 だって他人にこんな殺気のこもった目で睨まれたことないもん!

 でも、僕ももう引く気はない。

 ここまで来たら引けないってのもあるけど、僕がこのAOLの世界で逃げるなんてことは、絶対にありえないんだ。


「……あんたも僕のこと舐め過ぎだと思うよ」


 う、怖っ。

 ますます眼光が鋭くなった。

 眼で僕のこと殺しに来てるよぉ……。


「よし、では始めるぞ。先に言っておくが、これは殺し合いじゃない。危険だと判断したら、俺が無理やりにでも止めるからな」


 ギルマスが釘を刺す。

 まあ、そうだよね。

 いくらあいつが凄もうと、そんなことをギルマスが見逃すはずがない。

 僕とダンはお互いに少し距離を取り、向かい合って戦闘態勢を整える。


 ――なんか少し緊張してきた。


「ふぅ……」


 この世界では初めてとなる対人戦に、僕は一つ息を吐いて心を落ち着かせた。

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