第36話 占い師 その二
占い師のおばさんこと
失せ物探しはやってないからと種々お断りし、昼飯時(正午過ぎ)になったから、これ幸いと客(おばさん)を放り出して、最寄りの喫茶店へ昼飯に出かけたんだが、事務所に戻ってきたら、まだ居やがった。
この日は小室さんと藤田さんの両方が居たんだが、なんとこのおばさんに買収されていたぜ。
どうやら電話で寿司の出前を頼んだらしい。
近所でも結構有名な寿司屋さんの特上寿司を三人前頼んで、小室さんと藤田さんもごちそうになったみたいだ。
従業員が寿司で
おまけにこれ以上の放置プレイも難しい。
何しろ応接セットの一つを何となくケバい感じのおばさんが占拠しているんだから、ほかの客の方が戸惑っちゃうよね。
午後の客が少し引けたところで再度の話し合いをしたんだが・・・。
まぁ、ケバいおばさんの圧に負けたな。
うちの従業員二人が昼飯で買収されていたしな。
残念だが、失せ物探しを一応やってみることにした。
ついでに、念話で陰陽師姿の背後霊か守護霊化に聞いてみた。
『お前さん、失せ物のありかを知っているんじゃないのかい?
何で教えてやらないんだ?』
『おや、我とも話ができるのかい?
これはまたびっくりだ。
守護霊を見ることはできても会話をなすことができる者は極めて稀なんだけれど・・・。
うーむ、ますます
我は
その昔、京で陰陽師をなしておったモノじゃ。
其方の問いの答えなんじゃが、実はこの恭子殿、我の存在も知らぬし、もちろん会話もできぬ。
じゃから、ここへ誘導するのにも物凄い手間暇がかかったのじゃ。
本当に面倒な被庇護者だよ。
で、今一つの問いへの答えなんじゃが、失せ物のありかは我にも何となくわかるが、我が近づけない場所でな。
当然のことながら、この恭子殿に教えることもままならぬ状態なのじゃ。
下手をすれば、この被庇護者の命が危ういかもしれぬ。
ならば、霊力の高い者に頼むしかない。
色々調べた挙句に見つけたのが其方なのじゃ。
失せ物自体は、美術品としては非常に価値が高いものだから、探し出すことで大いに社会に貢献できると思うがのぅ。』
『正直なところ、俺は、美術業界に貢献しようとは思っていないんだぜ。
報酬も本来は俺の仕事の目的じゃないんだ。
そもそもが、失踪者とその身寄りの者が困っているのなら探し出してやろうというだけの話なんだ。
だから、こういう仕事を持ち込んでもらっては非常に困るんだよ。
特に、このおばさん、政財界に名を知られている占い師じゃないのか?
少なくとも辻占いをやっている人じゃないと思うんだが・・・・。』
『うん、正解。
政界筋の客が約七割、残り約三割が財界筋だね。
だから、ここで恩を売っておくと、何か困った折には、政財界の大物の協力が得られるかもしれないぞよ。』
『俺はそういうのが嫌いなんだよ。
特にそういった連中は、人を便利なコマとして利用しようとするからな。
少なくとも俺は遠慮しておく。』
『なるほど、なるほど、・・・。
古今、そういったコネがあれば使おうとする輩が多いのに、其方は近頃稀に見る奇特なお人のようじゃのぅ。
でもまぁ、ここで知り合うたのも何かの縁じゃろうから、今後ともよろしく。
できるだけ其方に迷惑はかけないようにするから。』
恭子さんとの話は別にして、土御門何某という守護霊とそんな内緒話をして別れたのだった。
それにしても、陰陽師の力を持つ守護霊が近づけず、なおかつ、俺への依頼人である鳴海恭子の命が危ないかもしれないとなると、かなり危険な仕事ということになるのかな?
あの守護霊がどの程度の力量を持っているのかはわからないんだが,普通であれば悪霊の調伏ぐらいは陰陽師であればできそうなものだが・・・。
あるいは、守護霊となったことでその力量が制限されているか?
守護霊が大きな力を発揮すると、周囲の者に対しては被庇護者であるおばさんの力と勘違いされてしまうかもしれないしな。
そもそも、今俺が住んでいる松濤の屋敷も、呪いの館騒ぎがあって手に入れたようなもんだが、その際にも感じたんだが、現代の祈祷師はかなり力量不足のような気がするよね。
余り害を与えない霊を無理に調伏しようとして、反射的にその力が返されたことで呪いのようになって当の祈祷師が死んじゃったようだから・・・。
その人がいわゆる祈祷師の第一人者であったとすれば、守護霊も簡単には古の力を発揮できないのかもしれない。
それにしても、人に知られないように何とかする方法が無いわけじゃないだろうにと思う俺だった。
いずれにしろ、取り敢えずは依頼人(おばさん)の依頼人(大本の依頼人)と会って、遺産として残された屋敷に行ってみるしかないな。
場所は九品仏駅近くのお屋敷だ。
お屋敷の敷地面積は、駐車場として使っている敷地も合わせると二千五百平米を超えるらしい。
まぁ、この近辺じゃ間違いなく大地主になるんじゃないのかな。
その敷地と、北に位置する古い屋敷が、遺産相続のお屋敷のようだ。
相続人は三人で、土地と家屋を分散して相続することになったようだ。
家の方は、かつては立派な邸宅だったのだろうが、築50年以上も経った木造建築ではおそらくほとんど価値が無い。
むしろ、改築修理や取り壊しにかなりの費用が掛かりそうだ。
その敷地の一角に土蔵が有って、その中に種々の古物が収納されていたようだが、件の相続人が何日もかけて探したのだが、掛け軸二幅は見つからなかったようだ。
そもそも失せ物駄探しの依頼を受けた鳴海さんに同行して、本来の依頼人に挨拶し、屋敷の中を調べて歩くことを許可してもらったので、早速に敷地に入り、種々の精霊や霊との情報交換だ。
屋敷の方には特段の問題は無かったな。
曼荼羅の掛け軸二幅については、この古い屋敷内にはなさそうである。
次いで母屋と少し離れた位置にある土蔵である。
かなりの年代物で、厚い漆喰で覆われている土蔵はそれだけで歴史の重みを感じさせる。
そこで土蔵の精霊に聞こうとして、できなかった。
土蔵の霊もしくは精霊の存在は感じられるが、当該霊が何らかの拘束を受けているようなのだ。
為に、俺との交信ができないようだ。
生憎とジェスチャーで会話するようなことはできない。
元々、念話という特殊な方法で会話しているのであって、身振り手振りで意思疎通ができるような相手じゃないんだ。
そもそも感じ方も違う存在なわけで、俺のことがどう見えているかも正直なとこわからないんだ。
そんな中で俺がジェスチャーをしても通じるわけがない。
例えばそういったジェスチャーの定番で、目の前に見えない壁があるような身振りをしたとして、霊に対してその壁に触れているという身振り手振りが、どう理解されるかは全く別物なんだ。
下手をすれば単に踊っているものと解釈されても不思議じゃない。
従って、この念話が封じられると俺の仕事は非常にやりにくいことになる。
止むを無いので俺の居候と守護霊に相談してみたよ。
『なんだか、念話が阻害されているみたいなんだけれど、これって何かの祟りのようなものなのか?』
九尾の狐が答えた。
『いや、違うね。
この場にある魔法陣のようなものが念話を阻害するために機能しているようだ。
生憎と、古来日ノ本に伝わる陰陽術などとは違うような気がするんだが、ダイモンはわかる?』
『いや、儂も初めてみるが・・・。
これは、もしやインドから伝わってきたヒンドゥー教の魔法陣、・・・。
いや、曼荼羅の陣なのかもしれぬ。
何故に曼荼羅が魔法陣のような働きを持っているのかはわからぬが、明確な認識疎外が生じているな。
その疎外のための結界が機能しているがゆえに、そこに居る霊とも意思疎通ができぬのじゃと思う。』
『なんとも面妖なことになったけれど、コンちゃんかダイモンは、その曼荼羅か魔法陣を無効化することはできるかい?』
コンちゃんというのは、九尾の狐のことだ。
親しみを込めて俺はコンちゃんと呼んでいる。
そのコンちゃんが言った。
『できなくもないが、無理をすれば曼荼羅ごと周囲が吹き飛ぶやもしれぬ。
余り勧められぬな。』
ダイモンも同じく言った。
『そもそも、道理の異なるものを扱うのはかなり無理が生じるのじゃ。
似たようなものがあるからと言って、無理に当てはめると、そもそも理が歪むでのう。
あまり無理はせぬ方が良かろう。』
『何と。手が無いと?』
『あ、いいや、そうではない。
儂らではできぬというだけのことじゃ。
あるいはおぬしがやれば何とかできるやもしれぬ。』
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