第18話 消息不明とお宮入り事件
五月、老夫婦が俺の事務所を訪ねてきた。
老夫婦は、新潟に住む資産家のようだ。
依頼は、夫婦の娘さんの消息を探してほしいというものだ。
練馬区在住の白木綾乃さん23歳が一人住まいのアパートに遺書を置いて、先月に失踪したらしい。
遺書の内容からすると、失恋をはかなんで死を決意したようだ。
遺書には探さないでと記載されている。
日付は25日も前だから、自殺志望ならばもう手遅れだろうな。
だが両親は遺体になっていたにしても、何とか探し出して供養をしたいと言っている。
情にほだされるのは余り良くないのだが、死んでいないという可能性もあるから、仕方がないので引き受けた。
別にあてがあるわけじゃないぜ。
地道に綾乃さんの足跡を辿ってみるだけだ。
最初に住んでいたアパートに行ってみた。
両親は未だ諦められず、アパートの荷物を片付けてはいないので、内部は失踪した状態のままだった。
例によって、俺はアパート及び周辺の聞き込みを行った。
綾乃さんが遺書を書いたのは間違いなかったし、遺書を書き終えた際の服装をアパートの精霊が覚えていた。
これを頼りに、最寄りのJR駅に辿り着いた。
そこから先の追跡が結構手間取ったが、練馬高野台駅から東中野駅、そこで中央線に乗り換えて大月駅へ移動、更に大月線で富士山駅へ移動、ここで彼女が宿をとったので俺も宿を取って一泊したよ。
翌日、バスに乗って富士山駅〔富士吉田〕から西湖入口まで移動、格好はハイキング風の出で立ちでリュックを背負っている。
西湖入口バス停から先は、南方の樹海に入っていったようだ。
樹海に道なんぞない。
めっちゃ、木や雑草の生い茂るところを139号線からいきなり入っていったという感じだな。
一応精霊や妖精に聞きながら午前中の朝早くに樹海に入ったが、139号線から1.5キロほど密な草木をかいくぐった場所に女性の遺体を見つけたよ。
周辺の精霊なんかに確認した結果、遺体は綾乃さんと確認できた。
最近暖かな日が続いた所為もあって、遺体の腐敗がかなり進行していた。
で、スマホの繋がる場所まで移動してから警察に連絡し、現場を確認してもらってから遺体の収容作業にかかることにした。
腐敗しているからね。
匂いもきついんだが、触れると肉が崩れるんだよ。
それでもできるだけ損傷を与えないようにしながら警察が何とか収容してくれた。
一応、事件性が無いかどうかの確認のため、警察主導で遺体回収が行われたわけだ。
で、俺はと言えば、これまで綾乃さんとは一面識も無いんだが、しつこく関係性を聞かれたな。
死体があれば「コロシ」ではないかと反応するのは刑事さんの
第一発見者の俺はまっさきに疑われたわけだ。
一応、渋谷署の大山さんの名前を出して、俺の身元引受人にはなってもらったが、あのままだと留置場に留め置かれる勢いだったな。
確かに、依頼を受けてから7日目には樹海の中にあった遺体にまで辿り着いているのだから、第三者から見れば事情を知っていたのじゃないかと見做されても仕方がないところではあるんだ。
だが、業務上の秘密と云うことで綾乃さんの行く先等の情報源は秘匿させてもらった。
警察の方では、自殺の原因となった彼女を振った男まで調べ上げて、俺が全く無関係と分かって、ようやく被疑者から俺を外したらしい。
遺体を親御さんの元に帰すことはできたが、残念ながら
本音で言えば、できるだけこういう依頼は避けたいものだね。
◇◇◇◇
10年も前に八王子市内で発生した一家殺人事件に関して、当時捜査本部が作られたものの1年後に捜査本部は解散となり、いわゆるお宮入りとなった。
その被害者の遺族が俺のところを訪れて犯人捜索の依頼がなされた。
良くは知らんのだが俺の心霊探偵としての評判が、勝手に広まっているようだな。
俺としてはそんな評判は立てられたくは無いんだが、人の口には戸が立てられんという奴だ。
一応、迷宮入りの事件でもあるし、7日間の調査活動を行って、手掛かりが無ければそれ以後の調査はしないという契約で調査を開始した。
手付金2万円と日当一万円、それに交通費だな。
今回は八王子が犯罪現場なので軽の4WDを使う。
家自体は残っているんだが、誰も住む者がいないので廃屋寸前の状況になっている。
遺族の方は、廃屋を撤去して土地を売り払う意向のようだが、その前にもう一度、犯人捜しを試みたいということのようだ。
何だかこれも尾を引きそうな背景だね。
で、惨劇が行われた廃屋を訪れたんだが、家の妖精が居て事件を覚えていた。
事件は夜中に発生した。
家族が就寝中に、窓ガラスにテープを張り付け、音がしないようにガラスを割って内カギを外して中に侵入。
最初に寝ていた夫を
その間に左程の物音は立てていない。
それから鉈二本を死体から引き抜いて、二階に上がって寝ていた子供二人(十代前半の娘と息子)を殺害、それから室内を物色して、金品等を奪って立ち去った。
目出し棒にゴム手をしていたので、警察の鑑識が入ってもほとんど証拠になるものが見つからなかったようだ。
居間の侵入口であるサッシの上り口までは、道路から続くコンクリート舗装だったために足跡が残っておらず、残念なことに家の中にも犯人につながる痕跡が残されていなかったのだ。
血のりはあちらこちらに飛び散っていたものの、その中に犯人につながるものは無かったのである。
そうして家の精霊が覚えていた10年前のイメージ画像だが俺の脳内にしっかり焼き付いている。
例によって、PCで当該イメージ画像から10年後の容姿を予測して合成し、出来上がった予想画面十枚ほどをタネに、エレック君にデーター検索をかけてもらった。
引っかかったのは神奈川県相模原市に住む、工員の田畑洋一45歳、独身だった。
被害者の一人である島岡隆司さんとは多少の面識があった人物ではあるが、捜査本部では容疑者リストにも全く載っていなかった人物である。
さて十年前の殺人の証拠は在るかいなということなんだが、二本の鉈が男の納屋にあるのをすく傍に生えている
家の霊に確認すると、夜間に二本の血のりのついた鉈を、風呂場でタワシを使ってごしごしと洗っていたそうだ。
その状態でも血痕が残っているかどうかだが、その辺の確認は警察に任せることにしよう。
他の証拠になりそうなものについては同じく家の精霊が覚えていた物として、カメラがあったそうだ。
鉈を洗った日に家に持ち帰ったものだから、おそらくは島岡さん宅から奪ったものに違いない。
本来ならば自分で使わないのであれば、売り払うか捨てそうなものだが、この男はある意味小心者で、盗品を売れば金になることは分かっていても、そこからアシがつくことを恐れてそのまま所持し続けているらしい。
単なる
実はこのカメラ、カメラマニアの島岡さんが大事にしていた物らしく、それを知っていた犯人が、その時は高値が付くと思って持ち帰ったようだ。
生憎と、証拠品がここにありますというだけのタレコミでは警察は動かない。
捜索差押令状を取得するにしても、相応に信ぴょう性のある証言や証拠が必要なんだ。
殺人事件の捜査本部があった頃なら多少の無理押しもした可能性はあるが、現時点では無理だろうな。
この男に関して、別件ででも逮捕できる案件若しくは捜索差押令状が取れる事件を暴かねばならなかった。
この男、殺人事件を起こしてから二年の間は至極真面目にしていたが、捜査本部が解散してから一年経って、金遣いが少し荒くなり、覚せい剤に手を出し始めていた。
そのためにこの件で令状は取れるものと踏んで、大山さんに通報したよ。
通報後遺族には容疑者が浮かんだので、警察が動き始める予定ですとだけ知らせておいた。
依頼から6日目にして依頼者に一応の報告ができた事件である。
その報告から4日後、田畑洋一は覚せい剤取締法違反容疑で逮捕され、同時に自宅での捜索差押が実施され、盗まれた高級カメラと凶器の鉈二本も俺の情報に基づいて念のため押収された。
最終的に、カメラからは殺された島岡さんの指紋が採取され、また凶器として使用された鉈二本からは微量ながら血液が採取され、DNA検査の結果、被害者四人のDNAと一致したことから、殺人罪でも逮捕された。
ウン、最近の警察の鑑識は進んでいる様だ。
10年も前の事件で、たわしでごしごし洗った鉈からでもDNA検査ができるんだねぇ。
その後、被疑者の田畑は、捜査員の追及に抗しきれず全面自供したようだ。
一応遺族の依頼に沿って犯人は探し当てたよね。
実働6日で報酬は総額で10万円ほどだった。
やっぱり余り儲けにはならないなぁ。
尤も、この件では大山さんから別途報奨金を戴いたよ。
迷宮入りの事件だったので50万円の報奨金がついていたんだって。
だからこの事件では、日給10万円になったので、結構良い実入りになったとウチの事務員二人は喜んでいるよ。
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