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翌朝は学校の職員室へ行き、身体検査の結果を報告された。すこぶる健康だという。
軽い挨拶を終えて鹿江のあとをついていった。あてがわれたクラスは3年B組。
「惑星ベースから来た、川島咲夜君です。異文化交流の一環としてみんな仲良くしてください」
鹿江が紹介をする。生徒は20人ほどいる。興味深そうに見られる視線が恥ずかしい。
席は横5列、縦4列で、一番後ろの左から2番目になる。
点呼を終えて、鹿江は去り、他の教師がやって来て授業がスタートする。
各机にはパネルがはめ込まれており、キー操作や専用のペンで板書をしていく。パネルには人工知能が搭載されていて、わからないことがあるとすぐに察知し、教師の言ったことの解説が出てくる。教員の補佐としての役目もあるのだそうだ。
理科学に相当力を入れているのが今の日本らしい。授業も数学や科学系の教科が圧倒的に多く、レベルも高い。ついていくのに必死だった。
午前の4時間を終えた頃には、頭を使いすぎて疲弊していた。昼休みになる。
弘子が持たせてくれた弁当を食べ終えると、一気に人がやってきた。
みんなベースに興味を持っているようだ。
咲夜は得意の笑顔を作り色々な人の質問に答え、会話をする。時間が経つごとに、少しずつ人が離れていき最後に男子2人が残った。
「お疲れさん。まだ慣れないだろ?」
ひとりが気さくに言った。様子を心配してくれたことに好印象を持つ。
「うん。体が慣れてない」
「ゆっくり慣れていけばいいよ。俺、西園健吾。よろしく」
手を差し出す。小野村ほどではないが身長が高く、優しそうな少年だ。
「よろしく」と手を握り返す。
「俺は聖悠斗。健吾といつもつるんでいる」
もうひとりの男子が言う。こちらは真面目そうだ。身長は咲夜と同じ、百七十五センチくらいだろうか。無表情でなにを考えているのかわかりにくいが、咲夜は笑顔を作る。
「日本についてはまだ知らないことも多くて。色々教えて貰えると助かるよ」
「なら、すぐ学校行事で観光旅行がある。よく知らないならチャンスかもしれないよ」
悠斗が言った。
「観光旅行?」
「日帰り遠足。東京や日霧市についての知識をより深めるっていう。毎年この時期にあるんだ。学年によって行く場所は異なる。そろそろ旅のスケジュールが組まれると思うよ」
「へえ。楽しみ」
二人は一瞬だけ深刻そうな顔をした。その刹那の空気が酷く重い。疑問に思う。
「なにか今――」
「いっそベースへ旅行とかにしてくれればいいのに。俺だって行ってみたい」
健吾は聞こえていなかったのか、そう言った。
「片道45日かかるんだから無理じゃね」
悠斗が返す。
教室の窓から日は暑いくらいによく射していて、半袖を着ている子もちらほらと見られる。ふと、左隣に座っている女の子が目に入った。
うつむき、置物の如くじっとしている。髪が肩まで垂れているので顔さえ見ることができない。
妙に思った。
クラスに馴染めないのだろうか。隣だし、みんながそうしてくれたように自分も積極的に話をしてみようか。
「あの、君――」
健吾が咲夜の机に両手をつく。
「川島君は昼飯食べた? 色々な人に声をかけられていたから食べてないんじゃない」
「大丈夫。早いうちに食べたよ。名前は咲夜でよろしく」
「ならよかった。俺は健吾で」
「じゃ、俺は悠斗な。そろそろ授業が始まる」
時計を見て2人は席に戻っていく。
隣が気になり視線をやって、あれ、と思った。机にはパネルがはめ込まれておらず木机に紙のノートを広げている。
なんでこの子だけ。半袖から見える細く白い右腕に、「8」と黒い刺青のようなものがある。
聞いていいのか。
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