小学校の入学式が終わり、今年6歳になる早川悟は母親と一緒に教室の中へ入った。


教室には男女あわせて18人ほどがおり、みんな静かだ。母親は教室の後ろで悟を見守っている。誰一人言葉を発しない。振り返ればお母さん達は誰も笑っていない。


なんか、変。悪いことが起こりそうな感じがする。


悟は直感的にそう思った。昨日はあんなに楽しみにしていたのに。


しばらくすると、女性教師がやって来た。入学おめでとうの言葉から始まり、これから学校生活で必要なことやルールなどを話している。そうして、厚紙で作られた箱を教卓に置くと、そこに手を入れて一人一人くじ引きを引くようにと言われた。


悟も、他の子供達もなんのくじ引きなのかよくわかっていないが、教師に言われるままにひいていく。前の子は、折られた紙を広げてもなにも書かれていなかった。


やがて、悟の番が回ってくる。


手を入れて探り、三角に折られた紙をとる。広げると、「8」と書かれていた。


瞬間、教師は叫んだ。


「早川悟君が8(エイト)になりました。皆さん拍手をしてください!」


母親の中からどおっという拍手が沸き起こった。再び振り返っても、悟の母親、由香利の顔色は酷く悪く今にも泣き崩れそうな表情でいる。


なんだろう。なにが起こったんだろう。


8。


顔や腕に8と書かれた人を見たことがある。とても嫌なことをされる。


・・・・・・僕が8? 心臓がどくどくと脈打っている。


拍手は鳴り止んだのに、まだ耳に残っている。


8についてはなにも説明がされないまま、ひととおりの話が終わり、帰ることになった。


「ごめんね・・・・・・」


由香利はふと、帰り道にそんなことを言う。家庭用レンタルホログラムを借りてきて、家に帰ると由香利はホログラムに色々な物語を悟のために朗読させた。


晩ご飯は珍しくご馳走になった。帰ってきた父親も、由香利からの話を聞いて顔色が悪くなっている。


「ねえ、どうしたの。なんできょうはごちそうなの。8ってなに」


朗読はまだ続いている。


「ごめん。ごめんね。私たちはもう、悟と一緒にいられないの。だからこれが最後のごはん」


両親は泣いていた。入学式があったというのにちっとも嬉しくない。


翌日、目覚めると悟の両親はどこにもいなくなっていた。悟は両親を求めて捜し回る。だが、家のどこにもいない。家の外からチャイムが鳴った。


両親かと思って鍵を開けると、そこには昨日見た担任の先生が待っていた。


「お父さんとお母さんは」


それには答えず担任は言う。


「一緒に来てください。あなたには今日から生活して貰うところがあります」

「どこ。学校じゃないの」

「あなたはもうここへは住めません。8用の施設から学校に通うことになります。さ、乗って」


悟は半ば引きずられながら担任の車に乗せられる。


なにが起きているんだろう。来月はベースからの留学生が来るから楽しみにしていたのに。


世界が変わる。やっぱりとてもよくないことが起こる。 


悟は突如湧き出た恐怖を抱えながら涙を流した。



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