約束だよ

第1話

「約束だよ」

「うん」

彼女と別れる前に約束をした。

高校卒業の時だ。

彼女は言った。

私はいつか、国民的アーティストとなり、世界にはばたくと。

アイドルと言わないのが、彼女らしかった。

連絡先は交換しなかった。

有名になれば、お互いにわかるだろうと。

それから数年後。

彼女は、宣言通り国民的スターとなり、そのチケットはなかなか取れない。

今年も、ドームツアーの真っ最中だ。

いつも、大勢のファンで賑わっている。

今も僕は、観客席にいる。

アリーナは取れなかった。

でも、それでいい。

ステージでは、彼女は大勢のファンの声援を受けて、元気に歌い踊っている。

間違いなく、相当な努力をしたのだろう。

今、それが花開いたのだ。

いや、まだ満開ではないな。

数十分後、僕は席を立ち帰路に着く。

今の僕は、とても彼女に会う資格はない。

あの時、彼女と約束したことを、僕はまだ叶えていない。

その夢が叶うまでは、彼女には会わないでおこう。

あの時に約束した僕の夢が叶う時、彼女はおそらくは幸せになっているだとう。

その事を願おう。

何年かかっても約束は守る。

それまでもう少しだけ、待っていてくれ。

「ただいま」

「お帰りなさい。電話があったわよ」

帰宅後、母に言われる。

「誰から？」

「出版社から」

約束は、すぐに果たせるかもしれない。