リオンと千年迷宮 〜無能と蔑まれた冒険者は最強ユニークタレント【共有】で最凶ダンジョンを踏破する〜

素朧

プロローグ 少年と千年迷宮

 迷宮都市 メルキド


 巨大迷宮の周りに作られた都市で、迷宮へ潜る冒険者達の宿場町として栄えてきた。迷宮の発見から300年以上経つが未だ踏破者は1人も出ていない。いつしか人々はその迷宮を千年迷宮と呼び始めた。


 迷宮に潜る冒険者達の管理の為に発足した冒険者ギルド。ここでは迷宮産出品の買い取りから、販売、競売。更に人々からの依頼の掲示、斡旋が主な仕事。規模が大きくなった今では情報収集、交流用の酒場まで併設されている。


 立派な建物のドアを開け、少年が入ってくる。年の頃は15.6歳の色素が抜け落ちたような白髪でまだ起き抜けのような顔をしている。


「おはよう、リオン君。随分と眠そうね? またバイトだったの?」


 少年があくびをしながら受付に向かうと、受付のカウンターに座っている女性が話しかけてくる。


「おふぁよう、サーシャさん。昨日はラストまでバイトだったからね〜、ちょっとまだ眠い」


 リオンと呼ばれた少年はまだまだ眠いようで欠伸を交えながら挨拶を返す


「あんまり無理しないようにね? 今日ぐらい休んだら?」


「ふぁーあ、そうも行かないんだよ。俺みたいな底辺冒険者はバイトしないと生活もままならないからねぇ〜」


「それで身体を壊したら元も子もないんだよ?」


「大丈夫、大丈夫。俺は身体だけは丈夫なんだ。それよりもさ、なんか手頃な依頼とかある?」

 

 サーシャと呼ばれた女性は明るい栗色の髪をした20代前半ぐらいで、その容姿と人当たりの良い性格で冒険者達から人気が高かったりする。

「んー、リオン君ならいつもの薬草か、ゴブリンぐらいだね」


「んんー、ゴブリン……は、辞めておこうかなぁ……薬草で!」


 リオンは自分の実力を鑑みてゴブリンの討伐は諦めたようだ。


 因みに、薬草採取とゴブリン退治は街から依頼が出ている常設依頼だ。薬やポーション等の材料になる薬草や、直ぐに増えてしまうゴブリンは治安維持の為に常に討伐を推奨している。


「ふふっ、ちゃんと安全な依頼にしてエライぞ!」


「はいはい、ありがと」


 サーシャはリオンの事を子供を褒めるような言葉をかけるがリオンはいつもの事だと、適当にかえす。するとリオンの後ろから声がかかる


「よぉ! 無能なリオンじゃねーかよ? ん? ま〜た薬草採取かよ!? オメェは冒険者じゃなくて農家でもやってんのかって! ガハハハハッ!!」


「ドバン……」


 話しかけてきたのはドバンという青年で、シャツの袖から見える腕は、無駄な脂肪が無くスッキリと引き締まり筋骨隆々である。

 いつもリガルとブーディという取り巻き2人を連れている


「ドバンさんだろ! 本当に生意気なガキだな! いい加減オマエみたいな奴は冒険者になるの諦めな! なんの能力もねぇ奴は邪魔なんだよ!」


 ドバンは事あるごとにリオンに絡んで来ていた。

 リオンが無能と呼ばれるには訳がある。普通、冒険者を目指す者達は何かしらの特技、技能などを持ち合わせているからだ。

 

 この世界では大きく分けて3種類の特殊技能がある。

 1つ、スキル。もっとも一般的で努力や経験から得る事ができる。例えば陶芸のスキルが有れば、スキル無しよりも上手に作る事ができる。剣術なども道場で繰り返し練習する事で、流麗な所作で敵を斬る事が出来るようになる。


 2つ、魔法。人々は誰しもが魔力という魔法を扱う為のエネルギーみたいなモノを持っているが、その魔力を魔法の発動にまで持っていくには才能と、有能な魔術師や魔法使いに師事し長年の研鑽を積む事でようやく使えるようになる。


 3つ、ユニークタレント。生まれついての異才。様々な才能があり、有用なものから使い道の無いものまで多種多様だ。ただし、同じタレントは同時代に重複して存在しない。


 そして、リオンは故郷からメルキドに出てきて1年と少し、未だスキルの1つもなく、魔法なんて才能もなかった。ただ一つリオンは【共有】というユニークタレントを持って生まれたのだが……


「はぁ? だからって別にお前に迷惑かけてないだろ?」


「あぁ!? 無能は夢見てないで食器洗いでもしてやがれっ! テメーがウロチョロしてるだけで迷惑なんだよ! さっさと消えろ、クズ!」


 リオンも苛立ちを隠そうともせずに反論するとドバンはより一層囃し立てる。


「ドバンさん!! 何もそんないい方しなくても」


 サーシャがドバンを窘めるがドバンはチッっと舌打ちをしてギルドから出て行ってしまう。


「リオン君もいちいち反論なんかするからよ、もっと絡まれるのよ。無視したらいいのよ。無視」


「まぁね。それはわかってるんだけどね……」


 リオンは頭ではわかっていても、ついカッとなってしまう。自分の短慮さを反省はするが一向に直らなかったりする


「じゃあ、ちょっと潜ってくるよ、サーシャさん」


「行ってらっしゃい」


 リオンはサーシャに向けて軽く手をあげるとドアを開けてギルドを出て迷宮へと向かっていく


 迷宮都市メルキドは千年迷宮を中心に発展した為、迷宮は都市の真ん中にある。その為、ギルドからも比較的直ぐに着く場所に入り口がある。 

 ギルドから近い順に初級、中級、上級の入り口にわかれており、初級は第一層からで冒険者ランクも1番下の鉄級から入る事が出来る。中級は銀級、上級は聖銀級からになる。


 リオンが千年迷宮の初級入り口に着くと、そこにはドバン達がニヤニヤしながら待っていた。


「……待ち合わせした覚えはないんだけどな」


「まぁ、そう言うなよ。遊ぼうぜ?」


 そう言ってドバンは迷宮の入り口から少し離れた人気の無い路地を指し示す




─────────────────



「がはっ! ぐっ!」


「おらっ! さっきの威勢はどうしたっ? あぁ?」


 ドバンはスキル【拳闘】を所持していて、素手でリオンを殴り飛ばしている。

 リオンもリオンでなんとかガードしたり躱したりしているが何発か良いのをもらってしまう。


 リオンのユニークタレント【共有】は半径5メートル以内にいる人のスキル等をリオンも使う事が出来るという能力だ。

 一見有用そうに見えるタレントだが実はそうでもない。

 実際、リオンはドバンの【拳闘】を使っているが、防御一辺倒だ。これは以前、リオンがやり返したら取り巻きの2人も混じって余計に手酷くやられたからだ。それからリオンは黙って耐える事にしている。


 リオンはこのタレントの事を周りに一切洩らしていない。

 なぜなら故郷に居た頃にこのユニークタレントの事を話したら、他人のスキルを勝手に使うのが卑怯と取られたり、気持ち悪がられてしまったのだ。以来、リオンのタレントは誤解され伝聞し、スキル泥棒と蔑まれてしまった。


 強力なスキルを共有出来れば使い勝手が良さそうだが、中々飛び抜けて強力なスキルを持つ人物は居ない。いても、何のスキルも無いと思われている底辺冒険者とは組んでもらえるはずもなかった。



「ぐっ!」


 リオンはドバンの攻撃をなんとか凌いでいたが後ろからリガルによる強襲で一気に形勢が傾く。


「おらっ! おらっ! 泣いて謝れば許してやるぞ!」


 倒れたリオンを3人で代わる代わる蹴り上げる


「ぐっ! 何を謝る事があるってんだっ!」


「あぁ? そんなの決まってんだろ! 生きててすいませんってな! ドバンさんに楯突いてすいませんってあやまんだよ!!」


 リオンは亀のように丸くなりなんとか急所を守るように固まる


「オマエ、千年迷宮を踏破するとか言ってんだってなぁ? 出来る訳ねーだろ? 無能なんかによ!」


「ぐあっ! うるせぇ! お前に関係ないだろっ!」


「ふんっ、でけー夢語ってサーシャの気を惹こうとしてんだろ? 無駄な事やめて、とっとと冒険者やめろ! そしたらもうイジメないでやるぜ!」


 ドバンがリオンの頭を足で踏み付けながら下卑た笑みを浮かべる


「はっ! 大きなお世話だ! 筋肉ダルマ!」


「テメーッ!! 今日はトコトンイジメてやるよ!」


 ドバンがリオンを力一杯蹴り飛ばすと、リオンは壁にぶつかり崩れおちる


「ぐはっ! はぁはぁ、お前が無理だなんだ言うのは構わねーけどな、俺は……俺だけは出来るって信じてんだっ! お前の物差しで勝手に測んじゃねー!!」


「チッ! 言う事はそれだけか? 2度と減らず口叩けねーようにしてやるぜ!」


 ボロボロになっても媚びず意志を曲げないリオンに苛立ち、ドバンはトドメを刺そうと歩み寄る


「やめなさい!」


 凛とした声がかかる。


 荒くれ者の多い冒険者達が集まるメルキドではこれくらいのいざこざは日常茶飯事だが、大抵の場合は見て見ぬふりをされる。そこにあえて突っ込んでいくのは余程の正義漢か、余程の馬鹿か、もしくは……


「やめなさいって言ったのよ。3対1なんてみっともないわ」


 艶のある赤髪を緩く纏めて、大きな剣を腰に佩く可憐な少女が路地に入ってくる。


「あぁ? じゃあオマエが相手してくれるってのか? あぁ?」


「ドバンさん! あの女いい身体してますぜ!」


「ふぅ、構わないわ。私に勝てたら好きにしなさい。面倒だからまとめてかかってきなさい」


 ブーディの不快な視線に嘆息して、少女は挑発するように手招きをする。


「ふんっ! 俺は男女平等だからよぉ、女だからって手加減しねーからなぁ!!」


 ドバンとその取り巻きのリガルとブーディが一斉に飛びかかる


 赤毛の少女は3人の間を縫うように一瞬にして駆け抜けるとリオンの前で立ち止まる


「大丈夫? 立てるかしら?」


「がっ!?」



 そう言って壁にもたれ掛かるリオンに向けて手を差し出す少女の後ろでは、ドバン達3人が白目を剥いて倒れていた。

 

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