異世界の王子様に惚れられて異世界転生!?

椎名わたり

第1話

───始まりのきっかけ───

「ベルーガ様、陛下がお呼びです」

「わかった、今行くよ」

僕の名前はベルーガ・アルシュタイン。

アルシュタイン家の長男で2人の弟からは「ベル兄さん」とか「ベルーガ」と呼ばれて居る。

「ベル兄さん」

「どうした?」

「今日はベル兄さんのお見合いだね」

次男のムーンがにやっと悪巧みを企んでいるような笑みを浮かべた。

「何がそんなに可笑しいんだ?」

「だって俺より先にベル兄さんのお見合いとか有り得ないでしょ!俺も参加しちゃおっと思って♪」

「ったく…まぁ、お父様も文句は言わないだろう」

「だよね。楽しみだなぁどんな子達に会えるんだろう?」

ムーンと喋りながら僕はお父様の待つ広間へと到着しメイドのメリドットが扉をノックする。

「ベルーガか入りなさい」

「失礼します。お父様」

「お父様、失礼しま〜す」

「ムーンお前はどうした」

「ベル兄さんがお見合いをするなら僕にも参加させて欲しいんです」

「…まぁ、候補は多い方がいいか。よろしいふたりとも入りなさい」

「はーい失礼しまーす」

「失礼します」

そうして僕ベルーガと弟のムーンの婚約者探しが始まった。


── 一目惚れ ───

お父様が水晶に魔法をかけて色んな女の子が空中に映し出し女の子のプロフィールを読み上げていく。

「「あ…」」

僕とムーンが同時に声を上げる。

「この子か」

そこには艶やかな黒髪が胸元で巻かれた可愛いらしい女の子が映し出されていた。

「お前達…解っているだろうが同じは駄目だからな」

「解っております」

「解ってるってー」

そしてムーンが僕の方を向き言った。

「ベル兄さん、今回は僕に譲ってよ」

「ムーン、すまないが僕も今回は譲る気はないな」

「なーんだじゃあ…どっちがこの子を落とせるか勝負だなベル兄さん」

「あぁ、望むところだ」

そうしてお父様にも了承を得て"条件付き"で沢守茜を召喚した。


───異世界召喚!?───

私沢守茜は今日も仕事を終えて帰路に着いていた。

その時いつもは街灯が照らしているのだが…今日は謎の声と緑色に光る街灯の光景が私に飛び込んで来た。

思わず足を止める。

すると謎の声は言った。

「お嬢さん、怪しいことはないからこっちへ来てくれないか?」

ますます怪しいがそこを通らないと帰れないので渋々私は声を出す。

「貴方は誰なの?」

「言っても信じられないと思うが君は異世界の王子達に気に入られいてな。すまないがこちらへ来て頂けないだろうか?」

そう謎の声が言った後

とてつもなく眩しい光に包まれ眩しくなくなると私は目を開けた。

「…?」

ここは何処だろうと辺りを見渡す。

「やぁ、よく来たね」

とあの謎の声が聞こえて来た。

声のする方を見ると…

そこにはベージュの髪色をしたふたりのイケメンとイケおじが立って居た。

あまりの美形に驚きつつ私は言った。

「ここは何処ですか?」

「異世界だよ」

「都市伝説とかファンタジー世界じゃないんだから、そんなの信じられないです」

「信じられないのは解るよ。でもね、事実なんだ」

「はい?」

「君には2ヶ月間この世界で生活してから今後のことを考えて欲しい」

「…それが嫌だと言ったら?」

「君はもう元の世界へは帰られないだろう」

「どうして?」

「異世界には契約魔法がある契約に従わないなら君が契約に従うまで現実世界の君は仮死状態だ」

この真ん中に立って居るイケおじの王様っぽい人横暴だなぁなんて思いながらもう選択肢はなさそうなので渋々返事をする。

「…わかりました…」

「ありがとう。御協力感謝するよ」

そうして私は2ヶ月間異世界の王宮に居候することになった。


異世界に召喚されてから今日で3日目

コンコンと扉をノックする音と「茜さん、朝食の時間だよ」と言う王子達の声が聞こえて来る。

「はい!今行きます」

そう言って扉を開けると3人が私を出迎えた。

「おはようございまーす!茜」

「おはよう…よく眠れた?」

「おはよー…」

「皆さんおはようございます」

そう言いながらお辞儀をすると

「そんなに堅苦しくしなくても大丈夫だよ〜さ、朝食が冷めちゃう前に行こうか」

とムーン王子が私の右手を取る。

するとベルーガ王子も左手を握り「ドレスは慣れないだろう?転ばないように手を握ろう」と言う。

そんな2人を他所にリリールは欠伸をしながら身体を伸ばしている。

そんなマイペース王子達に振り回されつつも私はこの世界での生活が少しづつ楽しくなって来ていた。


───未来への選択───

朝食を終え私は国王陛下に言われた「猶予は2ヶ月間…君はこの間に誰と婚約するか、または元の世界へ帰るかを選びなさい」と言われたことについて考えていた。

ここの世界の人は私のことを姫として扱ってくれている。

でも、これは王子達の婚約者候補だからだ。

もし候補から外れたら私は即効現実世界へ帰されるのだろう…

「茜、ちょっといいかな?」

「ベルーガ王子?いいですよ」

扉を開けるとベルーガ王子が立っていた。

「ベルーガ王子、ちょっと顔赤くないですか?」

「そんなことないよ。それより、今日はとても天気がいいから庭園を散歩しないかい?」

「いいですけど、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。さぁ、行こうか」

そう言ってベルーガ王子は私の手を取り園へと向かった。

庭園に着くとベルーガ王子は大きな木の下に行き座ると私も横に来るよう誘って来る。

私が横へ座るとベルーガ王子は安心しきったような表情で私の肩に顔を預けて瞳を閉じ…

ん?何だかめっちゃ綺麗なんだけど…熱い!?

そして私は自分の手をベルーガ王子の額に当て熱を測り私は助けを求めたのだった。


「「ベル兄さん!」」

ベルーガ王子が自室へ運ばれるとすぐさま弟達が駆け付ける。

「茜!ベル兄さんは」

「大丈夫ただの熱だよ」

「…良かった…またあの時みたいになったらと思うと俺…」

「僕も…耐えられない…」

「あの…2人とも」

「「ん?」」

「ベルーガ王子ってその…どこか悪いの?」

「そっか…茜は知らないんだったね。ベル兄さんは昔から病弱でね、この城から外へは出かけたこともないんだ」

「そう…なんだ…」

そんなに弱ってたのに私気付きもせずに引き止められなかった。

本当にベルーガ王子や弟達には申し訳ないことをしてしまった。

「茜がそんな顔することないよ」

「え?」

「だって茜はベル兄さんを助けてくれた」

よっぽど私は暗い顔をしていたのだろうかリリール王子が私の頭を優しく撫でながらフォローを入れる。

「でも、引き止められなかった…あの時あのまま部屋に帰るように強く言ってたら…」

「結局ベル兄さんはどのみち部屋まで耐えられなかったと思うよ」

「そうそう無事だったんだから全て良しだよ!俺は怒ってないし」

「ムーン王子、リリール王子…」

「さ、湿っぽいのはここまでにして今日はおれとデートにしようよ」

「お気持ちは嬉しいけど今日はベルーガ王子を診てるよ…流石に心配だから」

「分かった、じゃあ俺は自室に居るから何かあったら呼んでね?」

「僕も部屋に帰るよ」

「本当に今日はありがとう!」

「「どういたしまして♪」」

ベルーガ王子の部屋に入ると

「…ん…茜…行くな…」

ベルーガ王子の寝言が聞こえて来たので側へ駆け寄り

「ベルーガ王子、私はここにいるよ。ずっと側にいるよ…!」

「茜…!僕は茜と幸せになりたいんだ!!」

「!?」

ベルーガ王子はそう叫んだ直後に目覚めた。

すると頬を赤くしながらこう言った。

「…い、今僕何か変なこと…言って…なかった?」

「…その、私はベルーガ王子のこともっと知りたい、知ってから考えたい…!だから今は、強いて言うなら気になっている…とだけしか…」

私がそう応えるとベルーガ王子は覚悟を決めたように

「分かった、真剣に応えようとしてくれてありがとう。僕も絶対茜を振り向かせられるように頑張るから」

「うん…ところでどうして私だったの?」

「それは僕とムーンが茜に惹かれたからだよ」

「…どうしてベルーガ王子は私に惹かれたの?」

「どうしてって言われると分からないけど一目見たときから好きだって思ったんだ。僕は茜の全てに惹かれているんだよ」


──みんなを知るために───

ベルーガ王子が倒れてから2週間体調もすっかり良くなったベルーガ王子から私は呼び出されていた。

ベルーガ王子の部屋に着き扉をノックすると扉が開かれた。

「ムーン王子、リリール王子どうしてここに?」

「それはベル兄さんから」

「そうだね。まずは茜この前は僕を介抱してくれてありがとう」

「どういたしまして。でも、私にも非はあるからお礼を言うことはないよ」

「でも、嬉しかったから言わせてよ」

「わかった」

「うん、本当にありがとう茜」

「んで、ベル兄さんはこの前のお礼がしたいから茜をここに呼び出したって訳」

「なるほど…ところでどうしてふたりはここに?」

そして私は未だ解決していないベルーガ王子の弟達がどうしてここに居るのかを尋ねた。

「僕達は茜ともっと仲良くなりたいだけだよ勿論兄さんのデートは邪魔しない」

「リリール…」

「そうそう!だからいつでもいいから茜俺もデートしようね?」

「うん。わかった、また時間ができたら声かけるね」

「待ってるからね〜!んじゃ、そろそろ退散しますかリリール?」

「そうだね。じゃあ、お誘い待ってるから」

「うん、またね」

そしてふたりが退散した後、ベルーガ王子はメイド達にお弁当を用意させベルーガ王子おすすめの本と私が選んだ本を交換し庭園にそびえ立つおおきな木の下で本を読み語り合った。

「そろそろお昼だろう?戻ろうか」

「そうだね」

と言い私が立ち上がるより先にベルーガ王子は立ち上がり手を差し伸べながら言った。

「この前のことは本音だけど焦らせたい訳じやまないからゆっくり考えて」

「でも、気になってるんじゃないの?」

「確かに気になってるよ。でも茜にとっては人生の選択だ自分の気持ちを大事にして欲しいんだ」

「わかった。ありがとう、私の気持ち大切にしてくれて」

「ううん、これぐらい人として当然のことだよ。さぁ、戻ろうか」

「うん」


そしてベルーガ王子とのデートの翌日私はムーン王子に呼び出されていた。

今日は庭園でお茶会を開催するらしい。

「ムーン王子、お待たせ…」

お茶会なのでとメイド達が気合いを入れて選んでくれた薄ピンクのドレスに身を包みムーン王子との待ち合わせ場所である庭園へと私は訪れていた。

「茜…っ!?」

「に、似合ってるかな?」

流石にいい歳して薄ピンクのドレスは流石に恥ずかしい。

「とっても似合ってる!可愛いよ!いつも可愛いけど今日はもっと可愛い!」

「ありがとう…ムーン王子も似合ってるね」

「ありがとう」

ムーン王子が微笑むとともにそよ風が吹きムーン王子のベージュ色のポニーテールがなびく。

中世のヨーロッパ風の庭園と薔薇が相まってとても映える。

「ほら、座って座って!ここからが一番薔薇が綺麗に見えるんだ♪」

「うん」

そして私が席に着くとムーン王子は早速紅茶とお菓子をテーブルに出しお茶とお菓子の説明を始める。

「これ俺のおすすめブレンドなんだ〜飲んでみて♪」

「じゃあ、いただきます」

私が紅茶を一口飲むと

「どう?美味しい?」

ムーン王子はちょっと不安そうな表情で聞いて来た。

「…美味しい!」

「そう!茜の専属料理人の縁堂さんに教えて貰ったんだ〜」

「そうなんだ」

「うん、でも良かった〜気に入ってくれて!俺の好きな林檎を使って作ったんだ♪」

「そうなんだ!?」

「そう!だから俺のこともっと教えるから茜の住んでた世界のこと知りたいんだ。教えてくれないかな?」

「いいよ」

「ありがとう!」

そうして私達はお茶を楽しみながら現実世界のことやこの世界のことやムーン王子のことや兄弟達のことを語り合って過ごした。


「茜」

リリール王子が私の肩を叩く。

「リリール王子?」

「今日このあと暇?」

「暇だよ。どうしたの?」

「僕とデートしてよ」

「いいよ」

「やった!じゃあ今から行こう!」

「え!?」

リリール王子はそのまま私の手を取るとスタスタと歩き出した。

「何処に行くの?」

「秘密。さ、これに乗って」

「これ…馬車?」

「そう。怖い?」

「ううん大丈夫」

「そっか、良かった。じゃあはい」

リリール王子が先に乗り込み手を差し伸べる。

私はリリール王子の手を取り馬車に乗り込むと扉が閉まり馬車が走り出した。

「あの…私誰にも言わずに抜け出しちゃったけど、大丈夫だったの?」

「大丈夫。ベル兄さん達には伝えてるから」

「そうなんだ!わざわざ伝えてくれてありがとう」

「どういたしまして」

暫くの間馬車から景色を楽しみ公園と思しき場所に降り立つとリリール王子は言った。

「さぁ、手を貸して。この先に僕のお気に入りのスポットがあるんだ」

言われるがまま私が手を出すとリリール王子は私の手を握り歩き出した。

暫く歩くと大きな噴水と綺麗なお花畑と大きな木がそびえ立っている。

そしてリリール王子が指を指して言った。

「あそこの木で寝るの僕好きなんだ。だから茜にもここで寝て欲しいんだ…駄目かな?」

「駄目じゃないよ、寝ようか」

「うん♪じゃあはい、頭乗せてよ」

そう言ってリリール王子は自分の太腿をポンポンと叩く。

「…膝枕?」

「嫌?腕枕にする?」

「辛くない?」

「大丈夫。幸せの重みだから」

「幸せの重み?」

「大切な人の体温とかその人の重さとか感じてたい…それが僕にとっても幸せだから」

「わかった…じゃあ膝枕でお願いします」

「おっけーさぁ、どうぞ♪」

そして私は大きな木の下でたっぷりお昼寝した。

「おはよう、茜」

「おはようリリール王子」

「僕の膝枕どうだった?」

「ど、どうだったって…えーと…程よく硬く丁度いい高さで寝やすかった…です」

改めて思うと私男の人に膝枕して貰ったんだと自覚しかあっと顔が熱くなる。

「ふふ…っからかってごめん。お詫びにこれあげる」

リリール王子がそう言って頭に何かを置く。

「これは?」

そう言いながら私は頭に置かれた物を取って見た。

「花冠、女の子が付けると綺麗だから作ったんだ」

「ありがとう…リリール王子」

そして私達は縁堂さんが作ったお弁当を食べてから馬車に乗り込み私達は城へと帰宅した。


───ハプニングの誕生日パーティー!?───

朝食後ホールから自室へ戻る途中の廊下でベルーガ王子に声をかけられる。

「茜、ちょっといいかい?」

「ベルーガ王子、どうしたの?」

「ここじゃなんだから、僕の部屋に来てくれないかい?リリールも待ってるから」

「分かった」

「じゃあ、行こうか?」

「うん」

ベルーガ王子が手を出し私は頷きながらベルーガ王子の手を取った。

ベルーガ王子の部屋に行くとそこには既にリリール王子が居た。

にこにこの笑顔で手を振っている。

「お留守番ありがとう。リリール」

「どういたしまして♪会いたかったよ茜」

リリール王子が私にハグをしようと両手を広げるとベルーガ王子はすかさずリリール王子をバックハグして頭を撫でる。

「本当にありがとうリリール、じゃあ作戦会議を始めようか?」

「苦し…っ」

「ところで、何の作戦会議?」

「茜、耳を貸してくれるかい?」

「ん?」

すると私の耳元でベルーガ王子が囁く。

「ムーンの誕生日パーティーの相談だよ」

「そうなんだ!ところでいつなの?」

「再来週だよ。そろそろプレゼントとか準備しなきゃだよねー…」

これみよがしに溜息を吐くリリール王子に

「リリール王子はムーン王子の誕生日パーティー嫌なの?」

と尋ねた。

「そりゃあね、だって去年なんかプレゼントをその場で開けてハグして来たんだよ"とっても嬉しいよ!ありがとう!"って暑苦しいっての」

「それだけ嬉しかったんじゃないかな?」

「…まぁ、僕が選んだプレゼントなんだからセンスは良いよね」

「センスの問題だけじゃないと思うんだけど…まぁいいや、今年はどんなサプライズにしようと思ってるの?」

「んー、僕的には苺尽くしの苺パーティーとか良いと思うんだよね。ふたりはどう思う?」

「良いと思う!苺はムーン王子の好物だもんね」

「僕も賛成」

「じゃあ、ご飯は苺パーティーで決まりだね。プレゼントは…」

と、ベルーガ王子が私の方をチラ見する。

するとリリール王子も何か分かったように言った。

「あぁ!そっか今年は茜も居るし茜に決めて貰おうってことだね?ベル兄さん」

「ということで良いかな?」

「…分かった、頑張って決めるね!」

「決まりだね。じゃあ作戦会議は終わりってことで良いかな?」

「うん、僕はおっけーだよ」

「私も大丈夫」

ベルーガ王子は辺りを見渡し何も無い事を確認して作戦会議を終わらせるとベルーガ王子は改めて私達に向き直り

「ふたりとも何か困ったことや進捗が怪しくなったらすぐに僕に連絡すること。良いね?」

「はーい。じゃあ僕は行くから」

「分かったよ」

「じゃあまた夕食で」

そして扉がしまるとベルーガ王子とふたりきりであることに今更気付く。

このまま流れに乗って私達も自室へ帰ろうとするも

「駄目だよ、茜にはここに居て貰わなきゃ困る」

「何で…?」

「…寂しいから」

と言ってベルーガ王子がハグしに来る。

「意外と甘えん坊さんなんだ?」

と聞くと

「…そうだよ」

と頬を赤くして応えた。

「可愛いね」

「可愛いくないよ。お母様にも昔呆れられてたんだ"お兄ちゃんなんだからしっかりしなさい"って」

「でも、ふたりきりの時は私に甘えたいってこと?」

「うん。たまには良いだろう?」

「まぁ良いんだけど」

そうして私達はムーン王子の誕生日プレゼントをふたりで見たり、他愛もない話をして一日を過ごした。


翌日私はリリール王子の元へムーン王子の誕生日プレゼントについての相談をしにムーン王子の部屋に向かった。

「ムーン王子?」

だが、扉をノックしても一行に返事がない。

今日の朝食の席にはきちんと来て居たので何処かに出かけているのだろうと私はムーン王子を捜索しながら私個人でもプレゼントをどうしようかと思案する。

だが、やっぱり自分ではプレゼントは決まらずムーン王子のことをよく知るリリール王子を捜索することに集中することにした途端

庭園の大きな木の下でお昼寝をするリリール王子を見つけた。

「リリール王子」

私が呼びかけると

「ん〜…なぁに〜?」

というとても可愛いらしい声がリリール王子の口から発せられる。

「ムーン王子の誕生日のことで相談したいんだ」

「いいよ〜乗ってあげよう」

と機嫌が良さそうに応えた。

「ありがとう」

「で?どうして僕に相談するの?」

「実はね…ムーン王子のことをよく知る人達にムーン王子のこと教えて欲しくて聞いて回ってるんだ」

「ふーん?そっか」

「うん?何か変だった?」

「嫌、変ではないよ。そっかーでもそれは僕らに聞くんじゃなくて茜自身が考えたプレゼントの方がより解って貰えてるって思えて嬉しいんじゃない?」

「そっか、そうだね。でも、探し始めると次々と良いと思う物が出て来て困ってるんだよね…」

「そっか。でも、頑張って選んでるの想像してムーン兄さんはめっちゃ喜ぶと思うから僕はアドバイス出来ないや…ごめんね?」

「いいよ、ありがとう話聞いてくれて」

「リリール!茜!」

「あ、ムーン王子」

「げっ!ムーン兄さん」

「リリール?その"げっ!"って反応は何だよ?」

「驚いただけ!じゃあ、頑張ってね」

そそくさと去り行くリリール王子を見つめていると

「リリールと何してたの?」

と寂しそうな声で私をバックハグをして聞いて来た。

「寂しかった?」

と聞くと

「寂し…くはないんだけどね!」

と言いながら私を抱きしめる力がキツくなる。

寂しかったんだろうな。いや、嫉妬かな?なんて思いながらムーン王子の頭を撫で言う。

「こうしてみんなと仲良くさせて貰ってるけど私実はみんなのこと何も知らなかったんだなって」

「それってどういう…」

これ以上一緒に居るとサプライズなのにバラしてしやいそうだと思った私達はムーン王子との会話も早々に引き上げることにした。

「じゃあ私も部屋に戻るねっ!それじゃあ!」

だが、それがムーン王子をとても傷付けたことにも気付かずに…


翌日いつものように朝食の席で王子達が迎えに来る。

だが…

「あれ?ムーン王子は?」

「あぁ、ご飯は要らないと言っていたそうだよ」

「昨日あれから何かあったの?」

「何してたの?って聞かれたから返答に困って私みんなのことよく知らなかったんだねって言った…けどやばかったかな?」

「…まぁ少なからず傷付くよね」

「そうだね。謝りに行こうか」

「そうだね」

そしてそのままムーン王子の部屋へ行くと扉越しにムーン王子の声が聞こえて来る。

「何処が駄目だったんだ…?いきなりハグはキツかった…?」と反省会をしているようだ。

私は扉をノックして言う。

「別に嫌だった訳じゃないよ。昨日は冷たくしちゃってごめん…良かったら一緒に朝食食べない?

「茜?怒ってないの?」

「怒ってないよ。むしろ怒って良いのはムーン王子の方だよ」

「良かったー…嫌われたのかと思った」

「不安がらせてごめんね」

「いいよ?でも、悩みがあるなら俺にも相談してね?」

「うん」

そうしてサプライズバレを何とか回避し私達はムーン王子の誕生日パーティー当日を迎えた。


───婚約発表───

この世界に来て遂に2ヶ月私は運命の選択を迫られていた。

「沢守茜、君は元の世界へ帰るかこのままここに残るか選べたか?」

「はい、決まりました」

「なら、今ここで述べなさい」

「はい。私は…ここに残りベルーガ第一王子と婚約します!」

私がそう発言すると周りからドッと拍手が沸き起こった。

私は驚き当たりを見渡すと王子達が肩を寄せ合っているのが見えた。

「おめでとう兄さん」

「おめでとうベルーガ兄さん」

「…ありがとう…!ふたりとも」

どうやら揉め事ではなく純粋に兄の婚約に喜ぶ兄弟達に私はどこかホッとしていた。

「静粛に!茜さん本当にいいんだね?君はもう二度と現実世界には帰れず現実世界に居る君の肉体は滅ぶが」

「構いません」

「分かった。ならば私は認めよう異論のある者は居るか?」

お義父様がそう発言した時

「はい!」

少し低く透き通る綺麗な少女の声が聞こえて来た。

「私はベルーガ第一王子が好きです。なので、この方との婚約に反対いたします!」

「ユーリ!?」

「ユーリ諦めなさい」

「お父様、お母様。私はこの恋以外する気は御座いません!どうか私の気持ちも解ってください」

「ユーリ…」

ユーリと呼ばれた少女は覚悟を決めた面持ちでお義父様の所に行くと

「国王陛下。異世界から来たお方よりこの街で生まれ育った人の方が街の方の信頼を掴むのは早いどうかもう一度考え直して下さい」

「…だが、これはベルーガと茜さんが選んだこと私に口出しする権利は無いのだよ」

「…っう…!」

ひざまづき涙を流すユーリという少女は彼女のご両親に回収されその場は収まった。

だが、これは始まりに過ぎなかったのだった。


「ごめんね…茜」

「ん?どうしてベルーガ王子が謝るの?」

「ユーリという少女は僕の幼なじみなんだ。幼少期からずっと一緒の学校で、同じクラスで、家も近くて、昔はしょっちゅう遊んでいたんだ」

「今は仲良くないの?」

「彼女からある日突然避けられるようになったんだ。僕は僕が国王の息子だから避けられてるんだと思っていたんだけど…」

「そっか…」

何だか複雑だ私の知らないベルーガ王子をユーリという少女は知ってるというこの事実が私の心をモヤモヤさせる。

「でも、僕はもう茜のことしか見てないし、見たくない…茜が側で笑ってくれてたらそれでいい」

「ベルーガ王子…♡」

「ベルって…」

「え?」

「ベルって呼んでよ…」

顔を赤く染めて目線を少し逸らしながらベルーガ王子が呟いた。

それを見た瞬間とてつもなく愛おしくなり私はベルーガ王子を抱き寄せて

「べ、ベル…」

とベルーガ王子の名を呼んだ瞬間顔が火照って行くのを感じた。


───花嫁修行───

婚約発表から翌日私の自室の扉が叩かれる。

「茜、入ってもいい?」

「い、いいよ…」

私が返事をするとベルがひよっこりと顔を覗かせる。

「おはよう…ベル…」

「おはよう…茜…」

昨日の出来事の恥ずかしさで思わず下を向く。

「茜…こっち、見て…」

とベルが私に近づき顎に手を添え私の顔を上向かせた。

「ベル…」

「…ふふっ」

「え?」

「ごめんごめん…可愛いなって…それと夢じゃないんだって嬉しくなっちゃった」

「…!もうっ!着替えて来るから外で待ってて!」

「はいはい」

にこにこしながらベルが自室から出たのを確認し私は溜息と同時に膝から崩れ顔の火照りを取り除こうと必死に手で扇いだ。


落ち着き着替えも済ませベルと共に広間へと向かうと

ムーン王子とリリール王子を初めとしたメイドや執事達が並んで私達を待っていた。

「おはようふたりとも」

「「おはようございます」」

「では、本題に行こうか」

「「はい」」

「茜さん君には花嫁修行をして貰う」

「…はい」

花嫁修行って何!?

料理とかするの?

「と言ってもただの挨拶回りよ。この国の民と周りの国の貴族達への挨拶回り」

王妃がそう言うと国王陛下は頷く。

「過酷なことは…まぁ無いとは言えないがそう酷い扱いもないだろう。安心してくれ」

「わかりました」

「そしてベルーガにも挨拶回りに同席しつつお前には剣技を磨く特訓を開始する」

「はい」

「早速このあと挨拶回りをするから着替えて来て…メリドット」

「はい」

「サポートお願いね」

「かしこまりました」

そして私はベルと別れ自室で着替えを済ませ城の門まで来ていた。

「ベル…」

ベルはまだ来ていないようだ。

「茜様。日焼けしてしまいます中で待ちましょう」

「…はい」

メリドットの手を借り馬車に乗り込みベルを待っていた。

「待たせてすまない」

暫くするとベルの声が聞こえて来た。

「ベル」

「茜、待たせてごめんね?」

「大丈夫だよ」

「発車致しますのでご着席くださいベルーガ様」

「あぁ…わかったよ」

「…大丈夫?」

「何がかい?」

「ベル何だかボーッとしてるから…体調悪い?」

「ううん、元気だよ…ただ…」

ヒヒーンと馬の鳴き声が聞こえると

「ユーリ!やめなさい!」

「ユーリ様…」

衛兵達の同情しているかのような苦しそうな声とユーリのご両親が必死にユーリを制止する声が聞こえて来た。

「…やっぱり居るか」

「え?」

「茜、僕の手を離さないでね…絶対に僕が守るから」

ベルが私を抱き寄せ頭を撫でる。

この時の私はまだ想像もできなかった。

まさか清楚そうな少女からあんなに罵声を浴びるだなんて

「いらっしゃいませベルーガ様、茜様…昨日は娘が御無礼してしまい申し訳ございません」

父親と母親が謝っている最中ユーリは私を睨みつけている。

ベルが私と繋いだ手を強く握る。

「ほら、ユーリ謝りなさい」

「…申し訳ございませんでした」

「…大丈夫。もういいだから、二度と茜と僕には近づくな」

「…嫌だ!絶対あんな泥棒猫より私の方が街の人には褒められるし、私の方がベルのこと沢山知ってるし、ベルのことを愛してるのに…こんな奴何で元の世界に帰らなかったのよ!この泥棒猫ーっ」

「ユーリ!!」

「も、申し訳ございません茜様、ベルーガ様後で叱りますのでどうか御勘弁を…」

「帰れぇ!この泥棒猫ー!!」

このあとも街の人達からも暴言はなかったけれど良い顔をした者は誰一人居なかった。

考えてみたら当然だ。

云わば私はこの街の人から見れば宇宙人のような者なのだから。

第一王子の前では流石にみんなにこにことしていたが内心では不安なのだろう。

「大丈夫かい?茜」

「大丈夫だよ…ただ」

「ただ?」

「私はこれからこの街の人達の信頼を得る為には何をしたらいいのかな?」

「…それは正解なんて無いんだからそれは茜が自分で考えて実行するべきなんじゃないのかな?」

「…だよね」

「僕も出来ることはサポートはするから頑張って」

「…うん」

そこから私の"花嫁修行"という名の"ボランティア活動"が始まった。


私は街の人達に挨拶を一通り済ませ街の清掃活動を開始した。

城の人達は反対して居たがこのままでは私は離婚させられそうだ。

なので、私は急ぎ道をするよりも確実な選択をした。

…と思っていたのだけど

「見て、異世界から来たとかいう人が掃除をしてるわ」

「こうやって見ると本当に王族に嫁いだの?って感じ」

「どうしてベルーガ第一王子は異世界の人何か選んだのかしら」

一筋縄では行かないことも覚悟してたけど

正直、街の人達は私にとても辛辣だった。

それでもベルとの幸せを掴んだのに手放したくない。

それにこの幸せを手放せば私はもう何処にも居られなくなる。

だから私は毎日街の清掃活動に力を注いだ。


婚約発表から早3年私はすっかり街の人達とも打ち解けられた。

「姫、おはようございます」

「おはようございます」

「今日も買って行くかい?」

「はい!カヌレふたつ貰えますか?」

「カヌレね。ベルーガ第一王子と食べるのかい?」

「はい!ここのカヌレはとても美味しいので」

「いつもありがとうね。あとふたつオマケしておいたから」

「ありがとうございます!」

思えばこのおばちゃんがこの街で最初に私に声をかけて来た人だ。

そこからは街の人達も警戒心がなくなったのか話しかけられることが多くなって

私はベルとの幸せな生活が送れている。


───執着───

ベルの誕生日が迫る今日この頃私はムーン王子とリリール王子とベルの誕生日プレゼントを買う為に街へ繰り出していた。

「茜、このブローチはどうだろ?」

「お花とかいいんじゃない?」

「本とかもいいよね?」

「でもベル兄さんがどの本持ってるとか知らないよ?」

「確かに…あ、カヌレ!誕生日プレゼントにどうかな?」

「カヌレかー確かに良さそう♪」

「だよね、じゃあ買って来るね」

「待って待って俺も行くよー」

「いってらっしゃい僕はここで待ってるから」

「いってきます♪」

「おーいってくるー」

そして私はいつものパン屋でカヌレを買い、熱を出し倒れたベルの為にケコッコー(卵のようなもの)とマイマイ(米のようなもの)を買い城に帰城した。

早速私は厨房へ赴き縁堂さんにお願いをして料理を開始した。


無事にお粥的なものを持ってベルの部屋へ向かった。

「ベル、ちょっといいかな?」

扉をノックしながら声をかける。

だが、返事はなかった。

「寝てるの…?」

そっと扉を開けるとベルがベッドで眠っていた。

「…お粥どうしよう」

無理矢理起こすのも悪いので私はそのままベルの部屋を出て厨房へ戻り冷蔵庫にお粥を入れてベルが起きるまで部屋に居ることにした。

ベルの部屋へ向かう道中私はユーリと遭遇した。

ユーリは此方に気付くと鬼の形相で近付き

「お久しぶりです。茜様」

「ユーリ様お久しぶりです」

「ベルと最近はどうかしら?」

「とても仲良くしておりますよ」

「あら、それは良かったです。本当は私がベルのお嫁さんになる予定なので早く別れてくれても構わないんですよ?」

まだ根に持ってるんだなって丸わかりの態度と言葉で攻撃を仕掛けるユーリ様に見兼ねた家来がユーリ様にさり気なく耳打ちをして言う。

「ユーリ様夕食の時間が迫っております。誕生日プレゼント選びの時間が短くなってしまわれますよ」

「それもそうね。それじゃあ、ごきげんよう茜様…今度は覚えてなさいよ泥棒猫」

「茜様大変申し訳ございませんでした」

家来がぺこりとお辞儀をして去って行った後、私は気を取り直してベルの部屋へと辿り着いた。

そっと扉を開けてベッド横の椅子に腰掛けベルの寝顔を眺めた。


暫くしてベルが目覚めると私はいつの間にか寝落ちしてしまっていたのかベルがカーディガンをかけてくれていた。

「ベル…」

「おはよう茜…いや、もうこんばんはかな?」

「こんばんはだね…ごめんね寝落ちしちゃって狭くなかった?」

「大丈夫。狭くなかったよ…それより茜」

「ん?」

「縁堂さんから聞いたよお粥作ってくれてありがとう」

「…美味しかった?」

「勿論美味しかった」

「良かったー」

「茜の作ったお粥のおかげで僕の熱も下がったし明日は元気になってるはずだよ」

「そっか、良かった…」

「だから誕生日パーティーの夜は一緒に過ごそうね」

「うん!」


そして翌日宣言通り元気になったベルは無事に自分の誕生日を元気に迎えることが出来た。

「お誕生日おめでとうベル」

「お誕生日おめでと〜!ベル兄さん」

「ベル兄さんお誕生日おめでとう」

「ありがとうみんな」

それぞれ祝いの言葉を掛けた後、誕生日プレゼントを渡す。

私も例に漏れずにプレゼントのカヌレを渡した。

だが、人気者のベルがプレゼントを受け取ると他の女の子達に押し退けられた。

その拍子で私は思わずよろける。

「茜!」

するとベルがすかさず手を差し伸べ私の腰に手を回し

「僕の隣に居てよ…茜のこともっと沢山の人に自慢したい」

「ベル…」

ヒューヒューという恋愛系の話にはありがちな冷やかしは起こらなかったが周りからは微笑ましいや初々しいなどの声が聞こえ和やかな雰囲気に包まれる。

その時会場にベルの誕生日ケーキが運ばれて来た。

「茜ケーキを取って来るよ」

「ううん、私が行くよ。病み上がりのベルに無理はさせたくない」

「茜…ありがとう」

「じゃあ、いってくるね」

そして事件は起こった。

「きゃあっ」

ユーリ様とすれ違ざまにユーリ様の手に握られたケーキが私のドレスに落ちる。

そして驚きで固まる私にユーリ様はわざと私にぶつかり転けた。

「痛っ!ちょっと!!謝りなさいよ」

「…え?」

「今私にぶつかったでしょう?謝って」

「も…」

「でも、その前に茜にケーキ着けたのはユーリだろう?」

「ベル…」

ベルが助太刀に入るとムーン王子やリリール王子も加勢する。

「…っ!」

「でも、ぶつかって来たのはそちらよ!謝りなさいよ!」

「僕、見てたよユーリ様がぶつかりに行ってたんじゃん」

「…嘘よ!」

「本当だよ」

「俺も見てた」

「茜、大丈夫かい?」

「大丈夫…」

「…っもう!私が悪いんでしょ?はいはいすみませんでしたー」

遂に周りの圧力に耐えきれなかったユーリ様が棒読みで謝罪する。

「ユーリ様もう行きましょう。皆様申し訳ございませんでした」

ユーリ様の家来がお辞儀をしてその場は収まりを見せる。

だが、ベルは今回の件でガチでキレたのかどうなのかは分からなかったが家来とユーリ様を引き止めて何かを話し合っていた。

「気になる?」

「ムーン王子、リリール王子」

「兄さん余っ程頭に来たんだね目が怖いよ」

「あははっ本当だ」

「それより!ふたりともさっきはありがとう」

「どういたしまして」

「どういたしまして♪別にお礼なんか良いのに〜」

「でも、嬉しかったし、お陰で濡れ衣着せられなくて済んだんだし」

「まぁ、気持ちは喜んで受け取るよありがと♪」

「茜様、お着替えに参りましょう」

メイドのメリドットが聞き耳を立てて居たのか会話が途切れるタイミングでやって来る。

「あ、メリドットちゃん」

「それでは失礼します」

「うん、茜。またあとでね〜」

「うん!」

そしてパーティー会場から自室への道中ユーリ様を見かけた…が、泣き崩れとてもじゃないが声をかけるのを躊躇って私は声をかけることなくメイドさんに会釈をしてユーリ様のメイドさんも会釈を返してくれたので私達はその場を後にした。


自室からパーティー会場へ戻るとベルが出迎えてくれた。

「茜!こっちこっち」

「ベル!どうしたの?」

「茜にこれを見せたくてね」

と言いベルは綺麗な飴細工の鶴を見せる。

「鶴だ!ベルが作ったの?」

「いや、縁堂さんがね平和の象徴だからって作ったんだ。茜が住んでた世界ではこの鳥は平和の象徴だったんだね」

「うん…にしても綺麗だね」

「うん。綺麗だね…でも」

ベルが私の耳に近付き

「茜の笑顔が僕は一番好きだな」

と言い頬にキスをする。

ほんのり顔が赤くなっているような火照りを感じながらも私はこの幸せな時間を噛み締めた。


───お披露目式───

ベルの誕生日パーティーから早1ヶ月

あのパーティー会場でユーリ様はベルに絶縁を申し込まれて以来一切見かけなくなり風の噂で別の貴族の方と婚約したのだと聞いた。

そして私は"街の人達の信頼関係を築くこと"という課題をクリアし私は今日無事に正式にアルシュタイン家の姫として迎え入れられた。

今はベルと一緒に街の人達に手を振っている。

「茜」

「ん?」

「あれ見て」

そこにはパン屋のおばちゃんが"ベルーガ第一王子様・茜様結婚おめでとう!"横断幕を持っていた。

「おばちゃん…」

「後日ふたりでお礼に行かないとね」

「そうだね」

そうしてお披露目式は閉幕した。


その日の夜自室にベルがやって来た。

「どうしたの?」

「茜、今からデッキに来れるかい?」

「大丈夫だけどどうしたの?」

「星空が綺麗だから茜と見たいなって思って」

「そっか。あ、じゃあカーディガンとかも要るよね」

「そうだね」

そしてカーディガンを羽織り準備を整えて私はベルと一緒に自室のデッキへと出る。

上を見上げると満点の星空が広がっていた。

「うわぁ〜綺麗…」

「でしょ?茜ならきっと喜んでくれると思ってたよ」

「ベル教えてくれてありがとう」

「どういたしまして♪」

そして暫くふたりで星空を眺めてすっかり身体が冷えたので、厨房へ行きココアを2つ作ってふたりでココアを飲む。

「あー温まるー」

「温かいね」

「そうだね」

「ココアを飲んだらもうおやすみにしようか」

そう言われ厨房内の時計を見ると時計の針は22時を示していた。

「そうだね」

そしてココアが無くなり私はコップを洗うべく流し台の前に立つすると後ろからベルがハグをする。

それはとても温かく同時に少しくすぐったい。

「ベル?どうしたの?」

「やっぱり寂しいな…今夜は一緒に居たい…駄目かな?」

どうしてだろう私も少し寂しいと思っていた所だっただけに少し心を読まれたような気がして動揺する。

「いいよ。私も一緒に居たいって思ってた」

そしてコップを洗い終え私の自室に入るとベルは私をベッドに座らせ自分も座った。

「茜実は僕ずっと気になってたことがあるんだ」

「何?」

「どうして茜は僕を選んだの?」

「どうしてってそりゃ…みんな優しいし良い人だよ。でも、私の気持ちに寄り添ってくれてたのはベルだけだった。私はそれが嬉しかっただからベルをお婿さんに選んだの」

「茜…」

「ベルは?どうして私の事好きなの?」

「僕は本当は婚約なんて親が決めて僕はそれに従うしかないと思ってたんだ。病弱だし頼もしくもない…でも、茜を一目見て稲妻に打たれたみたいな直感を感じてこの子しか好きになれないって思ったんだ」

「ベル…ありがとう」

「僕こそ出会ってくれて…そして、僕を選んでくれてありがとう」

「あー…今日はずっと幸せだったなぁ…」

「僕も。幸せだったよ…でも、これからもずっと幸せなんだからそんなしんみりしないでよ」

「そうだね。改めて…私を選んでくれてありがとうベル」

そうして手と手を繋ぎ合わせて私達は暫く窓に映る星空と満月を眺めながら他愛ないお喋りをしつついつの間にか眠りに落ちていたのだった。


───ムーン王子とおっちょこちょいな新人メイドさん───

ベル兄さんと茜が婚約し数ヶ月。

俺は未だ茜に恋をし続けている。

「あ、ムーン王子。おはようございます」

「茜ちゃん♪おはよ〜ベル兄さん探してるの?」

「うん、ムーン王子。ベル知らない?」

「知らないな〜でも、書庫に居るんじゃないかな?一緒に行く?」

「うん!ありがとうございます」

茜と書庫に向かう道中俺は気になっていることを聞いてみる。

「茜ちゃんベル兄さんとはあれからどう?キスとかはもう…」

顔を赤くしている茜を見てまだだと察する。

「ってまだしてないか兄さん奥手だもんね」

「うん…でも、とても甘えん坊さんなんだ可愛いよね」

へぇ…甘えん坊さんなんだ兄さん。

俺達の前では決して見せない表情を想像しても違和感しかない。

甘えん坊担当はリリールだどうしてもリリールの顔で想像してしまう。

「どうしたの?」

「なんでもないよ…ただ甘えん坊の兄さんが想像出来ないなって」

「ムーン王子の前ではどんな感じだったの?」

興味津々といった表情で茜が食いつく。

「んーしっかり者で倒れないか心配…あと、不器用」

「成程…」

ふむふむと頷く茜を思わず抱きしめたい衝動に駆られるが踏み止まり俺は茜を書庫へと招き入れる。

「ベル!」

「茜?ムーンもどうして?」

「俺は茜ちゃんが兄さんを探してたから手助けしただけ♪じゃあごゆっくり〜」

ひらひらと手を振りながら退散する。

扉を閉め扉にもたれかかり

「あーあ…俺が幸せにしたかったな…」

と思わず呟き未練を振り払うように俺は歩き出した。


目的もなく自室に戻り俺はベッドで仰向けになりながら暇を持て余しいつの間にか眠っていた。

目覚めると外が暗くなっていることに気付く。

今は何時だろう?と時計を見る。

時計は20時を示していた。

夕食の時間の最中であることに気付き俺は食堂として使われているホールへと向かった。

「あっムーン様!ただいまお食事をお持ち致しますね」

「ありがと〜」

「ムーンやっと来たか」

「お父様遅れてすみませんでした」

「まぁ、良い今日は新しいメイドを紹介しよう…入りなさい」

「し、失礼致しますっ」

新人メイドがホールに入室することで姿形が明らかになる。

そこには黒く長い髪を後ろに纏めたお団子ヘアの小柄な女の子だった。

「新人のハスレンと申します。よろしくお願い致します」

「よろしくね〜ハスレンちゃん。俺はムーン。一応第2王子」

「はい!よろしくお願いします!」

彼女ハスレンちゃんがやって来て俺はハスレンちゃんがとんでもなく危なっかしい人だと分かった。

荷物を持たせると転ける、皿洗いをすると皿を割る、掃除をさせれば泡だらけになる

次第に俺は彼女から目が離せなくなっていた。


「はっすー!半分持つよ♪」

今日も彼女は大荷物で廊下の掃除をしていた。

「ムーン様、おはようございます」

「はっすーもうここには慣れた?」

俺はいつしかハスレンのことをはっすーと渾名を付け親しくなっていた。

「はい!皆さん優しいのでここは楽しいですっ」

「良かったーあ、急がなきゃご飯に遅れちゃう!はっすーまたあとでね〜」

はっすーはお辞儀をして

「はい!いってらっしゃいませ」

と言った。


朝食を終えて俺は暇を持て余し城の庭園で紅茶を飲みながらハスレンが薔薇に水をあげている様子を見ていた。

「ムーン様、いつからいらしてたのですか?」

「ついさっきだよ。所でここの薔薇ははっすーの担当だったっけ?」

「いいえ。ここの担当の縁堂さんは今手が離せないそうなので代わりに」

「そっか、はっすーは人のことちゃんと見れてて偉いね」

俺ははっすーの頭を撫でる。

「あ、ありがとうございます!」

とても嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「ハスレン!どこで道草食ってんだぁ?」

と横から割って来たのはハスレンの先輩ジュルジュだった。

「も、申し訳ございません。では、失礼致します」

「じゃあね〜」

本当に慌ただしい嵐のような子だ。


はっすーが来てから早半年。

いつも元気で真面目な彼女を今日は見かけて居ないもう夕方俺は流石に心配になりはっすーの同僚達に行方を聞いたが

「朝からずっと連絡が取れない」

とのことだった。

俺はお礼を言いはっすーを探しに城や街を探し回った。

「はっすー…」

だが、何処にも居ない。

途方に暮れ俺は橋に寄りかかりながら川を見ると向かいの橋下にはっすーを見つけた。

俺ははっすーの元へ向かいはっすーに声をかける。

「はっすー!心配したよ〜帰ろ?」

「…ムーン様、申し訳ございません先にお戻りください」

顔を逸らしながらそっぽを向くはっすーに

「…どうして?俺ははっすーと一緒に居たいんだ」

と言うと

「…どうして…ムーン様はのろまな私に優しくしてくださるのでしょうか?」

と訊ねる。

「…俺ははっすーのこと可愛いと思ってるし一緒に居ると元気になるんだ…もう知ってると思うけど俺失恋してまだ傷が癒えてないんだよね」

「…」

「隙あらばあの子のことを考えて苦しくなって…そんな時にはっすーが来たの…最初は危なっかしいなとしか思わなかったのに今はもうはっすーが俺の生き甲斐なんだ」

「…ムーン様は私に、は勿体ない…お方です…綺麗で優しい気の利く素晴らしいお方です!私はムーン様のことが…好きです」

涙で瞳が潤むはっすーを俺ははっすーを抱き寄せ耳元で囁く。

「俺も…はっすーのことが好きだ。絶対幸せにするから」

「はい…よろしくお願い致します…っ!」

涙ぐみながらはっすーは了承の返事をした。

こうして俺とはっすーは晴れて交際を始めた。


───僕の幸せ───

僕の周りは最近幸せムード全開だ。

「リリールは好きな人とか居ないのか?」

ふと、食事の最中にお父様から聞かれた言葉が頭を過ぎる。

彼女を作った兄さん達は確かに幸せそうだ。

だが、僕にはそういう好きな人とかは居ない。

僕の好きなことと言えば日向ぼっこをしながら昼寝をすることとチョコレートを食べることだ。

確かにそれを自分が好意に思っている人と幸せな時間を共有出来るのは確かに幸せなのかも知れない。

だが、僕のことを解って否定せずに居る人なんか居ないに決まってる。


庭園の大きな木下でお日様を浴びながら微睡んで居ると

『まーたお昼寝してるのかな?リリール』

『ん…ベル兄さんおはよぉございます…』

ベル兄さんに声をかけられる。

『ん、おはようリリール』

ベル兄さんは寝ぼけ眼の僕の頭を撫でながら

『こんな所で寝て居たら風邪を引いてしまうよ』と僕の心配をする。

『ベル兄さんも部屋に居ないと駄目なんじゃないの?』

『そうだね…でも寂しいんだ。リリールが側に居てくれるなら僕も部屋に戻るよ』

意地悪に笑みを浮かべベル兄さんは僕に甘える。

そんな兄さんを甘やかしながら僕もベル兄さんの部屋でいつもいつの間にかベル兄さんと寝ているのだ。

「って…何を思い出してるんだか」

もうベル兄さんには茜居る。

すっかり手のかかる子が巣立ち寂しくなって居るのだろうか?

僕はそんなことを思いながらこのモヤモヤを晴らすべく城を一人で抜け出し街へと出かけた。


ガヤガヤと楽しそうな賑わいを横目に僕は街を探索する。

暫く歩き僕は茜と来たことがある公園に辿り着き僕は休憩の為に噴水の淵に腰掛ける。

人々が楽しそうな笑顔を浮かべながら手を繋いで歩いて居る姿を見ながら僕はぼんやりと茜の事を考えて居る。

茜がベル兄さんと婚約発表をしてからもうずっと僕はこのモヤモヤとした気持ちと戦っていた。

そして婚約発表の日ユーリがベル兄さんとの想いを吐露したせいで僕は全てを悟ってしまった。

"僕は茜が大好きだ。だが、もうこの恋は叶わない"と…

そして僕の心はあの時のまま時が止まって居る。

休憩も飽きた頃僕は再び歩き出す。

そして僕は運命の出会いを果たすのだった。


見慣れた街を歩いて居ると女の子に声をかけられる。

とても小さく小柄でタレ目が良く似合う子だ。

「この辺で美味しいパン屋知りませんか?私観光客でこの辺詳しくなくて…」

「だったらここのパン屋がおすすめだよ」

と僕は目の前にあったパン屋を勧めた。

「ありがとうございます!」

「おーい!パン屋あったかー?」

「あったよ〜!」

彼女は笑顔でパーティーメンバーだろうか男2人を連れている。

「ねぇ、プティは何味がいいかな?」

「ナッツでいいんじゃないか?」

その時遠くの方で悲鳴が聞こえる。

「きゃー!!」

「泥棒だー!」

街の人が協力して犯人を捕らえようとするが犯人はそれを上手に躱し此方へ向かって来る。

だが最悪なことに今ここで犯人を止められそうなのは僕しか居ない。

確かあの時の観光客は武器を持ってなかった。

「あっ!リリール様!危険です!早く此方へ」

僕はその言葉を無視し犯人へと立ち向かう。

「リリール様!」

そして犯人は僕の華麗なる手刀を受けその場に倒れ確保された。

「リリール様!お怪我は…」

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

ホッとしたのか腰を抜かした通行人のおばさんは旦那さんと思われる男性に支えられ家へと帰って行った。

そして僕は旦那さんが城に報告された事により無事に捕まりこの後お父様とお母様にこっぴどく叱られるのだった。


翌日勇者と名乗る一行が僕を尋ねて来た。

どうやら昨日の件で御礼が言いたかったらしい。

何度も御礼をする勇者一行を宥めた後

彼女は僕に惚れ込んだらしくいきなり告白をして来た。

びっくりしつつも僕は少し嬉しかった。

そしてお父様とお母様の計らいにより一週間同棲をすることになったのだった。


そして一週間後すっかり仲良くなった僕達はいつしか恋をして、僕はプロポーズをして彼女は嬉し泣きしながら微笑んだ。


───エピローグ───

ベルーガとの婚約から早3年ここまで色んなことがあった。

私には娘のアルテが生まれてベルは新しく地方の統治を始めて日々頭を抱えている。

次男のムーン王子にも妻と娘と息子が出来て奥さんの尻に敷かれている。

三男のリリール王子は奥さんと共に城を出て地方の山奥で静かに暮らしている。

お互い離れ離れになった兄弟達は月に一度文通を送り合い近況を報告している。


お義父様にベルを地方を統治し王としての知識を広めなさいとの指示を受けてから早1年

私もベルと共に地方に住み始めすっかり馴染んだ今日この頃。

私は今日もベルの仕事終わりを公園で待ちながらベルのお迎えに来ている。

「うー…」

「なぁに?アルテ」

「う!」

アルテはシロツメクサを指さし摘んでくれとアピールをする。

「摘んで欲しいの?」

「う!」

「はいはい」

プチっと2、3本摘んでアルテに渡す。

アルテは満足そうにシロツメクサを眺めては振り回して遊ぶ。

「茜、アルテ」

「おかえりなさいベル」

「うー!」

「ただいまふたりとも」

「帰ろっか」

「そうだね」

「うー…」

アルテはあからさまにガッカリした様子で私を睨む。

一体何処でその表情を覚えたんだと睨まれる度に思うが毎度スルーしている。

まだ身体が軽いうちは抱っこしちゃえばこっちのものだとジタバタと暴れるアルテを抱きかかえて帰路に着く。

そしていつの間にかアルテは疲れて家に着く頃には眠ってしまっている。

そんな毎日に幸せを噛み締めながら私は今日もベルとアルテと共に毎日のルーティーンを過ごす。

END

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界の王子様に惚れられて異世界転生!? 椎名わたり @Si_nawaTri1010315

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ