天使、拾いました。

よこすかなみ

1 転校生は美少年

 世の中には、二種類の人間がいると思う。

「朝陽、昨日のサッカー見た?」

「見た見た、熱かったなー!」

「朝陽〜、今度遊びに行こうって話出てるんだけど、お前も来るよな?」

「行くに決まってるだろ〜!」

「朝陽ー!」

 一種類は、朝陽くんのように、みんなを明るく照らす、太陽のような人。

 わたしは、読んでいる本で顔の下半分を隠しながら、クラスメイトたちに囲まれている朝陽くんを盗み見る。

 ……朝陽くん、今日もかっこいいなぁ。

 人気すぎて、話せそうにないや。

「はぁ」

 ため息も出る。

 中学生にして、もうすでに人間は二種類に分かれてしまった。

 もう一種類は、朝陽くんと異なる側の人間──わたしのように、教室のすみっこで影のように息を潜める人だ。

 わたしと朝陽くんは、正反対のような存在。

 だからこそ、惹かれてしまう。

 影が太陽に憧れたって、誰にも迷惑をかけなければいいでしょう?

 太陽と一緒になったら、影だって輝けるかもしれない。

「みんなおはよー! あれ、朝陽、寝不足? くま、すごくない?」

「莉央」

 大きな挨拶をして教室に入ってきたのは、小原莉央さんだった。小原さんは真っ直ぐ朝陽くんの元へ歩いていく。

 小原さんに至近距離まで顔を近づけられても、朝陽くんは避けようとしない。

「よくわかったな。昨日深夜までサッカー観ててさ」

「あんまり無理しちゃダメだよ? この前だって、雨の中、クラスの花壇の花が飛ばされないように学校行って、風邪ひいたじゃん」

「この前は、この前だろ」

「もう」

 小原さんは納得していない様子だったけれど、長いポニーテールを揺らしながら、自分の席にスクールバッグを置きに行った。

 小原さんと朝陽くんは幼稚園から一緒で、家も近所。いわゆる幼なじみらしい。

 あの様子だと、わたしが知らないだけで、きっと二人は付き合ってるんだろうな……。

 わたしの片思いは、誰にも知られることなく、そっと静かに消えていくのを待つだけのものになっていた。

「みんな席について〜! 転校生を紹介するよ!」

 チャイムと同時に、人一倍明るい担任の先生が教室に入ってきた。入ってきたというより、突撃してきたと言ってもいいくらい。

 て、転校生……!?

 クラスが一気にざわつき、それぞれが驚き、着席していく。転校生が来るという情報を事前にキャッチしていた人は、いないみたい。

 わたしも例外ではないけれど。

「じゃあ、入って!」

 先生に言われて、クラス中の期待を一身に背負った教室のドアが開く。

 現れたのは、肩まである長さの金髪をなびかせた、背の低い美少年だった。

「え……外国人……?」

「ビジュ、つよ……」

 女子が口々に、転校生の顔面の美しさに感嘆の声をもらす。

 しかし、わたしの反応は多くの女子たちとは違っていた。

 あれ……?

 あの人、どこかで見たことがあるような……?

 わたしは転校生の整った顔をまじまじと見つめる。

 透き通った青い瞳と、目が合ったかと思うと──にこり、とその目が細められた。

 え……?

 笑いかけられた……?

 戸惑うわたしをよそに、先生は黒板にチョークを走らせる。

 ──天使恋。

「てんし……?」

「こい……?」

 クラスメイトたちが読み方に苦戦する中、転校生は口を開く。

「あまつかれん、です! レンって呼んでね! よろしく〜!」

 レンと名乗った美少年は、一層にこやかに笑って手を振った。その姿はアイドルだと言われたら信じてしまえるほど、キラキラしていた。

 …………あ。

 ようやく、わたしの脳内で昨日の記憶が弾き出された。

 あ、あ、あ〜〜〜!!

 思い出した!

 あのときの美少年だ!!

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