虫になりたい

20代半ばの女性から聞いた話です。


「私は生まれ変わったら虫になりたいんだ。」

親戚のおじさんは病気で入院中そんなことを言っていました。

どんな病気だったか詳しくは知りませんでしたが病状は芳しくなく、治療の甲斐なく残念ながらそのまま亡くなってしまいました。

お通夜、お葬式を済ませて後日お墓へ納骨をする事になりました。

納骨にはおじさんの家族の奥さん、娘さんのYちゃんと私と両親とおじさんの兄妹のおばさん夫婦が来ていました。

納骨を終えて各々手を合わせたりしていて、私はYちゃんがキャッキャッしている姿が可愛らしかったのでスマホで動画撮影をしているとYちゃんが

「あーっ!」

と大きな声で言ったので皆がYちゃんに注目しました。

Yちゃんのお母さんは

「どうしたの?こういうところで大きな声出したらダメよ。」

と注意しますが、Yちゃんはお墓を指差して

「だってほら!見て!」

Yちゃんの指差す先を見てみるとお墓の中段辺りにシャクトリムシがいて、それを見たYちゃんは

「パパだよ!絶対パパだよ!」

と駆け寄りました。

Yちゃんのお母さんは

「何言ってるのよ。」

と言いながらお墓を見ました。

周りの大人もYちゃんとお母さんの言葉に釣られてシャクトリムシに注目していると、Yちゃんはシャクトリムシに向かって

「パパーーッ」

そう言いながら手を振りました。

するとシャクトリムシはそれに反応するように首を横に振ったのです。

その場にいたみんな驚き、私はその一部始終を動画に収めていました。

その後せっかく集まったのだからみんなで食事をしようということになり、お墓から近い親戚の家に行き出前を取ったりして食事をしました。

ひとしきり食べ一段落ついた頃誰からともなくさっきのお墓での出来事の話を始めました。

「私動画撮ってたからテレビに繋いで見てみようよ!」

と提案しスマホとテレビを繋いだのですがその動画のデータが見当たらないのです。

それ以外のYちゃんと撮ったデータはあるのにそれだけが無かったんです。


あの出来事はなんだったのでしょうか。

もしあのシャクトリムシがおじさんで、生前の希望が叶っていたとしたら私も嬉しいなと思っています。


虫になりたい 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る