山道でのドライブ

ある関東に住む専業主婦の50代の女性から聞いた話です。

とある観光地へ2泊3日の旅行に行った時のことです。

私達夫婦には2人子どもがいるのですが、2人とも就職し夫婦の時間が有り余る程できました。

たまには2人で旅行でもという話になり、車で3時間弱程の山中にある観光地の旅館に旅行に行くことにしました。

当日は昼前くらいに家を出発しました。目立った渋滞もなく目的地の少し手前で道の駅や観光地などに立ち寄ったりし、旅館に着いたのは夕方の5時くらいでした。

チェックインをして部屋で軽く荷解きをし少しゆったりしていると夫が

「夜ご飯この辺なんかどう?」

とパンフレットを見せてくれました。

夫はお酒が好きなこともあり、初日の夜ご飯は宿で食べず地元のお店で地酒等が飲めるところで食事をしたいと旅行前からの要望だったんです。

特にお店を決めていたわけではなかったのですが、夫が宿のエントランスに置いてある観光スポットやその周辺のお店が掲載された地図付きのパンフレットでめぼしい場所を見つけていたようでした。

その場所には湖と湖の周りには飲食店やお土産屋さんなどがいくつかあり、その内の1つを夫は提案しました。

お店の写真を見ると落ち着いた雰囲気でこじゃれていて魅力的でしたのでそこに即決しました。


部屋の鍵をフロントに預け、車に乗り込みカーナビにお店の住所を入力し出発しました。

ここから15分くらいの距離で到着予定時間は六時過ぎでした。パンフレットで見た地図の感じでもそれくらいだったよなー、なんて考えていました。

私達はその辺りの地理に明るくないですからカーナビの指示に従い私が運転し車を走らせたんです。

山の中のウネウネした道を走るのはちょっとしんどいですが、そんなに距離はないしと思っていました。

しかし、20分ほど走ってもなんだか到着する気配がないんです。

ただ山道を上ったり下ったりするばかりで、湖のみの字も見当たらないし、道や町の感じが開けてくることもなかったんです。

夫と

おかしいなぁ、道を間違えたかなぁ、でも一本道だしねぇ、なんて話をしていました。

それからもずっと走り続けていると、お互いこの状況に焦ってしまい少し言い合いになったりと嫌な雰囲気になってしまいました。

ですがUターンもできる状況じゃなかったですし、戻ったとてどうしようもないのでとにかく進みました。

それでもなかなか辿り着けなくて本当に焦って、もはやしゃべることもできず車内の空気は重くなる一方でした。

すると何の前触れもなく視界が開けて少し先に湖とそれを囲む建物の明かりが見えてきたんです。

良かったぁと二人で安堵し車内の雰囲気も一気に明るくなり目的のお店へと向かいました。

お店に到着し敷地内の駐車場へ車を停めたときにカーナビの時計を見ると、7時半になろうとしているところでした。

6時前に出たので一時間半近くかかったことが不思議でなりませんでした。

ですがせっかくの旅行なので気持ちを切り替えて楽しもうと美味しい料理を楽しみました。


一時間半の運転で少し疲れましたが、夫はお酒を飲んでしまっているので帰りも私が運転しました。

カーナビに旅館の住所を入力し出発すると到着予定時間は10分後になっていました。

こんなもん当てにならないわ等と考えていましたが土地勘がないのでカーナビの指示に従わざるを得なかったんです。

走り始めて山を上り少しすると道路の脇に、四方の上半分くらいがガラス張りになっている小屋のようなものがありました。

近づいていくとそれは有料道路の料金所でした。

来るときはこんなのなかったのに、と不思議に思いながらも引き返せないので料金所へと進みました。

150円でーす。

料金所のおじさんへ150円を渡し質問をしてみました。

「◯◯という旅館はここからどれくらい掛かりますか?」

「◯◯さんはここを真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がったところですよ。もうすぐそこなのですぐわかると思いますよ。」

とにこやかに言いました。

「え?すぐそこですか?」

私は驚きましたし、それがおじさんに伝わっていたと思います。

おじさんは不思議そうにしながらもにこやかに

「はい、すぐそこです。」

と言い出発を促している様子でした。

ありがとうございますとお礼を言い出発すると先程までと同じような一本道の山道が続いていました。

そのまま5分程走ると突き当たりの丁字路が見えてきました。

料金所に続きまたもや見覚えのない景色にかなり驚き、夫に聞きました。

「こんなとこあったっけ?」

「いや、こんな所なかったはず…」

恐る恐る進み、丁字路にぶつかりました。

「あのおじさん右に行くって言ってたよね?」

「あぁ、右にって言ってた。」

左右を確認し、おじさんの指示通りに右折しました。

やはりこれまでのような山道でかなり不安でした。

5分も走らなかったと思います。道路の左側に明かりを放つ建物が見えてきました。

私達の泊まる旅館でした。

二人とも唖然としていました。

行きは一時間半も掛かったのに帰りは20分も掛かっていません。

「ここ…だよね…?」

「うん…ここだな。」

駐車場に車を停めてフロントに行くと

「◯◯様、おかえりなさいませ。」

と受付の方が仰られました。

やっとここで、あぁ戻って来れたんだと思えました。

部屋へ戻り二人で大笑いしました。

「山に旅行に来たからって、こんなタヌキか狐に化かされるみたいなベタな話あるなんてね!」

「ホントだよな!昔話じゃあるまいし!」


もしかしたらただ私が道を間違えたかもしれません。

ですが、そんな堅苦しいことは考えず、この出来事はタヌキか狐に化かされた楽しい思い出としています。

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