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「じゃあ、お喋りはこの辺りにして軟膏を塗ろうか。ちょうど先日新しい薬を調合したところでね。擦り傷にはよく効くと思うよ」


 レイクが言って薬品棚の方に向かう。彼が目当ての物を探している間、シリカは感心した様子でずらりと並んだ薬草や薬瓶を眺めていた。


「この棚っていつ見てもすごいですね! 知らないお薬がいっぱいです!」


「どんな怪我にも対応できるよう、様々な効能の物を揃えているからね。自然と数が多くなるんだ」


「百個くらいありますよね。これ全部覚えてるんですか?」


「ああ。そうでないと適切な薬を処方できないからね」


「わぁ、すごい! 私なんてこの半分でも覚えられる気がしないです」


「見ただけだと難しいかもしれないね。僕は作るところからやっているから、その過程で自然と覚えていくんだよ」


「へえ、先生ってお薬も作ってるんですね! 何だか魔術師みたいです!」


 シリカが無邪気に賞賛の声を上げる。魔術師、という言葉がレイクの心をちくりと刺したが、気づかない振りをした。


「薬学は思っているほど難しいものではないよ。よかったら教えてあげようか?」


「え、いいんですか!?」


「ああ。興味を持ってもらえるのは僕としても嬉しいからね」


「わぁ、嬉しい! お薬作れたら怪我してもへっちゃらですね!」


「はは、そうだね。だが今は、とりあえず既成の物で君の怪我を治療するとしようか」


 ようやく目当ての軟膏を探し当てたレイクがシリカの元に戻ってくる。シリカの右足を空いている椅子に乗せ、ビニール製の手袋を嵌めて膝小僧に軟膏を塗っていく。擽ったいのか、シリカは何度かふふっと笑いながら身体を揺らした。


「今はこのくらいで十分だろう」軟膏を塗り終えたレイクが手袋を外した。

「後は自宅に帰ってから自分で塗るといい。頻度は一日に三回程度。一週間もすれば治癒するだろう」


「はぁい。でも先生ってお薬塗るのも上手なんですね! マッサージしてもらってるみたいで気持ちよかったです!」


「そうかい? あまり意識したことはなかったが……気に入ってもらえたのならよかったよ」


「はい! でも私、やっぱりお姉ちゃんが羨ましいです。お姉ちゃんはいっつもこんな風に先生に優しくしてもらってるんですよね。一人だけずるいです!」


「それは……まぁ、彼女は僕にとって特別だからね」


「いいなぁお姉ちゃんは。私も先生みたいに、優しくてカッコいい人とお付き合いしたいです!」


 シリカが目をきらきらさせながらレイクを見つめてくる。自分とシリカは九歳も歳が離れており、本気で言っているわけではないだろう。単に恋愛に興味を持つ年頃なだけだ。


「君ならいずれ相応しい相手を見つけられるだろう。何も焦る必要はないさ」


「でも私、お姉ちゃんと比べて魅力ないのかなって思って。近所の男の子からも、チビとかガキとか言われていつもバカにされるんです」


「そんなことはないよ。僕からすれば、君はとても可愛い女の子だ」


「そうですか? えへへ、先生にそんな風に言われると照れちゃいます!」


 シリカがはにかみながら笑う。表情は豊かで愛らしく、言動は素直で飾り気がない。この純真さこそが彼女の魅力だとレイクは思った。

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