尾行

身ノ程知ラズ

尾行

私が夜道を歩いているととある男が横切った

一見パッとしない、どこにでもいるような風貌だったが

妙にその男のことが気になり尾行することを決めた

彼を追っているとなぜか少し早歩きをしているような気がした

私も速度を上げる、足音が大きくなるにもかかわらず

彼は私に気づくことはなかった

彼はその後も早歩きでどこかへ向かう

こんな真夜中に急用だろうか、私も急いで後を追う

すると彼は自宅に到着したようだった

無駄にデカい家に住みやがって、と嫉妬を隠しきれず舌打ちを

したがそれでも彼は気づかない

そうだ、と思い切って彼の家の中に入ることを決意した

側から見ればただのおかしなやつだ、実際そうなのだが

そして彼が家に入った、隙を見て私もドアが閉まらぬうちに

こっそりと家に侵入した、それでも彼は気づかない

バカだな、と軽蔑しつつ家の中でも彼を追う

彼は一目散にベッドに飛び込んで毛布にくるまった

何かに怯えながら、肩を震わせているのが毛布越しにも伝わる

なぜこんなに怯えているんだろう、答えは明明白白だった

そりゃそうだろう、私を殺しているんだから

私は家に侵入したところでどうすることもできない

ただ私は彼が殺人鬼という重荷を背負って生きていくのを

この目で確かめるのが楽しみで仕方がなかった

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尾行 身ノ程知ラズ @mizoken

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