第4章 世界で一番、ありがとう

第51話 手紙◆side琴菜◆

よーくんへ


 お元気ですか。


 私は中学生になりました。

 よーくんは、私と12歳違いでどちらも誕生日前だから24歳ですね。もう就職してますか?


 あの洪水で家が壊れて土地もえぐれてしまったため、あの家に住み続けることをあきらめ、私たちはお祖母ちゃんちに住むことにしました。

 父は勤めている会社の近くにアパートを借りて住んでいましたが、勤めてた会社が倒産したので引き払って今は一緒に住んでます。

 父はこの地域の会社に就職し、母もパートに出たので何とか暮らせてます。



 兄は、本当は慈枝よしえさんと一緒の学校に行きたかったのですが、アパートの賃貸料などの経済的な事情からあきらめて、この地域の、かなりレベルの高い公立高校を受け、合格しました。

 もちろん、ものすごく頑張って勉強をしたから合格したんですよ。

 どうしてそんなに頑張っているのかと聞いたら、慈枝さんのおかげで勉強の面白さが分かった、一緒の学校に通えないとしてもここで頑張らないと慈枝さんに申し訳ないから、と言ってました。



 ひいおばあちゃんは、あの翌年に他界しました。

 よーくんと離ればなれになった時、ひいおばあちゃんが一番慰めてくれました。

 ひいおばあちゃんはのぼるさんが死んじゃったことで、身近な人がいなくなることの辛さを知ってたからだと思います。


 ひいおばあちゃんは、いつもよーくんのことを気にしていました。


 だから、ちょっと妬けます。


 そうそう、よーくんが気にしていた、ひいおばあちゃんと昇さんの間で何があったかは、教えてもらえませんでした。



 私の通っている中学校にはプールがありません。だから、近くのスイミングスクールに通っています。

 結構有名な選手が出ているスクールなんですよ。


 高校は、水泳の強豪校に進みたいと思ってます。

 少し調べたところ、隣の市に強豪校があるとのことですので、そちらに進もうと思います。




 私はよーくんから離れたくなかったので、お祖母ちゃんちに住むのは反対でしたが、もう住めないからと説得されてあきらめました。

 そうするほかなかったとはいえ、よーくんと会えなくなってしまって辛いです。

 

 よーくんに無事であること、お祖母ちゃんちに居ることを知らせたかったのですが、母と兄がスマホを水没させてしまいバックアップを取っていなかったため、よーくんの電話番号もメールアドレスも分からなくなってしまい、連絡できなくなってしまいました。


 また、やっと暮らしが落ち着いた9月によーくんちに行ってみましたが、空家になっていました。


 電話番号、メールアドレスがわからない、元住んでた家は空家と、よーくんがどこにいるのか探すことができなくなってしまいました。


 でも、私はあきらめてません。


 よーくんは、私を迎えに来てくれること、たとえ離ればなれになっても探しだして会いくると約束してくれましたが、探し出してくれるのを待つだけではいけないと思います。


 だから、私は水泳で日本一になることを決めました。


 そうすればよーくんが私のことを見つけやすくなると思いますし、よーくんも知ってる蘭華らんかちゃん、ネモちゃん、あいちゃん、雅樹まさきくん達が私に気が付いて、よーくん伝えてくれるかもしれません。


 だから、絶対インターハイで優勝します。



 勉強に疲れたとき、水泳のタイムが思うように伸びない時など、二人で写っている写真のフォトフレームや誕生日のプレゼントでもらったポシェットを抱きしめると、よーくんの“ことちゃんは一人じゃない、頑張れ”っていう声が聞こえるような気がして、勉強を頑張れるし、次の日は良いタイムを出せます。


 あ、練習試合や大会の時はポシェットにフォトフレームを入れて、持って行ってます。


 だから、今の私を支えているのは二人で撮った写真とポシェットです。



 ちょっと恥ずかしいけど、もう一つ大事にしているものがあります。


 それは、二人で暮らしている夢です。


 私が作ったカレーをよーくんがおいしいって食べてる、というところまでは話したことがあると思いますが、言ってないことがあります。


 それは、丸い小さな食卓で向かい合わせで食べていることと、二人とも薬指に指輪をしていることです。



 この夢、何度か見ています。


 最初は初めてよーくんがお昼ご飯を食べに来てくれた日の朝で、一番最近は中学校の入学式の日の朝です。


 もちろん、実現を願ってます。



 取り留めもなく書きましたが、元気でお過ごしください。


 またね。


琴菜ことなより


PS いつか、この手紙を二人で読んで笑い合える日が来ることを祈ってます。

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