第32話 二人の絵

 父さんがヒマとあきらを乗せて帰っていった。


『私たちも行きましょうか』

「はい」


 ことちゃんと後部座席に乗ってシートベルトを締めた。


『断っておくけど後方確認のためにルームミラーで後ろを見るわよ。だからイチャイチャはほどほどにね』


 車が動き出したらことちゃんがもたれてきた。

 しかし、このシートベルトってのは邪魔だね。


『私、この前の国営…お花の公園の絵を描いたら先生に褒められたの」

「そうか、上手に描けたんだね。見せてくれる」

『いいよ』



芳幸よしゆきくん、3年生でしょ。勉強もそろそろ大変なんじゃないの?』

「はい……まあ、そういうところです」

『休日は、勉強と家事で一日が終わってしまうんじゃないの?』


 そうなんだよね、平日のほうが楽って思うときも。


「……まあ、そこは協力しませんと」

『それは立派だけど、この前の海浜公園の時の“働き”を見てたら、休ませてあげたいって気持ちになるわ』

「そんな、“働き”っていっても皆さんに賛成していただいてますから……」

『それはね、芳幸くんがみんなの要望に合った提案をするからよ。ね、こーちゃん』

『お花の公園楽しかった』

『あと、はやてのことも』


 あれは、意外だった。


『あれは……颯さんが勇気を出したからで、僕の手柄じゃないですよ』

『あの子は誰に似たのかヘタレでね、あれで今までで一番頑張ったんじゃないかしら』


「なんというか、“ハレ”の場でしたし」

『そう、その“ハレ”の場。そういう場でないと頑張れないというのは少し情けないけど、そういう場を作ってくれたのは芳幸くんよ。だからありがとう。ゆっくり休んで』

「こちらこそ……お役に立てて幸いでした」



『着いたわよ、みんな降りて』

『「はい」』


『おかえり、こーちゃん。いらっしゃい、芳幸くん』

『いらっしゃい、芳幸さん。おかえり、こーちゃん』


 呼ぶ順序……まあ、そうでしょうね。


『ただいま、パパ、お兄ちゃん」

「お世話になります。鐘治かねはるさん、颯さん」

『芳幸くん。この前はありがとうね。すごくいい所だったよ。今日はゆっくりしていってくれ』

『今日の晩御飯は、俺と父さんが作ってるんだ』

『大丈夫? うまくできてる? 母さんカーボンはイヤよ』


 カーボン?

 ああ、炭のことね……面白い!


『大丈夫だよ! というか焼き物はないよ!』

『もう少しかかるから芳幸くんはこーちゃんと一緒に休んでてくれ」


『よーくん、私の部屋行こ』

「ことちゃん。先に行って部屋着に着替えたら」

『一緒でもいいよ?』

「まあ、行きなよ」

『うん』


 リビングダイニングに移動した。炭の臭いは感じないからひと安心?


『芳幸さん、意識してる?』

「まあ、そりゃそうだよ。ところで慈枝よしえとはどう?」


 颯さんが赤くなった。そんなに反応しなくても……


『はい。そのメールとか……』

「慈枝は、からかうようなことを言うことはあるけど、優しい子なのは間違いないよ」

『はい』

「だから、デートに誘っても大丈夫だと思うよ」

『はい、ありがとうございます。誘ってみます』

「ファイト!」


 ヘタれ、か。

 でも、僕も数月前まではああだったし……ことちゃんに感謝かな?



『よーくん、いいよ』


 ことちゃんが迎えに来た。


「お邪魔します」

『はい、いらっしゃい』


 例によってベッドに並んで座る。もう間隔や服が触れるとか気にしなくなってる。

 “慣れ”とはおそろしいものだ。


『この前のお花の公園、お花がいっぱいできれいだった。あ、メロンパンもおいしかったよ』

「きれいだったよね。写真はもう少しかかるから」

『待ってる』

「ありがとう」

『これがさっき話した絵』


 一面、空色、中央に男の子と女の子。身長差かあるから、僕とことちゃんだろう。


 ん、空色になんとなく境界があって、境界の一方は一様な空色、もう一方は点描っぽい感じ。


『ここからこっちが空でこっちがネモフィラ』


 やっぱり。そうか点描でネモフィラを表現したんだ。なんというかすごいよ。


「ネモフィラが良く描けてる。みはらしの丘のことや見晴らしの丘が空に繋がっていると感じたことを思い出すよ」

『上手に描けてる?』

「うん、とってもいいよ。この男の子と女の子が僕とことちゃんかな?」

『そう』

「仲良さそうに描けてるね。ちょっと照れくさいかかな」

『よーくんのことかっこよく描きたかったの』

「ことちゃんも可愛く描けてるよ」


 そうだ、宇都宮うつのみやさんの話をしとかなきゃ。

「この前の雨の日に会ったTaoufik(タウフィク)と一緒にいた宇都宮さんだけど、やっぱりTaoufikが好きなんだって」

「あの女の人とお話ししたの?」


 え、圧?


「う、宇都宮さんには聞いてないよ」


「同級生の七重ななえ 和真かずま高屋敷たかやしき すみれさん、Taoufikと僕を入れた4人で勉強をしたり、遊びに行ったりしてるんだけど、ファミレスで勉強会をしたときにいろいろ聞かせてもらったんだ。あ、高屋敷さんは和真の彼女だよ。いつも手を繋いで歩いるよ」


「それでね、Taoufikが勘弁してって言うぐらいに宇都宮さんがいっぱい聞いたんだ」

『女の子ってそういう話が好きよ』


「なんでも、まだTaoufikがアルジェリアにいたときに家族で旅行に来てた宇都宮さんと知り合って、最初は文通から始まったって言ってた」

『文通?』

「よく知らないんだけど、手紙を送りあうんだって」

『メールとかではなくて?』

「手で書いた文字がいいんだって。ちなみに手紙のことを英語で“メール”って言うんだよ」


『ふーん。じゃああの女の人はTaoufikさんの彼女なのね』

「うん。あんなうれしそうなTaoufikは見たことなかったよ」


 すごく安心した顔してる。


『あの二人、もっと仲良くなるといいね』


 まあ、そうだね。



『ご飯だぞー』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 私が小説を書こうと思ったきっかけの一つに、40年近く前、文通相手(異性)にいい所を見せたくて小説を書き始め、便箋2枚ぐらい書いたところで、エたったことがあり、まあそれが再燃したということです。

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