ねえ、これちょうだい

獅子2の16乗

プロローグ

後朝◆side琴菜◆

 目が覚めた。

 カーテンの隙間から、薄紫色の空が見える。


 芳幸よしゆきさん――二人でいるうちは“よーくん”でいいよね――よーくんは、まだ寝てる。


「可愛い顔して寝ちゃって」


 かがみこんで、キス。


 キスし始めたのは半年ぐらい前で、キスするたびに幸せな気分になる。



 昨日はコンサートに行って、その流れでよーくんの部屋にお邪魔した。



 二人で私が作ったご飯を食べて、


 いっぱいキスして、いっぱいいっぱい幸せな気分になって、約束して、そして……



 私は、今が一番幸せ。



 ベッドから降りて、コーヒーを淹れる。



 丸い小さな食卓、コーヒーメーカー、お揃いのお皿やマグカップ。

 よーくん、頑張ったんだ。


 なんだか可愛い。



『こと……』


 あ、寝言。


『ことちゃん……ことちゃん……』


 ……思い出しちゃうよ。


 でも、可愛い。



 最初は、私がチョコをねだって――いま考えると、ずいぶん大胆だったと思う――それから13年。

 本当にいろいろあった。


 不安に押しつぶされそうになったことも、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る