首取り様3
西羽咲 花月
第1話
首を探すゲームのターゲット、イケニエは自分たちではなくなった。
だけど慎也と美樹の首は戻ってきていない。
それを確認した佳奈、春香、大輔、明宏の4人は地蔵へとやってきていた。
「ちょっと、あれ見て!」
地蔵が近づいてきたとき春香が叫んで指を刺した。
その先に見える地蔵は影が濃く、今までとはなにか違うことがすぐにわかった。
「首が増えてる!」
4人が地蔵の目の前まで到着したとき明宏が青ざめた顔で言った。
地蔵の首は慎也と美樹以外にもう1人の首がついているのだ。
固く目を閉じているその顔は見たことのない男の顔で、それはつまり現在イケニエになっている人たちがすでに首探しを失敗したことを意味していた。
「嘘だろ。こんなに早く次の首がつくなんて」
明宏が地蔵の顔をから視線をそらしてつぶやく。
3人目の地蔵になってしまった人も、美樹と同じように胴体だけ生きているのだと思うと、ジッと見ていられなかった。
「本当にしっかり探したのかよ。最初の頃は黒い化け物だって弱くて、簡単に探せたはずだ!」
大輔がツバを飛ばして文句を言う。
しかし、文句を言うべき相手は誰なのかわからないままだ。
「無茶言っちゃダメだよ大輔。次の人たちはもしかしたら女子だけかもしれないし、大輔や慎也みたいに喧嘩に強い人ばかりでもないんだから」
春香が慌ててたしなめている。
「もしも、昨日の夜のうちに首を探していた全員が黒い化け物に殺されていたとしたら、どうなるんだろう?」
ふと佳奈が思ったことをそのまま口に出してしまった。
佳奈の言葉に他の3人は黙り込み、呼吸をするのも忘れてしまった。
もしも昨日のうちに全員死んでいたら?
黒い化け物に負わされた傷は現実で、翌日以降も引きずっていくことになる。
佳奈の視線は自然と怪我が治りきっていない大輔へ向かった。
傷はもう塞がってきたようだけれど、今でも無茶な動きはできない。
「全員死んでいたら、きっとまた違うイケニエを探すことになるんだと思う」
沈黙を破ったのは明宏だった。
明宏はジッと3人目の地蔵の顔を見つめている。
年齢はきっと自分たちと同じくらい。
見覚えがないか記憶をたどっているけれど、やはり地蔵の首についた顔は知らない人物だった。
「僕たちがイケニエから開放されても、イケニエ事態はなくならなかったように」
ザァッと4人の間に強い風が吹き抜けていった。
「どうにかして慎也と美樹の首だけでも元に戻さないと」
佳奈は目の奥にグッと力を込めて涙を押し込めた。
新しくついた首のこと、新しくイケニエになった人たちのことはもちろん気になる。
けれど、今は2人の首を戻すことが1番だった。
「どうする? どこを探す?」
大輔からの質問に明宏は顎に手を当てて考え込んだ。
首を元に戻す方法がどこかに書かれているとすれば、それはネット上か図書館だ。
「首を見つけた場所を、もう1度探してみるっていうのはどうかな?」
明宏の言葉は意外なものだった。
自分たちはすでに何度も首を見つけた場所へ行き、そこでガイコツを見つけているのだ。
「どうしてまたそんなことをするつもりなの?」
春香に聞かれて明宏は「忘れたのか? 夢の中の影に言われたじゃないか」
それは前回明宏が首を取られたときのことだった。
夢の中で首を切られるとき、金縛りにあって動くことはできないが、相手に質問することはできるのだ。
そこで明宏は相手から『首のあった場所を探せ』と助言を受けていた。
そして空き地内では石碑を見つけているのだ。
「そういえば、あの石碑ももっとしっかり読んでおけばよかったよね」
春香はそう言って下唇を噛み締めた。
空き地の奥にあった石碑は随分と汚れていて、掘られた文字は土に埋もれて隠れてしまっていたのだ。
それでもある程度読んでみたが、石碑の周辺まで探すことはしなかった。
きっと心が焦っていたのだろう。
しかしイケニエではなくなった今、時間だけはたくさんある。
明宏が提案したように首のあった場所をもう1度探すことは可能だった。
そこになにもヒントがないようなら、また別の場所を探すことだってできる。
☆☆☆
それから4人は空き地へやってきていた。
石碑があった場所へと足を進めるけれど、相変わらず荒れ放題で草が足に絡みついてきて歩きにくい。
「この草を刈ればまたなにか見つけることができるかもしれねぇな」
大輔は草木をうっとうしそうにかき分けて前へ進んでいる。
時々足が痛むのか引きずる素振りを見せているけれど、今はとりあえず大丈夫そうだ。
「石碑があった!」
明宏の声に全員が集まった。
そこには前回見つけた石碑がしっかりと立っていた。
「周辺も含めてしっかり調べよう」
明宏の言葉に他の3人が頷く。
この空き地全体の草刈りをすることは難しいけれど、石碑の周辺だけなら簡単に掃除することができる。
春香と佳奈の2人は素手のまま伸びた草を引き抜いていった。
幸い伸びている草はどれも手を切るようなものではなく、地面も柔らかくて根っこごとするすると抜けていく。
そうして石碑周辺が少しキレイになったところで、明宏がなにかを見つけた。
「これを見てくれ!」
確認してみると、石碑の裏側にもなにか文字が掘られているのがわかった。
しかしそれも土で埋もれて読むことができない。
明宏が手で土を払って中腰になってそこに書かれている文章を読み始めた。
「明治○○年……イケニエを……くそっ、読めないな」
石碑は随分と古いもののようで、文字は長年の風雨にさらされて削られてしまっている。
しかし、その中には昔の年号とイケニエという言葉、そしてこの街の名前が書かれていることが理解できた。
それらの単語を組み合わせ手考えてみると、ある恐ろしい事実が浮かび上がってくる。
「これってもしかして、大昔はこの街でイケニエ制度があったってことじゃない?」
青ざめた顔で佳奈がつぶやく。
明宏は真剣な表情で大きく頷いた。
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