第24話 忘れないで欲しい痛み

洗顔などを終えてモフモフ、ツヤツヤエルフ神獣と寝具の上で戯れているとクロキがやってきた。

「きたか……」神獣はげんなり。

結界は解かれているのかズカズカとクロキが入ってきて、トキにぐっと唇と唇を強く押し付ける。

「昨夜夢見の術でまあ、茶を飲まなかった場合をこいつなりに体感したらしいが、これは、トキとは反対方向だったらしいなあ」

頭をブルブル振って余計な毛を落とす。

クロキ、おまえ、許さんからな、と神獣が小さく唸る。

一体、クロキの夢ではどうなったのか。


水底の光の流れる幻想的な場所。

いまではうつくしい、と思える。そんな感覚は全てトキが、教えてくれた。

ああ、目の前に初めて会った時のやや軽装に見えるが白くて長い生地を垂らした桃色の髪の乙女がいる。俺にあんなに愛おしい手紙をくれた、可憐な、まだ、男を知らないトキ。


仮面を取った。瞳や表情を隠すためにつけていたに過ぎない。トキは体を、よじって何かに耐えている。この頃から自分に欲情していたと言っていた。一緒に馬車に乗る。屋敷を案内する。入浴と就寝を着替えもせずに待った。

そして、深夜一時。

あの時のやり取りのまま、トキに近づく。

ただ一つ違うのは、初夜でトキという美しい花を自らの手で散らしたこと。

とても、愛おしかった。大切に大切に抱いた。

トキは痛みにクロキに憎しみめいた感情を抱いただろう。全ての反応が愛おしい。

トキはずっと静かだったが。声を上げる時は初めての試み全てに反応する時。

全てを述べてやりたい。だが、心の中にしまっておきたい。これは、夢だ。俺の願望だ。

こんなに苦しそうな顔を、あの月明かりの夜に俺はトキに強いたのかもしれない。だがそれも愛おしい。

目が覚めて、着替えて、洗顔をすまし、あまり好きではない鏡を見てから本物の、ちがう抱き方をしたトキに会いに行く。果たしてどちらがトキを強く愛せただろう。

とにかく、初夜でトキを抱けたのは、心地よかった。

濡れた場所に躊躇なく差し込まれる指。ひりつく痛みに泣くトキ。だんだんと指を増やせるほどほぐれるがきつく締め付けられる中。

醜いぞ、あらかじめ断っておいた自分の体を露わにする。それでもトキは嫌な顔ひとつしなかった。水を飲ませながら何度もほぐした。

(たぶんはやいだろうな、だが、夢なればこそ)

ゆっくりと進めた。トキが言われるまま、されるがままに、苦しそうに受け入れる。それが不思議だ。進めていくと、いたみと苦しみを訴える。

だいじょうぶ、ぜんぶ入る。

んっ、ふっ、う、んん!!

体をよじって逃げようとするトキの細い腰を掴んで引き戻す。

トキが声をあげる。

「初めては、ほんとうは、こういうふうにも抱きたかったんだ、トキ」

いたいです、とちいさく言う。

「その痛み、忘れないでいてほしいと思う自分がいる。わるいな、トキ」

動かさず、繋がるだけで、夢の中の初夜は過ぎた。

抜く時も、トキは苦しそうに痛そうにした。

今のトキを、抱きしめてもいいのか?

愛を与えられなかった自分が、こんなに相手を愛おしいと思う。

そこで、目が覚めたので、たまったものではない。

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