幼馴染の婚約者を寝取られた挙句、聖女の義姉諸共追放されたので裏切った連中が滅亡していくのを眺めていることにした。

サドガワイツキ

前編・俺達を追放した王国は滅びてね、すぐでいいよ!

第1話 寝取られ、婚約破棄、追放。

 

赤い絨毯の如かれた白煉瓦造りの荘厳な造りの城の広間―――国王の謁見の間で事は起こった。

 突き飛ばされて地面に伏せる金髪の女性を、白銀の髪を逆立てた顔の良い青年と薄紫の髪の美女が見下ろしているながら罵っている。


「よくも今まで聖女だなどと俺を謀ったな、このクズ女め!!」


「全くですわ。私を差し置いて偽りの聖女として甘い汁を啜っていただなんて、卑しい女ですこと」


 ―――誰が卑しか女ばいだ!!


 俺は我慢できず、倒れ伏した女性に駆け寄り、助け起こす。


「義姉上!!大丈夫ですか」


「ユーマ……!」


 悲しみの涙を浮かべているのこの女性は俺の敬愛する義姉上でありこの国を守護する聖女、ディアナ・サザランド。

 生まれは農民の家だが幼い頃に聖女としての資質を見出され、俺の家であるサザランド家の養子になった人だ。

 いつでも優しく、常に慈悲の心に満ちたあたたかい陽の光のような女性。貴族社会や、強欲な家族との軋轢に疲れ切った俺にとっては心休まる場所を与えてくれた人であり、この人が居なかったら俺の心根は歪んでいたに違いない。


 ―――そして今、こちらを見下ろしているこの国の王位後継者であるセドリック王子の婚約者でもある……いや、あった、かな。


「フンッ、貴様との婚約は破棄する。そして―――このリリアンを私の婚約者とすることを宣誓するぞ!!」


 おぉっ、と周囲の貴族や王族たちが喜びの声を上げている。

 そんな王子にべったりと身体を寄せている女も俺は良く知っている。リリアン・ポルトマン―――俺の幼馴染で婚約者で大臣の娘でもある由緒正しい血筋の娘だ。

 貴族の女性らしく豪奢なドレスで着飾り、大きく広げたその胸元は―――豊満であった。

 リリアンは最近になって聖女教会によって聖女に認定された。

 義姉上の2倍以上の魔力を持ち家柄も申し分ないという事で王子はリリアンに手を出し、リリアンもあっさりと俺を裏切りこの王子に鞍替えした模様。

 幼馴染が寝取られるのは自然の真理みたいなものだから仕方ないとはいえ、実際にヤられると複雑だ。物心つく時から一緒にいた幼馴染なのに意外と簡単に裏切るんだなと一周回って冷静になるわ。

 姉弟揃って婚約を破棄された形になる、酷い話だな。

 そして俺とリリアンの婚約に直接かかわる人間……俺の糞親父を含め俺の家族もポルトマンの人達も、国王も異を唱えないということは、すべて織り込み済みということなのだろう。―――とんだ茶番だな。


 これまで義姉上が俺や“兄弟”と共に繰り広げてきた救国の冒険を何だと思ってるのか?

 リリアンは魔力量はあるかもしれないが、この国のために何かを成したわけではないというのに……!!そも、教会が宣言した聖女認定も疑わしいものだ。

 そして何より、婚約者を持つ女だというのに手を出すこの王子も許せない。

 大体、幾つもの冒険や戦いを越えてこの国に平和をもたらしたのは義姉上なんだぞ!!


「お前のような薄汚いドブネズミを抱かなくてよかったと心底思うぞ、ディアナ。俺の前から消え失せ、そして二度と姿を見せるな」


「セ、セドリック様…?!何故ですか!私が何をしたというのです?!私はこの国のために―――」


 義姉上が悲痛な叫びをあげるが、国のために献身的に尽くしてきていきなりの掌返し、義姉上には何の落ち度もないし。

 ……聖女が王子と結婚するのはこの国の古くからの習わし、とはいえそれでも真剣に義姉上がセドリックを愛していたのは知っていた。確かに、リリアンに熱を上げる前は結構真面目に国の事を憂いる人物だったしな。


「何故、だと?それは先ほどもいったであろう。真の聖女であるリリアンこそが俺の妻に相応しい。真の愛とは真の聖女とともに育まれるのだ!!

 何より貴様のようなまがい物、それも平民生まれの卑しい血を王家に入れるわけにはいかん。お前のような下等市民と違い、リリアンは大臣の一人娘。生れの高貴さから言って違うわ、この下々民めが!!

 お前のような女がこの世に産まれてきたことが間違いだったのだ―――えぇい、何を泣いている見苦しい!目障りだ、貴様は東の開拓地へと流刑に処す!!」


 義姉上が絶望の表情を浮かべている。あまりに唐突に、理不尽にすべてを奪われた。青春のすべてをこの国の平和のために捧げてきたのにこの国の平和な基盤が整ったらこれか。あまりにも惨い。


「あ、あぁぁっ、ううううううっ」


 顔を隠すこともせず、嗚咽を上げる姉上を見た瞬間―――俺の堪忍袋が粉みじんに千切れ飛んだ!!!!!


『よせ大将!』という“兄弟”の声が聞こえたが、俺は止められねえ。

 これには2つの理由がある。義姉上をこれからも傍で守っていくには俺も追放される必要があるし、用済みになったら掌返しをするこのクソ野郎の顔面をブン殴らなければ俺の気が済まないからだ。


「なんだサザランド卿。お前―――がぼはっ?!」


「やかましいアホンダラァ!!義姉上を泣かせやがってこの野郎!!」


 俺は騎士、それも義姉上とともに幾つもの冒険と強大な敵との戦いを経験してきたこの国唯一の竜騎士なのだ。王城でぬくぬくしていただけの王子に負けるはずがない。思いっきり顔面を殴りつけると、バカ王子は鼻から血を吹き出して崩れ落ちた。フン、情けない奴め。


「き、きしゃま~!わらひをられらとほもってプギャッ?!」


「誰だと思ってるかって?掌返して女を捨てるクズ野郎だと思ってるよ!!」


 さらに胸倉を掴んで片手で宙吊りにしつつ、容赦なく殴りつける。


「ぱひゅっ、ひゃめろぉ、えいひぇい、こやちゅをとりゃえりょぉ!!!ふぉ、ふぉうひょふぁふぉうふぇんだい!!」


 衛兵、こやつを捕らえろと言っているのだろう。後、最後の方の言葉は防御魔法展開かな?もう何本も歯が折れて、はがふがと情けない声を出すしかないから何言ってるかわかんねぇよ王子ィ。


「出来るもんならやってみろ、城の衛兵程度で俺に近づくことが出来ると思うなッ!!!

 これは義姉上の分!これも義姉上の分!これも、これも、これもこれもこれも!義姉上の分だァーッ!お前如きの防御魔法など無駄無駄無駄無駄ッ!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄アァッ!!」


 そのまま王子の顔面を拳の連打で滅多打ち。

 ちなみにリリアンは腰を抜かしてガクガクと震えているが、婚約者がいる身でありながら裏切って他の男と通じるとか許せないのでいずれ落とし前はつけさせてやるからな。幼馴染だからと言って裏切った奴に慈悲はない。

 他にも婚約破棄に関わった連中はいずれけじめつけさせなきゃな。

 そんな事を考えている間も俺は王子を殴り続けているが、城の衛兵も近づけずにいた……俺が雷の魔力を放出し続けているからで、気の弱い衛兵や練度が低い衛兵は泡を吹いて即気絶。弱い弱い。そんなによわっちくて王国最強の騎士の女を寝取るとか頭お花畑だったのかな?


「や、やめよサザランド卿!そのままでは我が息子の顔面がオークのようになってしまう!!」


 唖然と事態をみていた国王が声を上げたので、結構殴ったしこのくらいにしておいてやろうと拳を止めた。

 女をいいように利用して掌返してゴミみたいに捨てる奴への罰なんかこれでも軽いぐらいだが、王子だし命だけはとらないでおいてやる。


「……チッ。このぐらいで勘弁してやるぞクソ王子。―――国王。俺もこの国を去らせてもらう」


 そう言って手を離すと、崩れ落ちた王子の股間がじわっと湿っている。いい年して漏らしてしまうとは情けない。そんな王子の無様な様子をみつつ、国王を睨みながら宣言した。国王に対しても最早敬語を使わない。


「むぐっ?!」


 俺の言葉に苦虫をかみつぶしたような顔をする国王。……当然だ。曲がりなりにも王国最強の騎士である俺という存在はこの不敬をもっても手元に留めおきたかったのだろうしかしこんな扱いを受けてまで国に尽くす奴いないとおもうけど浅はかすぎやしないか?


「この場で反旗を翻さないだけマシだと思ってほしいね。俺は義姉上の傍で義姉上をお守りする。――――邪魔するなら誰であろうと容赦はしない。」


 俺の足元では小便漏らし……もといセドリック王子が、こいつをほろしぇと喚き散らしているが無視する。


「……わかった。そなたと正面からぶつかり合えるものなどここにはおらん。ユーマ・サザランド。そなたの爵位をはく奪し、サザランド家はお前の弟が家督を継ぐものとする。後の事はこれまでの忠勤に免じて不問に処す。今後は好きにするが良い」


 深いため息とともに国王が宣言したことにより、俺は義姉上と一緒に流刑地に行けることになった。やったネ!!何より俺はもう、義姉上のいないこんな国なんか知らん。むしろさっさと滅びたらいいんじゃないかな、かな。

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