第9話 快適な環境作り

 玲奈が洗濯物を干している間に俺は軽く掃き掃除を行う。

 業者さんが来るまでの間に、と思っていたものは案外早く終わった。普段から玲奈がこまめに掃除していただろうから、そもそもゴミが少ない。

 洗濯物を干し終えた玲奈が戻ってきて、二人でスーパーのチラシを眺めていたらインターホンが鳴った。


「あ、来たみたい」

「だな。行くか」


 二人で手を繋いで玄関まで行き、扉を開けると若い業者のお兄さんが立っていた。

 後ろには昨日俺たちが買った多くの家具家電が見えて、それらを運び込む業者の人たちも待機している。

 とりあえず玄関扉は最大に開けて固定し、業者の人にいろいろ聞きながら運び入れを手伝うことにした。

 部屋に入れさえすれば後は自分たちでどうとでもできる。トラックを見る限り、他にも行かなくてはならない家もあるだろうからあまり長時間ここで拘束するわけにもいかない。

 クイーンベッドとかそういう大きくて二階以上に運ばなくてはいけないものは業者の人にお願いし、俺と玲奈は業者の人一人に手伝ってもらいながら一階で使う家具家電を運び入れる。

 全員で協力すれば早いもので、一時間もする頃にはすべての家具家電が家の中に運び込まれる。

 配置も手伝ってくれると申し出てくれたのだが、エアコンとかそういう取り付けに専門的な知識と技術が必要なものの設置だけ手伝ってもらうだけで充分だ。

 その作業も終わり、お礼を言ってお茶とお菓子を渡すと、業者の人たちもお礼を言いながら帰っていく。

 さて、と。ここからはまた肉体労働のお時間だ。


「どこから始めるよ」

「うーん……私はお姉ちゃんの部屋を整えるから、隼人は自分の部屋を好みにしていいよ」

「おっけーありがと」


 そんなわけで、俺は家具などが運び込まれた自分の部屋に向かう。

 途中でふと思ったのが、ベッドとかは玲奈の手を借りて設置する必要があるんじゃないかということだけど、買った時にそこまで深く見てなかったから気づかなかったが組立式になっていて、これなら一人でも余裕で設置できる。

 窓の位置を確認して日差しの入り具合を計算し、適切な位置を見極めてベッドを配置する。

 それが終われば、万が一地震が起きたときに備えて危なくない位置にタンスを置き本棚を置き、それから冷蔵庫を置いた。ついでにお気に入りのジュースでも冷やしとこ。

 机を配置し、パソコンとモニターを置いて、それから椅子を置けばこれで大体俺の部屋は完成かな。実家よりも豪華な内装になった気がする……じゃないな。事実として実家よりも豪華だ。

 これだけのものを揃えてくれた玲奈には本当に感謝しつつ、あっちはどんな様子かを確認するために部屋を出る。

 と、そこで向かいの部屋から玲奈が出てきた。


「あれ、お姉さんの部屋を弄ってたんじゃ?」

「終わったから、隼人が買ってくれたいろいろな家電を自分の部屋に入れてたんだ」


 あぁ、なるほど。手際が良いことで。


「隼人も終わったの?」

「うん。ちょうど良い感じになった」

「そっか。じゃあ、私たち二人の愛の部屋を作り上げようか」


 その言い方は事実ではあるんだけど、やっぱりちょっと照れる。

 玲奈と二人、三階の大部屋に。

 ある程度は業者さんがいい感じの場所に置いてくれているから、後はもう細かな調整って状態になっているんだけど、やっぱりこういう細かな調整が楽しいと思うんだ。

 さて、早速取りかかるとしようか。


「まずベッドの場所を決めるか」

「壁際がいい!」

「壁際? クイーンベッドならどーんと真ん中に置くのもいいんじゃないか?」

「そうだけど……でもさ、壁際だと一緒に寝たときより一層密着できるじゃない?」


 そう言われてみると……一理ある。

 王道の真ん中か、それとも壁と玲奈に挟まれた心地よい空間か。

 どちらを取るかと選択肢を並べられて……後者だな。


「壁際に置くか」

「そうしよう! あ、これも分解して組み立てできるやつだ」


 どうやら玲奈もベッドが組み立て式だったと知らなかったみたいだ。とことんよく似ている俺たちだな、なんて思う。

 クイーンベッドを壁際に運んで組み立て、広々と空いたスペースにはマッサージチェアやらどこから持ってきたのかバランスボールやらそういうのを置く。いつの間に買ったのか体幹か何かを鍛える電動器具みたいなものまであるし。

 で、テレビを置いてパソコンなんかも置いたらこれで完成。

 うん、すっごくいい部屋になったと思う。


「完成だな」

「だね! 素敵な部屋!」

「マジそれは同意よ」


 どうにか内装いじりは終わった。いやー、中々に大変だった。

 ずいぶんと腕の力を使ったし、なんならバイトの時よりも動いた気がする。

 さてさてこれで本格的に同棲生活を始めることができる。あとは役所に書類云々を手続きしてもらえばオッケー。

 気づけばお昼を回っているし、何か外で食べてから役所に行くか。

 と、思っていたら後ろから玲奈が抱きついてきた。


「ねぇ隼人。ゴールデンウィークって役所、開いてるの?」

「あ、そういえば」


 開いているんだろうか? すっかり忘れていた。


「そういうの、休みが明けてからでもいいんじゃない? 私も一緒について行くから」

「あー、そうするかな?」

「それがいいと思うよ。大学も休み明けに一緒に変更手続きすればいいんだし。……だからさ」


 トン、と体が押されてベッドに倒れ込んでしまった。

 そこに玲奈が服のボタンを外しながら覆い被さってくる。


「せっかくなんだしさ、恋人らしいこと……しよう?」


 甘い声音でそんなことを言われてしまっては断れないって。

 黙って頷き、目を閉じて唇を重ね合わせた。

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