野狂篁(2)
小野篁の屋敷は、
内裏から見て北東は
屋敷といっても、妻と共に暮らしているというわけではなかった。この時代は結婚している夫婦であっても、同居するということはまず無かったのだ。基本は通い婚であり、夫が妻の屋敷へ赴いていくのが当たり前の風習であった。
そして、篁も例に漏れず妻の屋敷へと、足繁く通っていた。
――――小野篁の
これは当時の風習として、女性は本名を名乗らないという風習があったためである(本名を知るのは、家族と夫のみ)。そのため、平安時代の有名な女性たちも、実は本名ではなかったりする。
また
小野篁も公式記録以外では、
というわけで、篁の妻の名前は、この物語では妻の父親である藤原三守の藤を取って、
物語を篁の妻である藤の話に戻そう。
その夜も、篁はひとり暗い夜道を歩いていた。共として家人などがついていれば、松明をかざして夜道を照らしながら歩いたりしているだろうが、篁はひとりである。
夜道は慣れていた。若い頃から弾正台の役人として、夜の京内の
もう少しで藤の住まう屋敷に着くというところで、少し離れた辻に牛車が立ち往生しているのが見えた。
「どうかなされたのか」
篁は牛車に近づいていくと、その脇に立っていた
牛飼童というのは、牛車を引く牛の世話をする役職の人間のことである。名に
「あなや!」
突然、闇の中から現れた篁に牛飼童はぎょっとした顔をして見せ、驚きの声をあげた。
その顔はまるで幽霊でも見たかのように強張っており、いまにも気を失ってしまいそうな状態だった。
「すまぬ。驚かせてしまったな」
篁が謝ると、ようやく牛飼童は落ち着きを取り戻した。
「どうかなされたのか」
「それがですね……」
落ち着きを取り戻した牛飼童は、ぽつり、ぽつりと話しはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます