47 たかが1人、されど1人

 一行を、白く強い光がいだ。店舗裏手の駐車場に、エンジンの音とともに入って来た光が、乱闘の手を止めさせる。


 感心なことに(?)、麗人れいと一馬かずま江平えびらも、まだ倒れてはいない。ただ、さすがに無傷とはいかなかった。それなりに攻撃をくらって、多少のダメージは負っている。それでも戦闘力を失うことなく抵抗を続けているのは、人数と武器というハンデを考えれば、よくもちこたえていると言えた。


 エンジンの音が止められる前から、それが誰なのか、麗人はとっくに知っていた。ライトを消し、若い男がバイクから降りた。黒いヘルメットを脱ぐ。

 ――黒川くろかわだった。かろうじて届く外灯の光に、その顔が映る。さすがにサングラスは外しているものの、ふてぶてしく見える表情はいつも通りで、むしろこの状況では心強くさえ見える。口もとに浮かんでいるように見えた影は、やはりあざのようだった。


「よう。やってんなあ」

 にや、と笑う。いつもと変わらない表情。落ち込んだり、傷ついた様子はない。知らない人には好戦的としか見えないだろう。実際好戦的な男なので、間違いではないのだが。


真打しんうちが来たか」

 江平がつぶやく。

「……っせえんだよ。待ちきれなくて、先に始めてたぜ」

 心の奥に安堵が広がるのを抑えられず、一馬はつい憎まれ口をたたいた。それでもまだ倍以上の人数差があるのに、殴り合いでこの男が味方だという安心感は巨大である。というより、麗人と黒川が揃いさえすれば、このふたりだけで50人くらいの敵は倒せるのではないかという気がする。もちろんその場合「殴り合い」とはいわないだろうが。


「そいつぁ悪かったな」

 悪いと思ってなさそうな反応で、黒川は悠然と、バイクウェアのジャケットを脱いだ。Tシャツ姿で、指なしの薄手のグローブをはめ直す。


 麗人は何も言わない。一瞬だけ、目を合わせる。それだけで十分だった。あとは黙って、黒川が身支度を終えるのを待つ。


 どういうわけか、タカたちもなんとなく待つ流れになってしまった。新参の男からは「強そう」な空気があふれていて、それならばさっさと潰してしまえばよさそうなものなのだが、なぜか手を出しかねてしまう。


「それにしても、よくここがわかったな」

「GPS」

 一馬の疑問に、言葉少なに黒川は答え、麗人が「そーゆーこと」とスマホを軽く振ってみせた。麗人はスマホのGPSを作動させていたのだ。自分の居所を黒川に教えるために。自分の居所にタカがいるのだと教えるために。


 黒川はひとつうなずくと、外灯の光で仲間たちを見回して、苦笑した。

「みんな、なかなか男前なツラになったじゃねえか」

「あっははは」

「お互いにな」

 この状況で麗人が明るい声を上げて笑い、一馬は頬をぬぐって反撃した。それぞれに、それなりの戦果をあげた代償として、血がにじんでいたり泥まみれになっていたりと、確かに皮肉られるだけのことはあった。黒川も含めて。


「それにしても、盛り上がったところで上手にオイシく登場したなぁ。ムード満点で」

 麗人のふざけに、黒川はおもしろくもなさそうに言い返した。

「お前が好きなのは、ムードよりもヌードだろ」

「ブはっ」

 耐えられず江平が吹き出したのを機に、コスプレ高校生たちはどっと笑いだした。言い出した黒川も、後からだんだんおかしくなってきたらしく、つられるように笑う。


「ちょ、ちょっと、それはないよう、ヒドイな。否定はしないけど」

「しないんかよ」

 とりあえず一馬はツッコミを入れたが、やはり笑ってしまっているので、ツッコミの意義はあまりない。タカたちは、ぽかーんとながめるばかりだった。完全にペースが狂っている。無理もないことだが。


「…………じゃあ、まあ、そんなワケで――」

 ようやく笑いをおさめて、麗人が言った。どんなワケだと全員が思ったが、誰もつっこまない。仲間はこれが自分たちの本来のカラーだとわかっていたし、敵はただあっけにとられてしまっていたのだ。


「――全員そろったところで、より一層、ど派手なショータイムといきますか!」


 勝利を確信した麗人の宣言が、新たな戦闘の幕を切り落とした。それぞれの表情になった4人に、なぜかタカたちは怯みを隠せなかった。たったひとり、人数が増えただけなのに。

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