08 1文字違いの悲劇その2
「……ああ、そう聞いた気もする。噂でしか知らないけど。よくわかったな」
「
野戦服の
「
「誰だ?」
眉毛も動かさず、黒川は
「
「知らん」
「ああー、
一馬と
「……それが被害者の共通点か?」
「そんな気しなぁい?」
「お前にそんな口調で言われると説得力失せるわ」
「あら、いけずぅ♡」
「なにがいけずだ、黙れ」
一馬にぴしゃっと言われて、さほど傷ついた様子もなく、麗人はチーズバーガーをぱくついた。
しかし、確かにな、と思わずにはいられない一馬だった。何件かはニュースになってはいるものの、さすがに被害者のそんな個人的事情までは公表されていない。とはいえ。
「……そのくらいのことは、警察だって把握してるだろう」
なんとなく、不吉な予感が胃の上に乗ってきたように感じ、一馬は先回りするように発言した。
「でしょーね」
あっさりと麗人は肯定した。
「動機、そのへんにあんのかなあ」
どうも
「犯人は何か恨みがあるってことか?」
同じことを感じたのか、黒川がたずね、一馬も警戒しつつ話をつなげた。
「被害者同士にどんなつながりがあるかなんて、それこそ警察がとっくに洗ってるだろう。そもそも……なんだっけ? うちの後輩の親父さんと、そっちの同級生の親父さんと学校の先生と、個人的なつながりなんて、あるのかな」
「実はその人たち、生き別れになった兄弟だったりして……」
「……ノらねえぞ、言っとくが」
麗人のボケに、一馬は冷たく釘を刺し、もっと現実的にありえそうな可能性を考えてみた。
「たとえばおんなじ社会人サークルに所属している、とか?」
「そのような事実があれば、とうに警察に把握されておろうし、ニュースにもなるであろうな」
高校生とは思えない言葉遣いの江平が反応すると、黒川が
「報道されるかどうかは微妙なとこだな。仮にサークルつながりで犯人に狙われているとしたら、ほかのサークル員はとっくに警察がマークして、当人に警告もされてるはずだ。それなら犯人についてももっと情報が警察に上がっているだろうな。それなのにまだ犯行が止まらねえ」
「……ああぁ、やめやめ。ハンバーガーまずくなっちゃう。食べましょ」
4人それぞれに意見をたたかわせた末、話をふった本人がひらひらと手を振って、打ち切りを宣言した。
「話全然変わるけどさあ、ちょっと相談」
チーズバーガーを噛みちぎり、もぐもぐして飲みこんだ後、麗人が不意に、声をひそめて、とんでもないことを言った。
「次のワイ談百物語、いつやる?」
「……………………!」
とっさに固形化した一馬をよそに、ほかの3人はごく自然にスマホやら手帳やらを取り出して、スケジュールのすり合わせを始めている。麗人と黒川は平然と、江平は赤面してぎこちない動きながら。
「金曜日の夕方どう?」
「おれバイト入ってる」
「土曜の日中は都合が悪い。神社の手伝いがある」
「おれもバイトだ。土曜の夜はどうだ」
「かまわぬぞ」
「オレだめ。タマキちゃんとデート」
「そうすっと、日曜か」
「土曜は
「聞いてねえしどうでもいい」
「そっちこそ、最近バイトづめだね」
「バイクのメンテ費用稼ぎてえんだ。日曜の午後なら空いてる」
「私は日曜はな……檀家の法事が3件入っていて、1日空けておけと申し渡されている」
「……カズちゃんはぁ? さっきから全然都合言ってこな」
「店ン中でする話か!」
思わず一馬は、テーブルを叩くように立ち上がり、悪友たちを怒鳴りつけていた。
「なにがワイ談だ! TPOっつうものを考えろ! こっのアホども!」
3人の悪友はぽかんと――否、周囲の客たちまでもがぽかんと、高校生たちの座席を眺めやった。結局のところ、この顔ぶれの中でもっともTPOに欠ける行動に出てしまった一馬である。この際、今までの「ワイ談百物語」にぶうぶう文句を言いつつしっかり参加してきた自分自身のことは、遠い棚に乗せたまま忘れ去っていた。
この店に出禁をくらうことになったら、原因はこの男だろうな……同席する3人の高校生は、ぼんやりとそう思っていた。
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