第24話 一条渚はイジメられたい

「やばい。先生こっち来るって」とギャルが言った。

 3人の足跡。

 トイレからギャルが出て来た。

 ギャル3人は廊下を見渡す。

 先生がいないことに3人はホッとしていた。

 そしてギャル達はぼくを見つけた。

 今の声はお前なの? みたいな視線がこちらに向く。

 はい、そうです。

 心で答えた。

「何なの? お前」

 と髪を茶髪にさせたギャルが言う。

 3人中2人はうぜぇー死ね死ねみたいな顔をしているけど、黒ギャルだけはぼくのことを幽霊にでも会ったような顔をして見つめている。

「もしかして一条を庇ったの?」

 黒ギャルが恐る恐る尋ねた。

 なぜ恐る恐る尋ねるんだろう? なにかぼくの背中に付いてるの? ぼくが怖いの? 

「なんで?」と不思議そうに黒ギャルが尋ねた。

 清楚に見えるけど実は一番遊んでいそうなギャルは興味なさそうにアイホォンをイジり始めた。

 どうしよう? なにか答えを求められている。

 そういえばお笑いで学んだ事がある。攻撃されたら受ける。

「ぼくのこともイジメてください」

 ぼくは言ってみた。

 言ってみたらプロの芸人さんと違って面白くないわ、気持ち悪いわ、っで焦る。

 知識だけあっても面白くはならないものなのである、という事はわかった。

「なにコイツキモい」

 と茶髪ギャルが言う。

 ちなみに全然ウケてない。

「ハイジ何言ってんの?」

 と黒ギャルが言う。

 ハイジ?

 なんでコイツがぼくの名前を知ってるの?

 ぼくは黒ギャルを見た。

 誰?

「えっ? なつきの知り合い? もしかして言ってた初恋の人?」

 清楚そうに見えて一番の遊んでそうなギャルが言う。

「わー、わー」

 黒ギャルが清楚系ギャルの口を手で覆う。

「違げぇーし」

 なつき? そんな知り合いいたっけ? 頭の中の検索エンジンをかけた。

「私」

 とトイレから声が聞こえた。

「好きでイジメられてるの。金木、邪魔しないで」

 と一条渚がぼくの顔を見て言った。

「えっ?」とぼくは驚く。

 一条渚の声を久しぶりに聞いたような気がする。

 いつぶりだろうか?

 いや、そんな事はどうでもいい。

 好きでイジメられてるのか? それなのにぼくは助けてしまったのか。 

 そんな訳あるかバカ。

 好きでイジメられてる奴なんていない。

「コイツもイジメられたいんかよ」と茶髪ギャルが言う。

「次はぼくがイジメられる番なんだから」とぼくが言う。

 このギャグとも言えない発言を突き通す自分のお笑いセンスの無さが悔しい。

 面白くなりてぇー。

「イジメられるの流行っているのかよ」と言いながら茶髪ギャルだけが笑ってくれた。

 笑ってくれると対立しているけど良いヤツに見える。不思議。

「一条渚の事を助けるわけ?」

 黒ギャルが尋ねた。

「ハイジはコイツにされた事を忘れたの?」

 さっきから黒ギャルはぼくの事を知っているっぽい。

 彼女の顔をマジマジと見た。

 見つめていると彼女の黒い頬が少しだけ赤く染まる。

「あっ」とぼくは驚いた。

 ようやく検索エンジンに引っかかったのだ。

「なっちゃん?」

 今、ようやく気付いた。

 幼馴染の女の子である。

 小学校の頃に一条渚が転校してきて餌食になった女の子。

 あの時はクラスの全員がなっちゃんを無視しようって事になったけど、ぼくはそれを拒絶した。

「覚えてくれていたんだ」

 と黒ギャル改め、なっちゃんが言う。

「私のことをちゃんとイジメてくれる?」

 一条渚が泣きつくように茶髪ギャルの腕を掴んだ。

「キモいって」

「ちゃんと私の事を見て」

 と一条渚が言う。

「もうイジメねぇーよ。もうイジメるのしんどい。なつきもそろそろイイだろう? 初恋の人にも会えたんだし」

 と茶髪ギャルが言う

「わー、わー」

 なっちゃんが茶髪ギャルの口を手で覆う。

「だから初恋じゃねぇーし、こんな奴」

「初恋の人のためにイジてたんでしょう? その人がイジメないでくれ、って頼んでんだから、もうイジメは終わりだよね?」

 清楚系ギャルが言う。

 慌ただしくなっちゃんは清楚系ギャルの口も手で覆う。

「初恋じゃねぇーし。好きじゃねぇーし」

「久しぶりに会えたんだから昔から好きでした、って告白しなくちゃ」

 茶髪ギャルが言う。

「うるさい。うるさい」

 なっちゃんが茶髪ギャルと清楚系ギャルの腕を引っ張る。

「もう教室に帰ろう」

 となっちゃんは言った。

「会えたのにライン交換しないの?」

「だからうるさい。別にそんなんじゃないし」

 となっちゃん。

「それじゃあ私がライン交換しよう」

 と清楚系ギャルが言う。

「やめろー」

 となっちゃんが叫んだ。

「ハイジ、それじゃあまたね」

 となっちゃんが二人を引っ張って言った。

「またね」とぼくが言う。

「私はイジメてもらえるの?」

 一条渚が3人の後を付いていく。

「もうイジメねぇーよ」

 となっちゃんが叫んだ。

「えっ」

 一条渚が振り返り、アナタのせいで大切なモノを無くしたじゃない、という顔でぼくを見る。

「どうしてくれるの? 金木のせいで私はまた1人になった」

 コイツだけが本当にイジメられる事を求めている。

 コイツだけがイジメられる事を楽しんでいる。

 誰のためのイジメなんだろう?

 やっぱり、ぼくは一条渚のことが怖かった。

 わからないから怖いんだ。

 でも、わからないから面白い、

「一条さんって本当にイジメられたいの?」

「金木が責任とって」

「なんでイジメられたいの?」

「1人になりたくないの」

「どういうこと?」

「……」

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