第23話 トイレにて

 昔はイジメっ子だった一条渚がギャル三人に囲まれて女子トイレに入って行く。

 中学時代までは誰も彼女に逆らえなかった。

 ある時は暴力を使い、ある時は目に見えない空気を作り、人を支配していたのだ。

 そんな一条渚が高校に入ってからイジメられるようになった。

 それはまるでオスからメスに性転換する金魚ハナダイのような変わりようだった。

 中学三年生の時、七瀬うさぎを助けた。

 その時にイジメっ子の一条渚をやっつけてしまったのだ。

 一条渚の仲間だった連中も彼女から距離を置いた。

 元々、仲間だと思っていた人間も彼女にイジメられるのが怖いから下手に出ていただけだったんだろう。

 一人ぼっちになった一条渚。

 透明感がある色白の美人で少し吊り目が彼女の気の強さを示していた。

 一人ぼっちになっても彼女は下を向かず、真っ直ぐに前を向いていたし、一人ぼっちだからといっても逆にイジメにあっているわけではなかった。

 ただ一人ぼっちだった。

 彼女の心境はどうだったのかはわからない。

 高校生になった彼女は美しい顔立ちを髪で隠し、テンプレートのようなギャルにイジメられている。

 彼女はなぜイジめられることに甘んじていて、ギャルに引っ張られてトイレに付いて行っているんだろうか?

 もしかしたら現在イジメられている責任はぼくにあるのかもしれない。

 中学三年生の時に一条渚をやっつけた事が関係あるのかもしれないし、関係ないのかもしれない。



 ぼくが立ち上げた部活に彼女が入部した。

 ぼくは一条渚の入部を拒否した。

 無理だろう。だってゾンビ子なのだ。

 入部を許したら、たちまち多目的ルーム2はゾンビのエキスに感染してぼく達は肉になる。

 肉になるぐらいならまだマシで、自分もゾンビになって肉を求めて彷徨うはめになるかもしれない。

 だけど入部を許可した部員がいた。

 うさぎである。

「あの人は昔のあの人じゃありません。まったくの別人です」

 七瀬うさぎが言ったのだ。

 ぼくも同じ意見だったけど、一条渚がいつ毒牙を出すのかわからない。

 だから一条渚に近づきたくなかった。

 ましてやうさぎに近づけさせたくなかった。

 その毒牙に一度やられているのだから。

 二度毒牙にやられたらアレルギー反応が過剰に出てしまって死んでしまうのだ。

 そんな危険なことをさせたくなかった。

「大丈夫です。魔界では魔獣に襲われた場所に戻る風習があるんです」

 とうさぎは言った。

「ちょっと待って、高校生になっても魔神の設定生きているの?」

「私は魔神ですよ」

「っで?」

「なぜ魔獣に襲われた場所に戻るのか、っていうと、戻らなくちゃトラウマになって、その道を通れなくなるんです。世界が小さくなるからです。彼女を私は許しているわけじゃないんです。わざわざ世界を小さくしたくないんです」

 たかが道が通れなくなるだけだ。

 遠回りをすればいい。 

 七瀬うさぎはぼくに気を使ったんだと思う。

 当初、五人集まらなければ部活として立ち上げる事ができなかった。

 そして五人目がなかなか見つからなかったのだ。

 見つからなければ部活は作れない。

 部活が作れないってことは世界が小さくなる。

 でも、それはぼくの世界が小さくなるだけで、七瀬うさぎは別の道に行けばいいだけなのだ。

 小説を書くために作った部活である。

 ぼくが別の場所で小説を書く場所を確保すればいいだけの事だった。

 もしかしたらうさぎの事だから、ぼくと一緒にいることができる時間と嫌いな一条渚を受け入れるという事を天秤にかけたのかもしれない。

 そして一条渚は部活に入ることになった。

 各々好きなことをやっているだけの部。

 彼女は入部してダンボールで動物を作っていた。

 なぜダンボールなのか? 

 全てが謎である。

 ちなみに彼女がダンボールで作った動物は今にも動き出しそうなほどのクオリティーが高かった。

 ダンボールだから毛が生えていないし、目も鼻も口も無いのに彼女が作った動物達は動き出しそうだった。

 彼女が作った動物達は悲鳴のような鳴き声を出しそうだったけど、口を持ち合わせていないから鳴かなかなかった。

 彼女が作った動物達はオゾましい物から目を背けるために目をくり抜かれていた。

 彼女の作った動物達は考えることを拒否しているだけで、本当は何かを思い悩んでいるようでもあった。

 そんな可哀想な動物の抜け殻を黙々と彼女は作っていた。

 これを作るために生まれてきたみたいに。

 一条渚のことは気になっていた。

 彼女に隠された謎の部分が小説のアイデアになりそうな気もしていた。

 もっと一条渚のことを知りたい、とぼくは思っていた。 



 犯罪者をリンチするためにギャル3人組は一条渚を連行している様子だった。

 ちなみにギャル3人はぼくの知らない女の子達である。

 茶髪ギャルと黒ギャルと清楚系だけど実は一番遊んでいそうギャル。

 女子の免疫が無かったら喋りにくい系のギャル達である。

 高校の規則がお惣菜のパックに付いている輪ゴムのようにゆるゆるで髪型は自由だけど、ほとんどの生徒は黒髪だった。そんな学校では目立つギャル3人組である。

 彼女達が入って行ったトイレに別の生徒が入ろうとして迂回した。

 近くのトイレまで我慢できそうであれば別のトイレを使った方がいいと判断したんだろう。 

 女子トイレはチンポコを持つ者が入れないアンタッチャプルなスポットである。

 何が行われているかは持つ者は知らない。

 知ってはいけないのだ。

 だけどお前は作家になるんだろう? それじゃあ女子トイレぐらい覗いて経験を積め、とぼくの心の大賢者の声がする。

 嘘。大賢者なんていません。

 ただ知りたいのだ。

 なぜ一条渚はイジメられているのか?

 どんな気持ちなのか? 

 どうやったらイジメ問題を解決できるのか? 

 あるいは解決できないのか? 

 他にも面白いものなら大歓迎、アットホームな職場です。店長のことをお兄ちゃんだと思ってください。じゃんじゃん面白いモノが応募してくることを求む。

 なんだったらコッチから探しに行く。むしろ探さなきゃ見つからない。  

 小説のために知りたかった。

 キャラクターのアイデアに一条渚のことも知りたかった。


 ぼくはトイレを覗く。

 一条渚は3人に囲まれて髪の毛を引っ張られていた。

 それはまるで熟練の尼さんがワカメを取るように気だるそうな姿だった。

 そんな気だるいんだったら海に入るのはやめとけば?

 いやウチ等は海に入らないと食べていけないんです。

 だから仕方なく海に入り、仕方なく体に巻きついたワカメを取っているんですよ。

 それぐらい邪魔くさそうに3人は一条渚の髪の毛を引っ張っていた。

 イジメってイジメている側は楽しいもんだと思っていた。

 そしてイジメている側はイジメていた事なんて覚えていなくて、大人になってから同窓会に現れたイジメられっ子が金持ちになっていて、元イジメっ子が喋りかけたら「学生の頃にお前にイジメられていた、お前の事が嫌いだった」と言われて、俺コイツのことイジメてないのに何言ってんだろう? と首を傾げるのが定番じゃなかったっけ? 

 でもギャル3人はやらなければいけない作業のように髪の毛を引っ張っている。

 何だったら清楚系ギャルはアイフォンをイジリながら一条渚も見ずに、申し訳程度に髪の毛を引っ張っていた。

 その中でも頑張っているのが黒ギャルで、一条渚の髪の毛をグッと引っ張ってトイレの汚い床に倒した。

 ココで正義のヒーローである好奇心旺盛だけが取り柄のぼくが女子トイレに登場する。

 っていうのは、いくらなんでも変態扱いされるだろう。

 いくら好奇心旺盛でも女子トイレには入れない。

 アレを持つ者として心得ているのだ。

 彼女達をトイレから引っ張って来ればいい。

 それじゃあ、どうやって彼女達をトイレから引っ張り出せばいいのか? 

 簡単な事である。

「先生こっちです。女の子がイジメられています」

 ぼくはギャルに見えないように壁に隠れてトイレの中に向かって叫んだ。

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