第26話 事件現場へさぁ行くぞ!

 「しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら大学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら大学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら大学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら大学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学しくじったら退学───」


 レナは爪を噛みながら、今回の任務に強いプレッシャーを感じてガタガタと震えまくっていた。


 先日届いたプリントに記載されていた内容、それは任務失敗の場合は天童レナのみ退学処分となってしまうということ。

 

 血反吐を吐いてようやく入学出来たのに退学なんぞされてたまるか、レナはその反骨精神をバネに今回の任務遂行を強く意識している。


 「よう天童! 先来てたのか!」


 声の聞こえた先へと向くとそこにいたのは、京極姉妹の御三方である。


 「皆さん、今日はよろしくお願いします」


 「レナっちょ先生よこの鬼瞳シノブと任務を共にできる事、大船に乗ったつもりで光栄に思うがいい!」


 「レナちゃんよろしくなの」


 (相変わらず濃い人達だなぁ〜)


 四人が談笑していると、背後からビリビリと痺れるような迫力の号令が響き渡る。


 「何をおしゃべりしている。並べクソガキ共!」

 

 その号令には何がなんでも従わなければならないと感じさせる迫力がある。


 言う通り通り並ぶと号令をかけた教師が自己紹介を始めた。


 「私が今回お前らの任務引率を担当する体育教師のレジーナ・ライニンガーだ!」


 声の主は、今回の試験官と依頼の引率を兼任する体育教師レジーナ・ライニンガー三十歳。


 上下を黒のパンツスーツでキッチリ揃え、服越しでも分かるほど引き締まったアスリートばりの肉体で他国のエージェントを思わせる厳格な雰囲気を纏う黒人女性。


 「誰ですかあのハリウッド俳優顔負けのイケてるレディは」


 「レジーナ先生我が二年竹組の担任だ。元軍人でアメリカの学校で教師もしてた経験もあるめっちゃデキる人なのだ」


 「解説ありがとうございます」


 「私語は慎め便所虫共!」


 「はっ、はい失礼いたしました!」


 「返事はイエスマム、それ以外認めん! 分かったら返事!」


 「イエスマム!」


 「よぉしヒヨッ子のクソガキ共にしては上出来だ。今からはクソをとってただのガキに昇格させてやる!」


 さながら軍の教官、特有の罵倒を織り交ぜながら、生徒達に発破をかける。


 「任務の詳細は車内で話す。まずは乗れ!」


 一同が乗ったのは、観光会社から格安で買い上げた観光バス。


 レジーナはバスガイドのようにトランシーバーをてにしながらバス天井に付けられたモニターを付けて映像を交えながら任務の説明を開始した。


 「今回向かう先は、氷雨市内にある大手複合グループがかつて保有していたショッピングモール【ブライトネスシティ】ここでは、開店初日からモール内に入った人々が突然相次いで失踪するようになった曰くつきの建物だ」


 「開店したばかりなのに、ここの会社の人かわいそうなの」


 「目に浮かぶぞ、奴らの絶望の顔が……」


 テルハとシノブは苦労して開発してようやく開いたモールで事件が起こり閉鎖するしかなかったグループ関係者に同情する。


 「あの、それで行方不明になった人達はいずこへ」 


 レナの質問にレジーナは毅然と答える。


 「状況を考えるなら、被害者達は皆異世界に飛ばされたと考えるのが妥当だろうな」


 「異世界って、剣と魔法のファンタジー世界みたいな感じのですか?」


 レナの発言を聞いていたシノブはそれを即座に否定し答える。


 「いや、恐怖と絶望のホラーサスペンス世界と言った方がいい、異世界で無双などしようもない地獄だ」


 この世界における異世界とは、霊などの怪異的存在がその霊力によって形成した空間異常を指す。


 例えばいくら進んでも終わりが無い階段や某インターネット掲示板で有名な異界駅などもこれに該当する。


 空間にはいくつかのパターンがあり、例えば建物内部と外部の間に霊的空間を形成して隔離するなどがある。


 しかしその場合は、あくまで閉じ込められるだけで外部からも確認可能、失踪したとは言い難い。


 だが今回の事例の場合モール内で集団失踪が起きている事で別のパターンが考えられる。


 それはモール内のどこかに異空間に繋がるゲートがある場合。


 術者によって規模や細かな仕組みなどは異なるが、失踪などの事例は基本このパターンが多い。


 レジーナはこの事を生徒達に丁寧に説明しつつ解決のためにするべき目標を言う。


 「こう言った事例の場合、力の根源たる霊を祓えばこの事象は解決される。まずはそいつを捜索してもらう」


 (なんかアレだな、オカ板とかに書き込んでみたくなってきたな)


 ◇


 場面は変わりアメリカ。


 ここでは現在学園の一年生、フユちゃんこと凍河フユキが三年生イヴリン・ジョンソンの妹となり、日々奮闘していた。


 「ハァ」


 フユキは海外のイヴリン邸に用意された自室で窓を見上げながらため息をついた。


 良くも悪くも破天荒な長女に振り回されており、疲れるばかりである。


 「……映画見よ」


 気分転換にとネット配信サービスを利用して新しく買い替えたスマホを起動した時、あるネットニュースが目に飛び込んだ。


 「なにこれ」


 そのニュースの内容は、心霊スポットとして有名なとある物件が忽然と姿を消したのだという物だった。


 「なに、これ」


 フユキは事件が起きたという現場の写真を見て思わず唖然としてしまった。


 建物があったと思しき場所は地面ごと抉られていてまるでクレーターのようになっていた。


 彼女も名家に生まれた霊能者、故に見ると分かってしまうのだ。


 「……怖い」


 その写真には、長い時間をかけて染み込んだのであろう凄まじい憎悪が目に飛び込んで来たのだ。


 「悲哀愁、発言を許可する。教えて」


 「これはぁ、よくないタイプですねぇ」

 

 悲哀愁はそれに従いフユキに答える。内側から念話で自らの知識を教えた。


 「えっとぉ、上手くは言えないんですけどぉ、これ多分マトモな悪霊とは呼ばない完全な化け物の仕業ですねぇ」


 「なにそれ、もっと分かりやすく教えて」


 「うぅ、酷いですぅ、えっとぉ、生きた人間が霊力で突然変異してしまう事あるじゃないですかぁ」


 「それが?」


 「えっと、えっとぉ〜つまり、死んで霊になったとかじゃなくて、人間が生きたまま怪物になって、でも人間としては既に死んでいて……うぅ、複雑すぎてこれ以上は説明出来ないですぅ、少なくとも実物さえ見れればもっと詳しく説明できるんですけどぉ」


 話を聞いてフユキは考察を始める。


 消えた家の行方、それよりも、そこがどう言う心霊スポットなのかを調べる必要があると、サブスクを閉じて、検索を始めた。


 悲哀愁はそのまま話を続ける。


 「ただ、一つ言えることは」


 「コイツにやられたら、ロクな死に方は出来ないと思いますぅ……」


 ◇


 場面は戻りレナ達、観光バスは高速道路にのったのだが……トラブルが発生した。

 

 「ぬぁぁぁぁ! 渋滞動かねぇ!!」


 レナがイライラマックス状態でヘッドバンキングを始めている。

 

 その理由は高速道路で渋滞が発生、なんの因果か選抜試験の依頼を任された鮮麗白花の生徒が今まさに戦闘中だったのである。


 詳細を確認するべく、レジーナが連絡をとっている。


 「確認がとれた。引率教員によるとこの先よトンネルに怪異が出現するらしい、このままでは我々の任務達成に支障をきたす。ガキどもよ加勢してこい」


 レナはそれを聞くと、窓からバスを飛び出した。


 目が血走らせながら、式神【求道理想具現筆】を発動、黒いインクのブレードを出して、この先のトンネルに全力ダッシュした。

 

 「任務に遅刻、即ち失敗、即ち退学、そんな事、あってたまるかァァァァ!!」


 「へっ! カレンの妹の割には活きがいいじゃねぇか好きだぜそういうの!」


 アトラもそれに続き、妹達に言う。


 「行くぞテメェら! あの一年に遅れんじゃねぇぞ!」


 「わかったなの」


 「承知!」


 その後、四人に囲われてトンネルの怪異は瞬く間に討伐された。


 しかし、それでも渋滞はすぐに解消せず、結局翌日へと日をまたいで目的地に到着することとなったのだった。

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