百合は散らぬが咲き淫れず!

和馬 有佑

一章 鮮麗白花 入学編

第1話 百合を求めていざ行かん。

 ──私は百合が好きだ。

 清らかな乙女達が互いに愛を交わし通じ合う、人類が生み出した至高の芸術。


 キッカケは一目惚れ。

 両親の仕事部屋に隠すように置いてある秘密の本棚を見つけた時のこと。

 そこには両親秘蔵の百合同人誌コレクションが秘められていた。


 ひとたびページを開いた瞬間、私はその花園の様な世界に瞬く間に心を奪われた。

 オトナ向けの薄い本だったからしこたま怒られたけど。


 その日から私は両親と同じ百合の求道者となった。とにかく描かずにはいられなかった。

 理想の百合を追い求め、ひたすら百合同人誌を描きまくった。


 始めは子供の落書きだったけど、段々と画力がついてきた。


 コミケにも積極的に参加した。

 百合の同人誌を買いまくって徹底的にニーズの研究。


 自分の作品を売る時は、家族で出撃!

 私はよく弟に女装コスさせて客引きして自分の作品を売りまくった。


 親にねだってアニメ、ドラマ、映画、漫画、小説、ジャンルを問わずありとあらゆるの百合作品を見まくった。


 気がついた時にはプロデビュー。

 ファンがついたりして人気もそれなりに得ていた。


 中学生の天才漫画家! だなんて、もてはやされもした。

 

 でも、たとえ評価を得ようとも私は未だには理想に追いつけていない。

 画力もまだまだ足りないし、ストーリーの構成力も未熟。

 何よりネックになっているのは、私の描く百合は私の妄想ばっかりでリアリティーが無い。


 理想を表現できなければ、作家と名乗るに値しない。

 ならば、足りなければ付け足すまでの事。

 リアリティーのある百合を追求するため私は趣味と実益を兼ねた取材する事にした。


 取材現場は名家の子女を預かり一人前の淑女へと教育するお嬢様学校、鮮麗白花せんれいびゃっか女学園。

 取材をする為に中学卒業後はこの高校に進学する事にした。


 入学条件は二つある。

 通常の学力試験。

 通常と言っても日本最高峰の超々ハイレベル偏差値で近所のド平凡な市立中学に通う私では入学など夢のまた夢だ。


 担任には「やめとけ、やめとけ」とどっかの殺人鬼の同僚みたいな感じで注意された。


 それともう一つ、霊能力の適正試験。

 この世界には霊能力という特別な力を持った人々が存在している。


 お化けが見えたりそれを祓ったりできる神秘の超能力みたいな感じ。

 要するにリアル異能力学園なのだ。


 私は最初、霊能関係の類とは全く無縁の生活を送っていたけど、とりあえず基礎から勉強する。


 本屋で「ゼロから始める霊能力基礎」という霊能力者向けの教材本を購入してその通りに訓練した。

 そしたら割と簡単に出来た。教科書買ったらその日の内に入学資格をゲット!


 あとは試験当日まで足りない学力を補う為に目を血走らせながら予習を続けた。

 同人誌のを作ってた時にやったセルフカンヅメよりも地獄の勉強会。


 睡魔が来たらハッカ飴を舐めて凌いだ。

 ハッカ飴の効きが悪くなると鼻にワサビチューブを突っ込んで流し込んだ。


 弟には私が寝たら淹れたて熱々のお茶をぶっかけて欲しいと頼んだ。断られたけど。

 とにかく睡眠対策はバッチリだ。


 そして当日、会場では戦場じみた殺伐とした空気が漂う。

 試験官がスタート宣言すると皆が一斉にペンを取り答案用紙と対決する。


 答案は全部埋めた。

 間違いがないか時間ギリギリまで徹底的に見返した。

 とにかく私にできる精一杯を尽くした。

 後は結果を待つのみ。


 そして合格発表の日、試験番号は114514。

 番号を隅から順に探した。

 私はブツブツと自分の番号を言いながら見逃さないように一つ一つ確かめた。

 番号はいいよこいよで覚えていた。


 「いいよこいよ、いいよこいよ、いいよこいよ、いいよこいよ、いいよこいよ……」


 そして見つけた。私の番号を!

 努力が実り、私は地獄よ超難関試験を突破したのだ!


 「よっしっゃオラァァァァ!」


 この時ばかりは喜びのあまり思わず狂喜乱舞した。

 しかし、これは始まりに過ぎない。


 鮮麗白花学園で私は百合を見つける。

 お嬢様学園なのだから少なくとも二、三組ぐらいはいるだろう。


 それにしても試験合格後に苦行から解放された後の眠りは快適だった。

 試験勉強も無く、ワサビも無く、ハッカ飴も無く、普通の生活がここまで快適だという事を完全に忘れていた。


 新天地への期待に胸を膨らませながら試着した制服を鏡で見ている。


 くるっと回ってみたりして目標の学校の制服に身を包む自分を見ると自分の努力が報われた事がよく分かる。


 荷造りも終わり、家族の見送りのもと、私は夢の取材へと旅立つ。


 「行ってきま〜す♪」


 この時の私の脚はとても軽やかで声はいつもよりとても明るく弾んでいた。

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