デジャヴ

映画館の地下室。

全裸のまま困惑している坂田。

鼻血を垂れ流しながら気絶している平田。

あまりの出来事に訳が分からないといった様子の黛。

バスルーム内は混沌と化していた。


「……とりあえず一度ここを出てもらえますか?私もすぐシャワーを終わらせますので。」

「は、はい。わかりました。」


黛は精一杯の声を出し、平田を担いでバスルームを後にする。




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バスルームを出た黛はそのままリビングのソファーに平田を寝かせる。


「とりあえずこれでいいか……。」


彼女の鼻をティッシュで覆い、最低限のケアをする。

未だ起きる気配はなかった。


「なぜこうなった……」


黛は大きな溜息を吐いた。

まさかこんなところでボスと再会するとは思ってもいなかった。

ましてや入浴中に押さえつけてしまった。

あまりにも不敬なことだ。

死してなお罪は償いきれないだろう。


黛は気が重い中、坂田の戻りを待つ。

そんな時だった。


「ん?」


気絶している平田から着信音が鳴り響く。

彼女の胸ポケットから携帯電話を取り出すと、画面には九頭竜の名前が表示されていた。


「九頭竜さんから……?」


正直あまり出る気は無かったが、後の事を考え無理にでも電話に出る。


「もしもし。」


電話に出るが、少しの沈黙が訪れる。

再度声をかけてみる。


「……もしもし?」

「———俺だ。早急にこちらに来てほしい。」


電話越しに聞こえてくる声。

いつもと様子が違うが、ありのままの状況を伝える。


「平田さんは今会話ができる状態ではございません。」


黛は未だに起き上がらない平田を横目に言葉を返す。


(全裸のボスを見て鼻血を出して気絶したんだよな……。)


再び訪れる沈黙。

黛は何故が気まずさを覚えた。


「用済みだ。もういい。」

「申し訳ございません。」


九頭竜のその言葉と共に通話が途絶える。

電話を終え安堵する。




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「珍しく九頭竜さんが焦っていた気がするけど……向こうも何か起きているのか?」

「——————九頭竜がどうしたのですか?」


先ほどの通話のことを考えていると、シャワーを浴び終えた坂田が黛の前に現れる。


(ボスの湯上り姿、初めて見た……)


そんなことを悟られないようにと黛は話始める。


「ボス。先ほどはあってはならぬ失態をお見せしてしまい大変申し訳ございませんでした。」


黛は坂田の前で頭を床に着け、土下座の体勢を表す。

坂田はそんな彼に近づいてしゃがみ込む。


「いえ、今回の件は別にいいのです。それよりも……急な出来事だったもので状況の理解が追い付いていません。教ええいただけますか?」


優しい声色につられるように、黛は顔を上げる。


「わかりました。作戦状況をお伝えさせていただきます。」


ソファに向かい合う二人。

坂田は平田を自身の膝元を枕にするような姿勢で寝かせる。

その光景に目を見開く黛。


「ボス。平田様がご迷惑をおかけして申し訳ございません。こちらで対処いたします。」

「いえ、別にこれくらい問題はありません。彼女が気絶してしまったのは謎ですが……。」


(気絶した原因がボスにあるなんて絶対に言えない……。)


胃がキリキリするような感覚。

黛は苦笑いで会話を続ける。


「まずどこから説明すればよいでしょうか。」

「二人がここに来た理由はなんとなく察しがつきます。私が目的なのですよね?」

「お察しの通り、ただ私達だけではなく、他の幹部達もボスの為に現在行動しております。」


坂田は少し考える素振を見せると、話始める。


「先ほど九頭竜と通話していたようですが、彼は今どこに?」

「詳細は不明ですが、平田様から聞いたのは九頭竜様と冥土様が海辺の洞窟にいるという情報のみです。」

「なるほど……確かに昨日怪しい洞窟の話は聞きました。死体が詰まっている井戸だとか……あっ。」


坂田の「あっ」という声とともに再び考える素振りを見せる坂田。

彼の表情は仮面に隠れていて見ることができないが、黛はいつもと様子が変だと感じて口を開いた。


「ボス?どうかされましたか?」

「いえ……とあることを思い出しました。」

「とあること?」

「ええ、先ほど聖———————。」



「ボ、ぼぼぼぼぼぼbbbbbbボス!?」



突然部屋中に鳴り響く叫び声。

発生源は坂田の膝元からだった。


「平田。ようやく起きましたか。」

「なななな、なぜ私はボスに膝枕を!?あまりの興奮に気絶しちゃいそうです!!夢ですよね?え?」


平田は大声を上げながら坂田に抱き着いていた。

それを見た黛は頭を抱えながらため息を吐く。


「……ボス。」

「大丈夫ですよ。こういうのも私の務めです。」


坂田はそういうと平田の背中を軽く叩く。


「平田。これは夢ではなく現実です。一度落ち着いてください。」


「—————え、夢じゃないのですか……?」


坂田の言葉に、平田は体が石化したかの様に固まる。

黛はそんな彼女を持ち上げ、自身の隣に座らせる。


「平田様。これ以上ボスの前で失態はおやめください。」

「夢じゃ、ない?ボスに膝枕してもらったのも、抱き合ったのも全部現実?」

「抱き合ったというよりは無理矢理貴女が抱き着いた感じに見えましたが……。」

「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


大きな叫び声と共に坂田に土下座する平田。




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「これがデジャヴってやつですか。」

「いや、ちょっと意味が違いますかね……。」




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